第78話:古代遺跡の宝物庫と、守護者の罠
石造りの自動人形と水棲魔獣の奇襲を鮮やかに退けた一葉、二葉、三葉の三姉弟は、さらに古代遺跡の奥へと足を踏み入れていた。
薄暗い通路の壁面に並ぶ松明の跡に三葉が生活魔法で火を灯していくと、その揺らめく明かりに照らし出された光景に二葉が思わず息を呑み、足場を止めた。
「わぁ……! 見て、あっちの広間!」
二葉が指さした先に広がっていたのは、天井がドーム状に大きくくり抜かれた、広大な地下の『宝物庫』だった。
中央には古代の王族が使っていたかのような荘厳な石造りの祭壇があり、その周囲には当時のものと思われる美しい武具や、黄金色の宝箱が無数に積み上げられている。
しかし、その神聖な空間の空気はどこかピリピリと張り詰めており、ただならぬ戦闘の気配が肌を刺すように漂っていた。
「宝箱がいっぱいあって一見するとお宝の山だけど……こういう場所には絶対にかつての防衛トラップが仕掛けられているはずだよ。気をつけて」
三葉は慎重に周囲の魔力反応を観察しながら注意を促す。
「そうね。三葉の言う通りよ。何が起きてもすぐに対応できるようにして進みましょう」
一葉は優雅に身なりを整えながら、静かに、しかし確実な足取りで祭壇へと近づいていく。
その時だった。
中央の祭壇の上に置かれた一際大きな黄金の宝箱が、ギギギ……と重苦しい音を立てて勝手に蓋を持ち上げた。
宝箱の内側から、ギラギラと下品に光る無数の金貨と、不気味な赤い眼球が覗き込む。
中から飛び出してきたのは、金色の宝箱の姿をした異形の魔獣――『ミミック・キング』だった。
さらにその周囲の影から、無数の小さな宝箱の魔物が一斉に「ガチャン!」と巨大な口を開けて現れ、三人を完全に包囲する。
「やっぱり待ち構えていた罠だったんだね! でも、こんな数で囲まれてたまるもんか!」
二葉が素早く身構え、真っ先に最前線へと飛び出した。
「『二生の根張』!」
二葉が古代の硬い石畳にしっかりと足音を響かせると、彼女の足元から目に見えない無数の「根」がスッと広がり、遺跡の堅固な大地と完全に一体化した。
ガガガァァンッ!
突進してきたミミック・キングの凄まじい体当たりが二葉の掲げた木剣を直撃するが、二葉の身体はまるで巨木のように微動だにしない。
衝撃のすべてが足元の広大な大地へと逃がされ、逆にミミック・キングのほうが強烈な反発を受けて体勢を大きく崩した。
「今よ、ひと姉!」
「任せて!」
長女の一葉が優雅に指先を空中で舞わせる。
蔓を巻くように空間を這う指の軌跡によって、周囲から一斉に群がってきた小型ミミックたちの突撃軌道がぐにゃりと歪められ、互いに激しくぶつかり合って自滅していく。
「そして……仕上げは僕がやるよ」
三葉が二葉と一葉が作り出した隙間を縫うように素早く滑り込み、ミミック・キングの背後へと回り込んだ。
そして、その硬質な金色の装甲にそっと自らの素手を触れる。
「『三途の葉落』」
触れられた瞬間、黄金に輝いていた宝箱の魔獣の表面が、凄まじい速度で黒ずみ、恐ろしいサビと風化の現象に侵されていく。
イカれたほどの速さで進行する老朽化。
バリバリッという乾いた音とともに、ミミック・キングの強固な鎧がただの古びた木くずと錆びた鉄くずへと変わり、その場に崩れ落ちた。
小型のミミックたちも三葉の魔力によって次々と枯れ葉のように風化し、サラサラとした灰になって消えていく。
「ふう……宝箱の魔獣なんて驚いたけど、私たちの敵じゃなかったね!」
二葉が根張りのスキルを解除し、汗を拭いながらニカッと元気よく笑った。
「ええ、みんなの息がぴったりだったわ。怪我はなかった?」
一葉が優しく微笑んで二人の体を気遣い、三葉もホッと息をついて頷く。
激しい戦いが終わり、静寂を取り戻した宝物庫の中央。
主を失った祭壇の奥には、さらに地下へと続く新しい階段と、美しく輝く古代の秘宝が静かに眠っていた。
未開の遺跡の探索は、まだ始まったばかり。
三姉弟の冒険は、さらなる深層の謎へと続いていくのだった。
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