第48話:歪む神殿と、黒きオアシスの真実
「な、何を血迷ったことを吐くか、田舎の冒険者どもめ! 無礼者めが、捕らえよ!」
ガルシア大神官の甲高い叫びとともに、煌びやかな装飾を施された神殿護衛隊の兵士たちが一斉に槍を構えた。
鋭い鉄の穂先が、容赦なく一葉たちの喉元へと向けられる。
「サフィールの警備隊の方々、騙されないでください!」
見習い錬金術師のレイラが前方へ躍り出て、切実に叫んだ。
「オアシスの枯渇は神の天罰などではありません! ガルシア様はご自身の権力を固めるため、地下水脈の管理権を独占しようと……!」
「黙れ、錬金術師の小娘が! 神の威光を穢す異端者どもめ、まとめて地下牢へ叩き込め!」
ガルシアが顔を真っ赤にして怒号を飛ばす。
「二葉、三葉! 容赦なく行くわよ!」
一葉の澄んだ声が駆け抜ける。
「任せて、ひと姉! 【二生の根張】——」
二葉が木剣の柄を地面へ勢いよく叩きつけた。
ドガガガガッ!
足元の灼熱の砂利が一瞬にして巨大な波のように盛り上がり、押し寄せていた神殿護衛隊の足元を浚っていく。
二葉の魔力根が砂の粒と複雑に絡み合い、兵士たちの足を優しく、しかし絶対に解けない強固な流砂の檻として固定した。
「うわあぁっ!? 砂が足に絡みついて動かん!」
「剣で砂を切ろうにも手応えがないぞ!?」
「僕の番! 【三途の葉落】——!」
三葉が指先から微細な分解波動を放った。
波動がガルシア大神官の法衣に触れた瞬間、服の繊維に染み込んでいた濃縮魔導薬品が瞬時に揮発し、怪しい紫色の煙となって大気中へ噴き出した。
「な……なんだこの煙は!?」
周囲の警備隊員たちが激しく咳き込みながら、目を見開く。
「神官様の衣服に付着していたのは、水に溶けると黒く変質し、魔力を急速に枯渇させる『高濃度魔力凝固剤』です」
三葉が冷ややかな声で告げた。
「オアシスを汚染していたのは神の呪いなどではなく、あなたが意図的に撒き散らしていた人造の毒薬品です。解析データに狂いはありません」
「な、なんだと……!? ガルシア大神官様がオアシスを……!?」
警備隊の兵士たちから激しい動揺と憤怒のどよめきが上がる。
「く……くそぁぁぁっ! 邪魔をするな、田舎の雑用係どもがぁっ!」
化けの皮を剥がされたガルシアは、懐から怪しげな黒い魔導鈴を取り出し、狂ったように振り鳴らした。
チリン、チリン……!
重苦しい鈴の音が響き渡ると同時に、オアシスの中心にそびえ立つ枯れ果てた『精霊樹』の根本から、地鳴りのような爆音が轟いた。
グラグラグラッ!!
「キャァァァッ! 地震!?」
レイラが悲鳴を上げる。
オアシスの漆黒の泥の中から、黒い砂と濁水を纏った巨大な異形——『黒砂の粘性ゴーレム』が地表へと這い出てきたのだ。
ガルシアが撒き散らした魔力凝固剤と、地中の歪んだ魔力が融合して生み出された悪意の怪異であった。
「ハハハハ! 精霊樹の底に眠る魔力を暴走させてやったわ! この街もろとも砂に呑み込まれるがいい!」
ガルシアは正気を失った笑声を上げながら、混乱に乗じて脱兎のごとく逃げ出していった。
「逃がさないよッ!」
二葉が追おうとするが、一葉がそっと手を挙げて制した。
「待って、二葉! 今はあの巨体を止め、オアシスの精霊樹を救うのが先よ!」
巨大な黒砂のゴーレムが、濁流の腕を振り上げて一葉たちへと襲いかかってくる。
その一撃は、直撃すれば周囲の白亜の街並みごと押し潰してしまうほどの破壊力を秘めていた。
「レイラさん、私たちの後ろへ!」
一葉は一歩前へ踏み出し、胸元の緑のペンダントを強く握りしめた。
ペンダントから解き放たれる温かな光が、砂漠の熱風を押し返し、一葉の全身を澄み切った緑の魔力で満たしていく。
「二葉、三葉! アルトリスの時と同じよ! 大地の傷を癒やし、この街の日常を取り戻すわ!」
「「はい!」」
Dランク冒険者として幾多の修羅場を潜り抜けてきた三姉弟の絆。
熱砂の都市サフィールを壊滅の危機から救うため、生活魔法という名の優しくも絶対的な反撃の幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
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