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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第53話:風の訪れと、密やかな影

朝の冷気を含んだ風が吹き抜ける中、『グリーン・リーフ』の厨房では、香ばしい挽きたてコーヒーの香りと、甘く温かな焼き立ての焼き芋パイの薫香が満ちていた。


「ん〜っ! お母さん、この限定の焼き芋パイ、サクサクで最高に美味しい!」


二葉がカウンター席で焼き立てのパイをほお張りながら、幸せそうに頬を緩ませる。


その胸元には、先日授与されたばかりの銀と金の意匠が輝く「Cランクプレート」が揺れていた。


「ふふ、喜んでもらえて良かったわ。今年は近郊の農家さんからすごく質の良いお芋が届いたのよ」


母の葉が優しい笑みを浮かべ、三人へ温かいハーブティーを注ぎ分ける。


一葉は焼きたてのパイが並ぶ皿へとそっと手をかざし、空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かした。


【一輪の秒芽】——。


手のひらから解き放たれた清廉な緑の保持魔力が、焼き立てのホクホクとした温かさと、香ばしい生地の食感を完璧な状態のまま空間へとしなやかに定着させていく。


「ひと姉の保持魔法、本当に魔力線の乱れがなくなったね。状態を固定する精度が、以前の数倍は向上しているよ」


三葉が瞳を感心そうに細めた。


「王都やアルトリス、サフィールでの実戦を経て、僕たちは『過剰な魔力の乱れを整える』という点で、ほとんど完成形に近づいているのかな?僕の【三途の葉落】による不純物の極小分解、ふた姉の【二生の根張】による大地の脈動の抑え込み、そしてひと姉の【一輪の秒芽】による清浄状態の完全固定。この循環が、生活魔法という枠組みの中で極めて高度に昇華されている証拠だね」


「ふふ、三葉ったら相変わらず分析が細いわね。でも、本当にそうね。三人で知恵を絞ってきたからこそ、ここまで来られたんだと思うわ」


一葉は胸元の緑のペンダントとCランクプレートに愛おしそうに触れた。


昼過ぎ、店の手伝いが一段落したところで、ギルドマスターのヴァルターが訪ねてきた。


「やあ、一葉さん、二葉ちゃん、三葉君。すこし落ち着いているかね?」


「ヴァルターさん! いらっしゃいませ。どうぞお掛けください」


一葉が淹れたてのハーブティーを差し出すと、ヴァルターはそれを一口含み、深く息を吐いた。その表情には、どこか警戒の色が混ざり合っている。


「いつも美味いお茶をありがとう。……実はな、Cランクに昇格した君たちに、ひとつ耳に入れておきたい情報があるのだ」


ヴァルターはカウンターの上に一通の報告書を広げた。


そこに記されているのは、王国北方の山脈地帯にある「旧魔導研究所の跡地」周辺のマップだった。


「北方の旧研究所跡地……ですか?」


三葉が身を乗り出し、話を聞く。


「ああ。実はここ数週間、北方の山林地帯で『動植物の急激な変異現象』が報告されている。木の葉が不自然に黒く変質し、野生の魔物が異様な凶暴性を見せているそうだ」


「黒い変質……凶暴性……」


二葉が眉をひそめる。


「王都の『魔力腐敗症』や、アルトリスの『大魔脈の崩壊』、サフィールの『黒沙汚染』と似ている気配がしますね」


三葉が鉛筆の先を滑らせ、分析を始める。


「報告書を見る限り、発生している現象の魔力パターンが、これまで僕たちが解決してきた事案と共通の不純物反応を示しています。……単なる自然発生の異変ではなく、誰かが意図的に人工的な魔力毒素を撒き散らしている可能性が高いですね」


ヴァルターは重く頷いた。


「三葉君の指摘通りだ。王都で捕縛されたカルゼル子爵の裏には、人造の魔力毒素を研究・開発していた『闇の錬金術師組織』の存在が囁かれている。北方の旧研究所跡地は、その組織の拠点の一つだった場所だ」


「闇の組織……。王都やサフィールで苦しんでいた人たちの裏に、まだそんな存在が残っていたなんて」


一葉の手が、無意識に胸元のペンダントを強く握りしめた。


「まだギルド本部からの正式な指名依頼が出たわけではない。だが、Cランクとなった君たちは、そうした人造毒素や不純物を解体・浄化する上で、王国最強の対抗策となり得る。念のために頭に入れておいてほしいのだ」


「ヴァルターさん、教えてくださりありがとうございます」


一葉は毅然とした瞳でヴァルターを見つめ返した。


「もし、その組織がまたどこかで人々の暮らしや自然を脅かそうとしているなら……私たちは絶対に許しません。私たちが、どんな悪意も綺麗に元通りにしてみせます」


「ああ、頼もしいよ。だが無理はするなよ」


ヴァルターは優しく微笑むと、お茶を飲み干して立ち上がった。


その夜。『グリーン・リーフ』の夕食時。


一葉たちは、ヴァルターから聞いた北方の異変と闇の組織の影について、父・一二三と母・葉に報告していた。


一二三は静かに温かいスープを口にし、重みのある声で語りかけた。


「北方の旧研究所か……。かつての大戦期に、人造の兵器魔導を研究していた不祥の地だね」


「お父さん、知っているの?」


二葉が尋ねると、一二三はゆっくりと頷いた。


「大地や生命の理を無視し、力のみを追求した歪んだ魔導の残骸だよ。そうした悪意の残り香は、放っておけばいずれ周囲の生命を蝕む毒となる。……でも、一葉、二葉、三葉。三人の魔法は、そうした歪みを正す『調和の力』だから、恐れる必要はないよ」


「はい、お父さん!」


母の葉も、三人の手を包み込むように優しく重ね合わせた。


「どんなに強い悪意があっても、慈しむ温かな心には勝てないわ。三人でしっかり手を取り合って進むのよ」


「はい、お母さん!」


一葉、二葉、三葉は互いに顔を見合わせ、力強く頷き合った。

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