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森羅家の生活魔法は戦闘不能? 〜カフェの雑用と馬鹿にされた三姉弟、Fランクから最強へ駆け上がる〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第3話:初めてのダンジョンと、生活魔法の連携

ひんやりとした冷気が漂うダンジョン『迷宮の庭』の最浅層。


頭上の天井に埋め込まれた発光苔がかすかな青白い光を放ち、周囲の湿った石壁を不気味に浮かび上がらせていた。


どこか遠くで水滴が垂れる音が規則正しく響くなか、森羅家の三姉弟は足音を殺しながら慎重に歩みを進めていた。


「ひと姉、足元に気をつけてね。やっぱりここは街の中とは全然空気が違うよ。なんだか、肌にピリピリ刺さるような感じがする」


次女の二葉ふたばが、実家の厨房にあった小鍋の蓋で作った特製の盾を身構えながら、油断なく周囲を見渡す。


その手は少し震えていたが、彼女の瞳には姉と弟を守ろうとする強い意志が宿っていた。


「ふふ、二人とも頼もしいね。でも、緊張しすぎて体を硬くしちゃダメだよ。深呼吸して、いつものお店の掃除の時みたいにいこう」


長女の一葉ひとはは、父の古い手帳と一緒に押し入れに眠っていた丈夫な木の枝を杖代わりに突きながら、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべていた。


末っ子の三葉みつばは、錆の浮いた古い短剣をしっかりと握り直し、ひと姉の少し前を守るように背中を丸めて歩く。


「ふた姉もひと姉も、あまり離れないでね。僕の手帳によれば、最浅層で一番警戒すべきは不意打ちだから……」


三葉が言いかけたその瞬間、通路の先にある曲がり角の影から、ぬちゃり、と耳障りな水音が響いた。


三人は足を止め、一瞬で身を固くする。


薄暗い通路の先から這い出てきたのは、直結1メートルほどの青く半透明な粘液の塊だった。


中心には核と呼ばれる小さな赤い結晶が不気味に揺らめいている。ダンジョンにおける最弱の魔物——スライムだ。


しかし、本物の魔物を前にした三人のプレッシャーは、ギルドでの噂話とは比べものにならないほど重かった。


「……出た! スライムだ!」


三葉の声が静かな通路に響き渡ると同時に、スライムが体全体を圧縮させ、弾丸のような勢いで跳ね上がった。


狙われたのは、最前線に立っていた二葉だ。


「ふた姉、受けて!」


「任せて! 【二生の根張ツイン・ルーツ】!」


二葉が叫ぶと同時に、彼女の全身に温かい魔力が駆け巡る。


【二生の根張】は、普段ならカフェの超重量級の業務用冷蔵庫を移動させたり、重い樽を持ち上げたりする際に「体を地面に固定する」ための身体系生活魔法だった。


彼女の足元から見えない魔力の根が伸び、石畳の床深くへとガッチリと張り巡らされる。


直後、ズドンッ!! と重い金属音が通路に轟いた。


弾丸と化したスライムが、二葉の構えた鍋の蓋へと激突したのだ。


本来なら、体重の軽い少女など簡単に弾き飛ばされ、壁に激突してしまうほどの威力がこもっていた。


しかし、二葉の体は一ミリたりとも後退しなかった。地面と完全に一体化した彼女の身体は、完璧な防壁となって激しい衝撃をすべて受け止めて見せたのだ。


勢いを殺されたスライムは、まるで硬い鉄板にぶつかったかのようにベチャリと地面に叩きつけられ、苦しげに体を蠢かせた。


「すごい……! 本当にびくともしないや! 業務用冷蔵庫より全然軽いよ!」


二葉は自分の手に残る手ごたえに驚きつつ、ニッと力強く笑った。


「よし、僕が追撃する! 【三途の葉落エンド・オブ・リーフ】!」


すかさず三葉が飛び出し、地面で硬直しているスライムへ向けて小剣を突き出す。


彼が思い描いたのは、お店の裏庭に生い茂る頑固な雑草や、料理で出た生ゴミをサラサラの腐葉土に変えていく、いつもの清掃魔法のイメージだ。


三葉の小剣の先から淡い灰色の光が放たれ、スライムの体へと照射される。


瞬く間にスライムの表面の粘液が乾燥し、ボロボロとした砂のような物質に変化して削げ落ちていった。


だが、スライムも生き物だ。中心にある核を守るため、周囲の粘液を急速に増殖させ、傷口を再生させようと激しく蠢き始める。


「くっ、やっぱりだめか! 雑草と違って水分と弾力がありすぎる……! 僕の魔法の発動速度より、相手の再生速度の方が早い!」


三葉の額から冷や汗が流れる。このままでは魔力が尽き、反撃を許してしまう。


「三葉、焦らないで。少し待ってね……私の【一輪の秒芽ファースト・ブルーム】で……」


一葉が静かな足取りで一歩前へ出ると、手に持った木の枝の先を、崩れかけては再生を繰り返すスライムの核へとそっと触れさせた。


彼女が頭に描いたのは、カフェで使う最高級コーヒー豆の鮮度を「挽きたての瞬間」のまま何週間も保ち続ける、あの優しい保温魔法のイメージだった。


「——状態を固定キープするね」


次の瞬間、奇跡が起きた。


スライムの激しい再生運動が、まるで映像を一時停止したかのようにピタリと止まったのだ。


三葉の魔法によって肉体が削られ、崩壊しかけている「一番ダメージを受けている状態」のまま、スライムの時間が固定されてしまったのである。


「えっ……!? ひと姉、スライムの動きが……完全に止まった!?」


「うん。傷がついた『今の状態』をそのまま保ってみたの。これなら、再生されないよ」


一葉は紅茶を淹れる時のような穏やかな口調で言った。


「す、すごい……! これなら僕の分解が追いつく!【三途の葉落】、もう一回!」


再生能力を完全に封じられたスライムは、無防備な肉体と同義だった。


三葉が再び清掃魔法を放つと、灰色の光を浴びたスライムは抵抗する間もなく、端からサラサラとした綺麗な砂となって崩れ去っていった。


ぽん、と軽い音を立てて、スライムだった場所には親指ほどの小さな青い結晶——魔石だけがひとつ残された。


「……勝った。僕たち、本当に勝てたよ!」


三葉は短剣を握りしめたまま、信じられないというように自分の手を見つめた。


「やったぁぁ! 倒せた! 倒せたよ三葉!」


二葉が足を固定していた魔法を解除し、三葉に抱きついて歓声を上げる。


「二人とも、怪我がなくて本当によかった。生活魔法も、こうして順番を組み合わせて助け合えば、ちゃんと役に立つんだね」


一葉は優しく微笑みながら屈み込み、転がっていた小さな魔石を拾い上げた。


冒険者ギルドで「カフェ店員」「役立たずの雑用魔法」と激しい嘲笑を浴びた三姉弟。


しかし、彼らが長年のカフェ経営の中で培ってきた「日常の知恵とチームワーク」は、ダンジョンの常識を覆す凶悪な連携技へと、確実に生まれ変わり始めていた。

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