第4話:はじめての戦利品と、積み重なる手ごたえ
「それにしても、本当に一傷も負わずに倒せちゃうなんて……! ひと姉の魔法、やっぱり凄すぎるよ!」
二葉が目を輝かせながら、一葉の手から受け取った小さな魔石を太陽のような光(発光苔の光)にかざして見つめた。
透き通るような青い結晶は、薄暗いダンジョンの中で美しく煌めいている。
「ううん、私の魔法だけじゃないよ。ふた姉が衝撃を完璧に受け止めてくれて、三葉が攻めのきっかけを作ってくれたからこそだよ。私一人じゃ、ただスライムをその場に止めることしかできないもの」
一葉は優しく首を振りながら、二葉の頭をなでる。
「でも、大きな手ごたえはあったね。僕たちの生活魔法、ひとつひとつは攻撃力なんて全くないけれど、タイミングを合わせればどんな魔物にも対応できるかもしれない」
三葉は短剣を鞘に納めると、腰のポーチから小さな手帳と羊皮紙を取り出し、ペンを走らせ始めた。
『基本連携パターン1:ふた姉の【根張】で相手の攻撃を完全停止 → 三葉の【葉落】で表面装甲を分解 → ひと姉の【秒芽】で傷口の状態を固定 → 三葉の【葉落】で核を直接分解』
「相変わらずマメだねぇ、三葉は。戦いながらメモ取ってるなんてさ」
「当たり前だよ、ふた姉。僕たちは剣術の流派を修めているわけでも、強力な攻撃魔法を使えるわけでもないんだ。だからこそ、観察して、記録して、知恵を使って効率よく立ち回らないと」
三葉が真面目な顔で手帳をパチンと閉じると、二葉がニカッと笑って彼の肩をぽんと叩いた。
「よーし! この調子でどんどん魔石と薬草を集めよう! 夕方のカフェの開店準備までに帰らないといけないからね!」
こうして、三姉弟の「試行錯誤のダンジョン攻略」が本格的にスタートした。
しばらく進むと、暗がりから新たな影が現れた。
手に不格好な木の棒を持った、小柄な鬼のような魔物——ゴブリンだ。しかも、二匹同時に出現した。
普通の新人冒険者なら、複数戦というだけでパニックになり撤退を選ぶ場面だ。
「二匹同時に来たよ! ふた姉、左をお願い!」
「了解! 【二生の根張】!」
二葉がすかさず前へ踏み出し、地面に足の根を張り巡らせる。
飛びかかってきた一匹目のゴブリンが振り下ろした木の棒を、二葉は小鍋の蓋の盾で易々と受け止めた。
ガキンッ! と高い音が響き、衝撃を完全に殺されたゴブリンは、自分の腕が痺れて呆然と立ち尽くす。
「三葉、そっちの武器を!」
「任せて! 【三途の葉落】!」
三葉が差し出した手から放たれた清掃魔法が、ゴブリンの握っていた木の棒を直撃する。
いつもお店の庭で枯れ枝や雑草を処理している要領だ。ゴブリンの武器だった木棒は、一瞬で乾燥してヒビが入り、ボロボロの木屑となって粉砕された。
武器を失い狼狽するゴブリンへ、一葉がそっと近づき、【一輪の秒芽】でその「驚愕して硬直している状態」をそのまま固定する。
動きを止められたゴブリンは、もはやただの標的だった。
三葉が素早く不純物分解の魔法を叩き込み、二匹目も二葉のラリアットのような力強い押し出しで壁に叩きつけられ、あっけなく撃破されてしまった。
「すごい……本当にゴブリン相手にすら、怪我ひとつなく勝てちゃった……」
三葉は自分たちが集めた魔石を袋に納めながら、感嘆の声を漏らす。
「ふふ、お店の仕込みもダンジョンも同じだね。下準備をしっかりして、順番通りに作業を進めれば、危ない目には遭わないもの」
一葉は楽しそうに笑いながら、通路の脇に生えていた怪しげな草に目を留めた。
葉の表面がかすかに青く光るその植物は、冒険者たちが競って買い求める回復薬の原料『魔力草』だった。
「あ、魔力草だ! ひと姉、これ結構高く売れるやつじゃない!?」
二葉が嬉しそうに駆け寄り、丁寧に茎の根本から摘み取る。
「二人とも、摘み取った後の処理を忘れないでね。薬草は摘んだ瞬間から傷み始めるって、父さんの本に書いてあったから」
三葉の言葉に、一葉が「そうだね」と頷き、摘み取られたばかりの魔力草にそっと手をかざした。
【一輪の秒芽】——
一葉の温かな魔力が魔力草全体を包み込む。
彼女がイメージしたのは、「摘み取られたまさにその瞬間」の新鮮さを、永遠に閉じ込めること。
「これでよし。ギルドに持っていくまで、お庭で咲いていた時と同じ鮮度が保てるはずだよ」
「へぇ〜! ひと姉の魔法って、本当に何にでも使えるんだね! 枯れてない薬草なら、少しは高く買い取ってもらえるかも!」
二葉が嬉しそうに麻袋へ魔力草を収める。
彼女たちはまだ気づいていなかった。
ダンジョンで採取された薬草は、摘んだ瞬間から魔力が揮発し、ギルドに持ち込む頃には価値が半減してしまうのがこの世界の当たり前なのだということに。
「採れたての生気を100%保持した薬草」など、高価な魔導具を使わなければ絶対に不可能な奇跡なのだということを。
「魔石も十個以上集まったし、魔力草も採れたね。そろそろお店に戻って、夕方の営業の準備をしようか」
一葉がパンパンと手を叩くと、二葉と三葉は「はーい!」と元気よく返事をした。
自分たちの日常の工夫が想像以上に通用した確かな手ごたえと、ほんの少しの自信を胸に、三姉弟はダンジョンの出口へと向かって歩き出した。
彼らの「ただの生活魔法」が、このあと買い取りカウンターでどれほどの嵐を巻き起こすことになるのか、この時の三人はまだ知る由もなかった。
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