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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第71話:王都の視察団と、カフェの平穏

『大樹の護り人』シルヴァンからの指名依頼を無事に完遂し、街へと戻ってきた一葉、二葉、三葉の三姉弟は、再び自分たちの拠点であるブックカフェ『グリーン・リーフ』での日常を取り戻していた。


店内は、いつものように常連客や噂を聞きつけた人々で心地よい賑わいを見せている。


木の温もりが漂う空間に、香ばしい焼き菓子と淹れたてのコーヒーの香りが満ちていた。


「はい、お待たせいたしました! 特製ハーブティーとスコーンのセットです!」


二葉が軽やかな足取りでテーブルの間をすり抜け、焼き立てのスコーンが入った皿と、湯気の立つティーカップを客の前に手際よく並べた。


「いつも助かるよ、二葉ちゃん。この店のハーブティーを飲むと、なんだか体の奥からじわっと元気が湧いてくるんだよね」


常連の男性が満足そうに目を細めて口にすると、二葉は八重歯をのぞかせて元気に微笑んだ。


「ふふっ、お母さんが淹れてくれた特製ブレンドですからね! たっぷり召し上がって、日頃の疲れを吹き消しちゃってください!」


厨房の奥では、母親の葉が穏やかな笑顔を浮かべながらスープの大鍋を静かにかき混ぜ、その隣では父親の一二三が手慣れた手つきでコーヒー豆を煎っている。


二人は温かな眼差しで、忙しく店内を駆け回る子供たちの背中を優しく見守っていた。


「ひと姉、あっちの窓際のテーブル、追加の注文受けてきたよ」


三葉が注文メモを手にカウンターへ戻り、一葉へ声をかけた。


「ありがとう、三葉。すぐ準備するね」


長女の一葉はトレイに手際よくカップを載せながら、ふっと小さく温かな吐息をついた。


「どうしたの、ひと姉? どこか体でも痛むの?」


三葉が少し心配そうに一葉の顔を覗き込む。一葉はゆっくりと首を振り、柔らかく微笑んだ。


「ううん、違うの。ただ……こうしてお店を手伝って、みんなで一緒に過ごす時間が一番落ち着くなあって思ってね」


「……そうだね。Bランクになってからギルドからの指名依頼も増えて外に出ることが多くなったけど、やっぱり三人でこの店にいる時が一番安心するね」


三人が顔を見合わせ、和やかに言葉を交わしていた、まさにその時だった。


ガシャン!


店のドアが壊れんばかりの勢いで乱暴に押し開かれ、乾いた金属音が店内に激しく響き渡った。


心地よい音楽と会話で満たされていた店内が一瞬で静まり返り、冷ややかな緊張感が走る。


足音を荒々しく踏み鳴らして入ってきたのは、派手な金糸の刺繍が施された衣服を身にまとった太っちょの男と、その背後に控える数人の私設騎士たちだった。


男は胸元に大粒の宝石がついた装飾品をジャラジャラと揺らし、不快そうに店内を見回した。


王都から派遣されてきた貴族出身の特別査察官、バルトである。


「フン……ここが最近、くだらん噂になっているBランク冒険者『グリーン・リーフ』の店か。噂に聞いて来てみれば、随分と貧相でちっぽけなカフェだな」


バルトは鼻を鳴らし、汚いものを見るような不躾な視線で店内を見回した。


寛いでいた常連客たちは身を縮め、不快そうに顔を歪める。


一葉は一瞬息を呑んだが、すぐに気持ちを切り替え、努めて穏やかな接客用の笑顔を浮かべて歩み寄った。


「いらっしゃいませ。お客様、お食事でしょうか? お席へご案内いたします」


しかし、バルトはその手を払いのけるように荒々しく振った。


「気安く話しかけるな! 触るんじゃない!」


「……っ」


「注文などしにわざわざ来るか! 私は王立ギルド本部より派遣された特別査察官のバルトだ。調査の報告を聞いて確かめに来てみれば……ハッ、なんだこのガキどもは。おい、正直に吐け。本当は裏で高位の冒険者に大金を積み、功績を買い取ったのだろう?」


バルトの侮蔑に満ちた言葉に、二葉の額に青筋が浮かんだ。


「なっ……何ですって!? 買い取っただなんて、そんな失礼な言いがかり――!」


二葉がカッとなって一歩前に踏み出そうとした、その時。


厨房の奥からすっと影が差し、一二三が二葉の肩を優しく包み込むように押さえて制した。


「二葉、落ち着いて」


「でも、お父さん! こいつ、いきなり入ってきて言いたい放題――」


一二三は二葉を自分の背後にそっとかばうと、柔らかく優しいカフェのマスターとしての佇まいのまま、バルトと向き合った。


「お客様、当店は他のお客様が穏やかな時間を過ごすためのカフェなんです。みんなが気持ちよく過ごせるように、店内での大声や強い言葉はお控えいただけますか?」


「黙れ、店主! たかがカフェの親父が、この私に意見する気か!」


バルトは真っ赤になって顔を膨らませ、一二三を鋭く指さした。


「ええい、怪しい! この店全体が胡散臭いぞ! きっと怪しげな薬物か不法な魔導具を使ってギルドの査察を誤魔化しているに違いない! おい、者共! 店内を片っ端から検分しろ! 厨房の鍋も全部ひっくり返して調べるのだ!」


私設騎士たちが「はっ!」と声を揃え、腰の剣に手をかけながら厨房へと足を踏み出そうとした。


店内には緊迫した空気が走り、二葉と三葉がいつでも木剣とナイフを抜けるよう身構える。


まさに騎士の一人が厨房へと足を踏み入れようとした――その瞬間だった。


「そこまでにしてもらおうか、バルト査察官」


低く重厚な声が店内に響き渡り、再びドアが開いた。


入ってきた人物の姿を見た瞬間、バルトの顔からすっと血の気が引き、私設騎士たちの動きがピタリと止まった。


そこに立っていたのは、銀髪をきっちりと撫でつけた厳格な佇まいの老紳士――王都の冒険者ギルド本部で最高幹部を務める、レオンハルト卿だった。


「レ……レオンハルト卿……!? なぜ、なぜこのような場所にあなたが……!?」


バルトは声を上ずらせ、目を見開いて狼狽した。


胸元の装飾品がガチャガチャと見苦しい音を立てる。


レオンハルト卿はゆっくりと店内へ足を踏み入れると、冷徹な視線をバルトへと向けた。


「お前が私情でこの店に乗り込み、横柄な態度で功績を脅し取ろうとしているという報告を受けたからだ」


「な、何を仰いますか! 私はただ、このBランクの者たちが提出した報告書に嘘偽りがないか、特別査察官として正当な調査を行っていただけで――」


「見苦しいぞ、バルト」


レオンハルト卿が一言冷たく言い放つと、バルトはビクッと体を震わせて言葉を詰まらせた。


「現地での詳細な調査報告、ならびに依頼主からの感謝状は、すでに私の元へと届いている。『グリーン・リーフ』の三姉弟が事態を収束させたことは、疑いようのない明白な事実だ」


レオンハルト卿は一歩バルトへ近づき、その圧倒的な眼圧だけで男を退かせた。


「現場の苦労も知らず、権力を笠に着て若き優秀な冒険者の功績を横取りしようとするなど……ギルドの面汚しめ」


「くッ……しかし! たかがカフェ上がりのガキどもに、そのような大業が成せるはずが……! 何かの間違いです!」


バルトは必死で食い下がろうとしたが、レオンハルト卿は呆れたように小さく首を振った。


「不正を働こうとしていたのは、お前の方だバルト。王都での職務怠慢、私設騎士の不当行使、そして権力乱用による脅迫未遂。……お前の罪状はすでに言い渡されている」


「ひっ……!? ざ、罪状……!?」


「本日をもって、お前を特別査察官の職から永久に解任する。全財産を没収のうえ、過酷な環境で知られる北方採掘場への強制労働送致とする」


「な……ッ!? ざ、採掘場……!? 私が……この私が、あんな泥と埃に塗れた場所で作業をしろというのですか!? そんなの……そんなの死ねと言っているようなものだ!」


バルトは膝から崩れ落ち、顔を真っ白にして絶望の悲鳴を上げた。散々他人を見下していた男が、自らの身勝手な罪によって、一生泥に塗れて働くことになったのだ。


「連れて行け」


レオンハルト卿が短く命じると、同行していた本部の正規騎士たちが素早く踏み込み、崩れ落ちたバルトの両脇を抱え上げた。


「離せ! 私は貴族だぞ! 離せぇぇぇっ……!」


見苦しい絶叫が遠ざかり、パタンとドアが閉じられると、店内に再び穏やかな静けさが戻ってきた。


二葉がフッと鼻を鳴らし、腕を組んで言った。


「ふん! 横柄にして人をバカにするから自業自得だよ!」


レオンハルト卿は一葉たちの方を振り向くと、先ほどまでの冷徹な表情を和らげ、深々と頭を下げた。


「騒がしくしてしまい申し訳なかった、『グリーン・リーフ』の皆さん。本部を代表して深くお詫び申し上げます。君たちの輝かしい実績は、誰にも汚させはしない」


「いえ……レオンハルト卿、助けていただきありがとうございました」


一葉が礼を述べると、レオンハルト卿は満足そうに微笑み、店を去っていった。


騒動が過ぎ去り、店内には再びいつもの温かな空気が戻っていた。


一二三はそっと目を細め、淹れたてのコーヒーが入ったカップをトレイに載せると、緊張がほぐれてホッとしている子供たちの前へと優しく運んだ。


「さあ、みんな。温かいコーヒーが入ったよ。ゆっくり飲んで」


「あ、ありがとう、お父さん」


一葉がカップを手に取り、ゆっくりと口をつける。深みのある温かな味わいが、体に優しく染み渡っていくようだった。


母親の葉も、焼き立てのパンと温かいスープをカウンターに並べながら、優しく微笑んでいる。


「みんな、本当に強くなったわね。自分たちの力で、ちゃんとお店も自分たちの居場所も守れるようになったのね」


「ふふ、お母さん、まだまだこれからだよ! 私たち、もっとすごい冒険者になって、この店をもっと有名にしてみせるんだから!」


二葉が拳を握りしめて胸を張ると、三葉も隣でくすりと笑った。


「ふた姉、あんまり張り切りすぎるとまたお皿割っちゃうよ」


「割らないよ! もう大人だからね!」


二人の無邪気なやり取りを見て、一葉も、そして一二三たちも温かな笑顔に包まれた。


「はは、二人とも仲が良いね。でも、二葉の言う通り、みんなの活躍を僕たちも心から誇りに思っているよ」


一二三は目を細めて子供たちの頭を順番になでた。


嫌がらせや理不尽な圧力を跳ね返し、確かな信頼と実績を積み重ねていく三姉弟。


その根底にあるのは、いつだってこの小さなカフェで過ごす大切な時間だった。


「それじゃあ、気を取り直してお仕事の続きをしようか」


一二三が優しく微笑むと、一葉たちも笑顔で大きく頷いた。


「「おーっ!!」」


カランコロンと、今度は心地よいベルの音が鳴り、新しい客が店へと入ってくる。

「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】(★★★★★)で応援していただけると励みになります!」


前作もあわせてお楽しみいただけると嬉しいです!


前作はこちらから読めます。

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