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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第38話:包囲網と、結集する絆

夜が明け、蒼清な朝もやが王都『グラン・ルミナス』の街並みを包み込んでいく。


しかし、外縁部の貧民区(スラム)を取り巻く空気は、嵐の前のような重苦しい緊迫感に満ちていた。


ガシャン! ガシャン! と静寂を切り裂いて響き渡るのは、足並みの揃った重厚な金属音。


銀色の全身鎧に身を包んだカルゼル子爵配下の私設騎士団、そして子爵の手回しによって動かされた王都警備隊、あわせて百名を超える大部隊が、貧民区の入口を完全に封鎖していた。


「これより『魔力毒素汚染地域』の清浄化作戦を開始する! 汚染源たる反乱分子および病人は一者たりとも逃すな!」


部隊の先頭に立つ騎士隊長が、抜き放った長剣を掲げて怒号を上げる。


その背後、豪奢な馬車の中から様子を伺うカルゼル子爵ジュリアンは、口元に醜悪な冷笑を浮かべていた。


「フン……貧民どもの死体ごとガキどもを焼き尽くせば、証拠もろともすべて闇の中だ。我がカルゼル家の支配に狂いなど生じさせん」


騎士たちが武器を構え、一歩一歩踏み出そうとした、その時だった。


「待ちな! アホ子爵の私兵どもが、朝っぱらからぞろぞろと何の真似だ?」


路地裏の影から、背中に二本の長剣を背負った男——Aランク冒険者のクロードが、悠然と歩み出てきた。


「むっ、Aランクのクロードか……! 邪魔立てするか! これはカルゼル子爵家と警備隊の正式な執務であるぞ!」


「正式ねぇ。病人を助ける冒険者を『テロリスト』扱いして、口封じに街ごと燃やそうってのが正式な執務とは驚いたぜ」


クロードが肩をすくめると、貧民区の各所の屋根や路地から、次々と人影が飛び出してきた。


「そうだぞ! 俺たちの仲間を勝手に病原菌扱いするんじゃねえ!」


「森羅家の三姉弟ちゃんたちには指一本触れさせねえぞ!」


クロードが呼び集めた王都冒険者ギルドの中堅・上級冒険者たち、そして昨日一葉たちの生活魔法によって救われた人々やその家族、総勢百名を超える人々が、怒りの声を上げて立ち塞がったのだ。


「な……なんだと!? 下民どもが暴動を起こす気か! かまわん、押し潰せ!」


隊長の叫びとともに、銀鎧の騎士たちが一斉に襲いかかってくる。


「みんな、下がっていてください! 争いを広げる必要はありません!」


高らかな一葉の声が響き渡り、人々の人垣を割って森羅家の三姉弟が前線へと躍り出た。


胸元には、父・一二三から託された緑のペンダントと、銅色のEランクプレートが朝日に強く輝いている。


「ひと姉、あいつら本気で来てるよ!」


「うん、だけど……誰も傷つけさせないわ。私たちの魔法で、この無意味な戦いも、王都を蝕む毒素も、全部止めてみせる!」


一葉は凛とした瞳で押し寄せる騎士団を見据え、指を強く組んだ。


「行くよ、二葉、三葉!」


「「はい!!」」


「【二生の根張】——広域大地包囲!」


二葉が全力で木剣を地表へ叩きつけた。


ズズズズズッ……!!


地面を駆け巡った緑の魔力根が、押し寄せる百名を超える騎士たちの足元から一斉に弾け飛ぶ。


強固な根は騎士たちの足首から腿にかけて瞬時に絡みつき、その進行を完璧に停止させた。


「な……なんだこの根は!? 動かん! 足が地表に張り付いたように離れんぞ!」


「バカな! 剣で切ろうとしても、柔らかすぎて手応えがない!?」


驚愕する騎士たちに向かい、今度は三葉が前に出た。


「【三途の葉落】——陣形魔力解体!」


三葉が全体を見渡す。


「騎士団の集団展開を支えている『強化魔法の結界』および『装備の付与魔力』の構造……すべて見えたよ! 不純物および補助魔力、完全分離!」


三葉の指先から放たれた不可視の分解波動が、騎士たちの鎧や武器に施されていた強化魔法を一瞬で無力化する。


輝いていた防具の魔力光が消え去り、ただの重い鉄の塊へと変わった。


「鎧が急に重くなった!? 付与魔法が消えただと……!?」


陣形を崩され、足止めされた騎士団。そこへ、一葉が空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かした。


「変えさせない……! 私たちの守りたい日常を! 【一輪の秒芽】!」


胸元のペンダントが眩いばかりの澄み切った緑の光を解き放つ。


二葉が作り出した「身動きが取れない拘束状態」と、三葉が与えた「強化魔法の解体状態」が一葉の魔法によって逃さず捕捉され、空間そのものへ強力に固定・定着された。


騎士たちは怪我一つ負うことなく、ただその場に完璧に直立不動のまま固定され、指一本動かすことすらできなくなったのだ。


「バ……バカな……!? たった三人のガキが、我が誇る私設騎士団と警備隊を……一瞬で無力化しただと……!?」


馬車の中から様子を見ていたジュリアン子爵が、恐怖のあまり顔を蒼白にしてガタガタと震え出した。


「ハハッ! こいつはたまげたぜ! 傷一つ付けずに百人の部隊を完全完封かよ!」


クロードが爆笑しながら長剣を鞘に収める。周囲の冒険者や住民たちからも、割れんばかりの歓声と大喝采が湧き起こった。


一葉は一歩ずつ、恐怖で動けなくなっているジュリアン子爵の馬車へと歩み寄った。


「カルゼル子爵様。……あなたの作った毒も、あなたの動かした兵も、私たちの前には何の意味もなしません」


一葉はまっすぐな視線で子爵を見つめ、静かに、しかし断固とした声で告げた。


「生活魔法は、人が人を想い、日々の温かな暮らしを守るために紡がれてきた力です。他者を傷つけ、恐怖で支配しようとするあなたの悪意などに、負けるはずがありません」


一葉の凛とした言葉は、貧民区に集まったすべての人々の心に強く響き渡った。


「く……くそぁぁぁっ! 覚えていろ、田舎のガキどもがぁぁっ!」


ジュリアン子爵は惨めに捨て台詞を吐くと、御手に馬車を走らせ、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。


取り残された騎士たちは、依然として動けぬまま、呆然と三姉弟を見上げるしかなかった。


王都を包囲していた脅威の芽は、三姉弟の絆と生活魔法の力によって見事に打ち払われたのだ。


しかし、一葉たちの戦いはまだ終わっていない。


子爵の企みを完全に暴き、王都で苦しむすべての人々を救うための真の決戦へ向け、生活魔法の光はさらに大きく輝こうとしていた。

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