表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森羅家の生活魔法は戦闘不能? 〜カフェの雑用と馬鹿にされた三姉弟、Fランクから最強へ駆け上がる〜  作者: いぬの名前はあとむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/15

第5話:常識を破る薬草と、驚愕の鑑定所

「ふぅ……無事に帰ってこられたね。思っていたより足が疲れちゃったかも」


ダンジョンの重厚な鉄の扉を抜け、午後の穏やかな日差しが差し込む街の通りへ足を踏み出した瞬間、三葉は抱えていた麻袋を抱え直し、ほっと息を漏らした。はじめての本格的な探索を無傷で終えた安堵感が、全身の緊張をすーっと解きほぐしていく。


「怪我もなくて大成功だね! ほら見て、この魔石の数!」


二葉が腰のポーチをぽんぽんと叩くと、コロコロと涼やかな音が響いた。最浅層のスライムやゴブリンを三人で協力して倒し、手に入れた小魔石が十数個ほど貯まっている。


「二人とも、本当によく頑張ったね。私の魔法なんて支えでしかなかったのに、しっかり前で戦ってくれて助かったよ。……まずはギルドの受付で買取をお願いしようか。それからお店に戻って、夕方の仕込みを急がないと」


長女の一葉が優しく微笑み、二人のお姉ちゃんらしく頭を撫でる。


冒険者ギルドへと足を踏み入れると、相変わらず酒の匂いと強者たちの怒号に近い話し声が満ちていた。


「素材買取・鑑定窓口」へ向かう三人に、朝と同じく見下すような冷ややかな視線が向けられる。周辺のベテラン冒険者たちがひそひそと嘲笑混じりに囁き合った。


「おい、あのカフェの店員たち、無事に戻ってきたぞ」


「どうせ浅層の入り口でビビッて逃げ帰ってきたんだろ」


「手ぶらじゃないか。あの小さな袋ひとつで何を買い取ってもらうつもりなんだか」


心ない笑い声が聞こえたが、二葉は「ふんっ」と鼻を鳴らして無視した。三葉も手帳に今日の戦果をメモしながら、全く気にした様子を見せない。


「いらっしゃいませ……あ、朝に新規登録をされた森羅さんたちですね」


窓口にいたのは、朝ライセンスを発行してくれた眼鏡の女性職員だった。三人の無事な姿に安心しつつも、どこか心配そうな眼差しを向ける。


「お怪我がなくて何よりです。ですが……本日の買取依頼でしょうか? まだ二時間ほどしか経っていないようですが」


「はい。無理はせず、手前に生えていた薬草と魔石を持ち帰りました。査定をお願いできますか?」


一葉が丁寧にお辞儀をし、麻袋をカウンターへ置いた。


職員は「お預かりしますね」と頷き紐を解く。心の中では『傷んだ薬草が数本と、スライムの核が数個あれば良いほうだろう』と思っていた。Fランクの新人かつ攻撃スキルのない生活魔法使いなら、それが当然の常識だからだ。


しかし、中身をトレイへあけた瞬間――女性職員の手が雷に打たれたように止まった。


「……っ!? こ、これは……!?」


トレイに転がり出たのは、十数個の小魔石と、青々とした瑞々しい葉を蓄えた『魔力草』の束だった。女性職員は目を限界まで見開く。


「な、なんですかこの魔力草は……!? まるで今ダンジョンの奥深くから摘み取られたばかりのような生気……! 根から引き抜かれたのに、濃密な魔力が一滴も揮発していない……!?」


通常、採取された薬草は根から離れた瞬間から急速に劣化する。切り口から魔力が抜け、ギルドに着く頃には効果が半分以下に落ちるのが常識だ。


高精度の回復薬を作るには高額な保冷魔導具や高度な保存魔法が不可欠だった。だが、一葉たちの魔力草は時間の流れが止まっているかのように、最高潮の瑞々しさと魔力を維持していた。


「あの……品質に問題でもありましたか?」


一葉が不安そうに首をかしげる。


「問題どころではありません! 森羅さん、どうやって持ち運んだのですか!? 王都の特注高級保冷袋でも使われたのですか!?」


女性職員が身を乗り出して叫ぶ。その剣幕に周囲の冒険者たちもざわつき始めた。


「いいえ、そんな高価なものは持っていません。摘んだあとに、私の生活魔法【一輪の秒芽ファースト・ブルーム】を掛けただけですが……」


「生活魔法……? 朝『コーヒー豆の品質維持に使う』とおっしゃっていた……?」


「はい。焙煎した豆の香りと鮮度が落ちないように使っている魔法です。薬草も同じ植物なので『収穫直後の状態』を保てるかと思いまして」


一葉が至極当然のように答えると、女性職員は絶句した。豆の鮮度を保つ雑用魔法が、権威たちが喉から手が出るほど欲しがる「鮮度と魔力の完全固定」をあっさり成し遂げているのだ。


「す、すぐに主任鑑定士を呼びます! 動かないでくださいね!」


パニックになった職員は奥の鑑定室へ猛ダッシュで駆け込んでいった。残されたホールに静寂が広がる。野次馬の冒険者たちが、トレイの鮮やかな魔力草と呑気な三姉弟を交互に見つめた。


「おい……一滴も魔力が抜けてねぇぞ……」


「Sランクの採取士が専用箱で持って帰るレベルだぞ、あれ……」


ざわめく中、鑑定室から分厚い眼鏡の老鑑定士が荒い息を吐いて飛び出してきた。拡大鏡で魔力草を舐めるように観察する。


「お、おろろ……! 細胞の一つ一つが摘み取られた瞬間の生気で満ちておる! この極上の状態なら特級ポーションの成功率が跳ね上がり、伝説級の秘薬すら作れるぞ……! 一体誰の仕業じゃ!」


「あ、私たちが持ってきました」


一葉が手を挙げると、老鑑定士は猛然と彼女の手を握りしめた。


「お嬢さん! いや優れた魔法技術士殿! 通常の『五倍』……いや十倍の価格で買い取らせてくれ! 今後もこの品質で納品してくれるなら破格のボーナスを約束する!」


「十倍……!?」


二葉が目を丸くした。駆け出しが二時間の採取で稼げる額としては破格の大金だ。


「ひと姉すごい! これで古いコーヒーミルを新品に買い替えられるね!」


「ふふ、お父さんもきっと喜んでくれるね」


周囲が「高級コーヒーミルだと……!?」とズッコケる中、一葉は書類に署名した。すると静まり返った窓口で、三葉が控えめに老鑑定士の袖を叩いた。


「あの、すみません。道中で倒したスライムの小魔石なんですけど……形が歪んで汚れていたので、僕の【三途の葉落エンド・オブ・リーフ】で余分な不純物を削ぎ落としたんです。これって価値は変わりますか?」


三葉が手のひらに乗せた小魔石。それはゴツゴツした通常の魔石と異なり、不純物が完全に除去され、一流の職人が磨き上げた宝石のように美しい正球体だった。老鑑定士は魔石を受け取ると硬直した。


「不純物の完全除去に完璧な球体加工……!? 王都の一流魔工技師が魔法炉で何時間もかける作業じゃぞ……!? それを雑草処理の生活魔法でやったというのか……!?」


「はい。庭の生ゴミを分解して堆肥にする要領で、周りの雑質だけ分解してみたら綺麗に削げ落ちたので」

何でもないように説明する三葉に、ギルド全員の脳裏で同じ言葉が響いた。


(((この三姉弟、全員頭がおかしい……!!)))


「ふふ、今日もたくさん学べたね。二人とも、夕方の開店時間になっちゃうからお店に戻ろうか」


一葉が手を叩くと、二葉と三葉が元気に返事をした。


金貨と銀貨が詰まった革袋を抱えた三姉弟は、呆然とする冒険者たちをあとに、軽やかな足取りでギルドを出ていった。彼らの地味な生活魔法の工夫が、冒険者ギルドの常識を激震させた瞬間だった。

「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】(★★★★★)で応援していただけると励みになります!」


前作もあわせてお楽しみいただけると嬉しいです!


前作はこちらから読めます。

https://ncode.syosetu.com/n5113mk/


※アプリをご利用の方は検索画面で Nコード『n5113mk 』と検索していただくか、作者マイページの「活動報告」から直接お越しいただけます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ