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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第49話:熱砂の浄化と、精霊樹の息吹

「ガアァァァァッ……!!」


大気を震わせる狂暴な咆哮とともに、黒砂と濁水で形成された巨大な巨躯が、白亜の街並みを押し潰さんと圧しかかってくる。


「みんな、私の後ろへ!」


一葉の声が澄み渡る。


「任せて、ひと姉! 【二生の根張】——」


二葉が跳躍し、両手で固く握りしめた木剣を灼熱の砂地へ一直線に突き刺した。


ドゴォォォンッ!!


砂地を駆け巡った緑の魔力根が、巨大なオアシスの外縁を包み込むように爆発的に拡大する。


二葉の魔力根は、黒砂ゴーレムの足元から砂粒の一粒一粒へと滑り込み、その流動性を奪うようにして強固に絡みついた。


「グ……ガッ……!?」


崩れ落ちながら踏み出そうとした巨体の足元がピタリと停止する。


二葉の魔法は、相手を強引に打ち砕くのではなく、暴走する大地のエネルギーを包み込んで「あるべき静寂」へと優しく誘導する力を持っていた。


「足止め成功! 続いて魔力構造の分離を!」


三葉が瞳を極限まで研ぎ澄ませた。


「【三途の葉落】——!」


三葉の指先から解き放たれたのは、髪の毛よりも遥かに細い、不可視の微細分解波動。


ガルシア大神官が精霊樹の根元に撒き散らした『高濃度魔力凝固剤』の微小な分子結合だけを、三葉の精密な操作が寸分の狂いもなく正確に切り裂いていく。


バリバリバリッ……!


不気味な不協和音を立てて、ゴーレムの表面を覆っていた紫黒色の粘液がボロボロと剥がれ落ち、ただの乾いた砂へと還元されていく。


「核の不純物、完全に分離! 今だよ、ひと姉!!」


「変えさせない……! 命を育むこのオアシスの輝きを! 【一輪の秒芽】!」


一葉が空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かした。


胸元のペンダントが眩いばかりの澄み切った緑の光を解き放つ。


二葉が作り出した「暴走の静寂状態」と、三葉が与えた「不純物の分離状態」が一葉の魔法によって一瞬で捉えられ、オアシス全体と精霊樹の根元へ強力に定着・固定された。


シュゥゥゥゥ……!


怪異の巨躯は激しい光の中に溶け込み、不気味な黒い濁水は跡形もなく消滅した。


代わりに、地下深層から湧き出してきたのは、太陽の光を反射してキラキラと輝く、どこまでも澄み切った清らかな清流だった。


「あ……ああ……っ……!」


見習い錬金術師のレイラが、感極まった声を漏らしてその場に膝をついた。


枯れ果てて黒く変色していた中央の『精霊樹』が、一葉たちの放った清廉な生活魔法の魔力を吸い上げ、みるみるうちに瑞々しい緑の葉を芽吹かせていく。


干上がっていたオアシスにはなみなみと清らかな水が満ち溢れ、街全体を覆っていた不快な異臭は、爽やかなハーブと水の匂いへと塗り替えられた。


「水が……オアシスの水が戻ったぞーっ!!」


「黒い泥が消えた! 飲める……透き通った綺麗な水だ!」


遠巻きに見守っていたサフィールの住民や警備隊の兵士たちが、歓声を上げてオアシスの水辺へと駆け寄ってくる。


水を手にすくい、涙を流して喜ぶ人々の笑顔が、太陽の光の下で輝いていた。


「やったね、ひと姉! 三葉!」


二葉が木剣を掲げて飛び跳ね、三葉も安堵の息を吐いた。


一葉はそっと胸元のペンダントに触れ、穏やかな笑みを浮かべた。


(よかった……。ここでも、私たちでみんなの日常を守ることができたわ……)


その後、逃走を図っていたガルシア大神官は、真相を知った警備隊の手によって即座に拘束された。


ガルシアが溜め込んでいた不正な財産は押収され、オアシスの管理権は正しく市民と錬金術師ギルドへと返還されたのだった。


数日後。


熱砂の都市サフィールは、かつての活気と賑わいを完全に取り戻していた。


中央広場では、一葉たちの功績を称える盛大な宴が催されていた。


「一葉様、二葉様、三葉様。本当に……本当にありがとうございました!」


絢爛な刺繍が施された新しい衣装に身を包んだレイラが、深々と頭を下げる。


その手には、サフィールの誇る最高級のハーブと、精霊樹の葉から作られた美しい茶葉の缶が握られていた。


「これ、私からの感謝の気持ちです! 『グリーン・リーフ』の皆様で召し上がってください!」


「わあ、ありがとう、レイラさん! お母さん絶対喜ぶよ!」


二葉が目を輝かせて受け取る。


そこへ、サフィール警備隊の隊長が重厚な歩みで近づいてきた。


「森羅家の一葉殿。君たち三人の見事な手際と、命を救ってくれた恩義、サフィール全市民を代表して心より感謝する。ギルド本部へは、君たちの『Dランク』の枠に収まらない偉大な働きを、最高評価の報告書として提出させてもらった」


「ありがとうございます、隊長さん。ですが、私たちはただ、冒険者として当たり前のことをしただけです」


一葉は控えめだが凛とした眼差しで答えた。


胸元で眩しく光る銀色のDランクプレート。


三姉弟の物語は、大森林の歪みを整え、王都の謀略を打ち砕き、アルトリスの大魔脈を救い、そしてこの熱砂の都市サフィールに清らかな恵みをもたらした。


暮らしを愛し、日常を慈しむ心から生まれた『生活魔法』。


それはもはや、単なる雑用魔法の枠を遥かに超え、行く先々で人々の絆を紡ぎ、絶望を希望へと変える「大樹の光」へと成長を遂げていた。


「さあ、二人とも。お父さんとお母さんが待つ、私たちの『グリーン・リーフ』へ帰りましょう!」


「「うん!!」」


一葉が空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かす。


【一輪の秒芽】——澄み切った緑の光が三人の胸元で温かく輝き、故郷へと続く一本の道を優しく照らし出していった。

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