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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第37話:救済の芽吹きと、灯る希望の火

崩れかけた廃教会の奥、薄暗い空間に静かな緊張が走っていた。


「た、助けて……お母さんが……お母さんが冷たくなっていっちゃうんだ……!」


ボロ布を纏った少年が、ボロボロと大きな涙をこぼしながら一葉のスカートの裾を必死に掴み込んでくる。その小さな手は恐怖と寒さでガタガタと震えていた。


「大丈夫よ。絶対に助けるから、少しだけ下がっていてね」


一葉は優しく少年の頭を撫で、柔らかく微笑んだ。


その温かな手つきに安心したのか、少年は何度も頷きながら一歩後ろへと下がった。


藁床の上には、少年の母親と思われる女性が横たわっていた。肌は浅黒く変色し、胸元からは不気味な紫黒色の魔力のモヤが断続的に立ち上っている。


呼吸は浅く、体内の魔力回路が腐敗毒素によって激しく蝕まれているのは一目瞭然だった。


「商業区で見た初期症状の人たちより重症だわ……。でも、子爵邸の女の子を治した時と同じ構造よ」


一葉が静かに告げると、二葉と三葉が頼もしい表情で頷いた。


「任せて、ひと姉! この人たちの日常も、私たちが絶対に守ってみせるよ!」


二葉が木剣を構え、三葉が言う。


「僕の解析も完了してるよ。腐敗毒素と体内の健全な魔力の結合パターンは、子爵邸のケースと完全に一致してる……いけるよ!」


「よし……始めるわよ!」


一葉の合図とともに、三人の治療が開始された。


「【二生の根張】——包容固定!」


二葉が木剣の先を冷たい石床にそっと触れさせる。


カツン、という小さな音とともに、木剣の先から淡く温かな緑の魔力根が静かに伸びていった。


根は藁床を優しく包み込むように這い登り、女性の身体へと柔らかく触れる。


先ほどまで荒く乱れていた女性の呼吸が、二葉の魔力根が持つ「脈動を整える波動」によって、徐々に一定のリズムを取り戻していく。


体内で暴走していた不純魔力の狂暴性が、母の手で宥められるように静まっていくのが目に見えて分かった。


「魔力の暴走、鎮静化を確認! ……【三途の葉落】——微細構造分離!」


三葉の魔法が極限まで研ぎ澄まされた。


指先から解き放たれたのは、髪の毛よりも遥かに細い不可視の分解波動。


一二三との密密な特訓によって磨き上げられた三葉の精密操作は、女性の健全な魔力回路を傷つけることなく、ぴったりとへばりついていた腐敗毒素の微小な結合部だけを鮮やかに断ち切っていく。


プツッ、プツッ、と目に見えない魔力の糸が切れるような感覚とともに、女性の体表から立ち上っていた紫黒色のモヤが散々へと分解され、大気中へと霧散していった。


「そして……変えさせない、健康な生命の輝きを! 【一輪の秒芽】!」


最後に一葉が空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かした。


手のひらに灯る清廉な緑の光が、胸元のペンダントと美しく共鳴し、女性の身体を優しく包み込む。


三葉によって毒素が切り離された「清浄な状態」と、二葉によって整えられた「正常な魔力回路」が、一葉の時間・状態保持の魔法によって逃さず捕捉され、女性の身体へ強固に定着された。


「ん……あ……っ……」


女性の頬にじんわりと赤みが差し、深いため息とともにゆっくりと両目が開かれた。


黒く変色していた肌の斑紋は綺麗に消え去り、穏やかな寝息と健康な魔力の巡りが戻っていた。


「お、お母さん……!? お母さんっ!!」


少年が女性の胸へと飛び込む。女性は戸惑いながらも、愛おしそうに我が子を抱きしめた。


「お母さんが……お母さんが元戻ったよぉ……!」


「あ……ありがとう、ございます……冒険者様……」


涙を流して感謝を捧げる親子の姿に、二葉は目元を拭い、三葉は誇らしげに笑った。


一葉は胸元のペンダントを握りしめ、溢れ出る温かな感情を噛みしめた。


(やっぱり、私たちの生活魔法は間違っていない……! 権力や謀略なんかに、この温かな日常を壊させはしないわ!)


その夜、廃教会には次々と人が集まってきた。


少年が「廃教会に、どんな病気も治してくれるすごい冒険者様がいる」と貧民区の街頭で触れて回ったためだ。


噂を聞きつけた貧民区の病人やその家族たちが、藁にもすがる思いで身を寄せてきたのだった。


「本当に……本当にこの病が治るのかい……?」


「騎士様たちは見向きもしてくれなかったのに……」


不安と期待が入り交じる大勢の人々を前に、一葉は一歩前へ踏み出し、凛とした声を響かせた。


「皆さん、安心してください。私たちはギルドから派遣された冒険者です。この病気は決して治らない奇病ではありません。私たちの魔法で、必ず皆さんを元通りの元気な姿に戻してみせます!」


一葉の言葉に、人々の顔にパーッと希望の光が灯る。


「さあ、みんな! どんどん治療していくよ!」


二葉が木剣を構え、三葉が迅速に患者たちの魔力解析を進める。


「【二生の根張】!」

「【三途の葉落】!」

「【一輪の秒芽】!」


三人の息の合った連携が、次々と患者たちを救っていく。


一人、また一人と、黒い斑紋が消え、途絶えかけていた命の火が力強く灯し直されていく。


重苦しかった廃教会の空気は、歓喜と感謝の涙、そして温かな笑顔で満たされていった。


「すごい……本当に治ったぞ!」


「神様……いや、冒険者様のおかげだ!」


人々からの惜しみない感謝と称賛の声。


その光景を、廃教会の入口の影から静かに見つめる一つの影があった。


「ほう……なるほどな。カルゼル子爵が目の色を変えて探させている『お尋ね者のガキども』とは、お前たちのことだったか」


「……っ! 誰だ!?」


二葉が即座に木剣を構え、一葉と三葉も身構えた。


暗がりから歩み出てきたのは、ボロボロの革鎧を身に纏い、背中に二本の長剣を背負った鋭い眼光の男だった。


その胸元には、王都冒険者ギルドの最高峰——Aランク冒険者の証である金色のプレートが輝いている。


「Aランク冒険者……!?」


三葉が息を呑む。


男はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、一葉たち三人を品定めするように見つめた。


「警戒するな。俺は子爵の手先じゃねえ。……むしろ、あのアホ貴族の鼻を明かしてやりたいと思っている側の人間だ」


男はそう言うと、胸を張り、名乗りを上げた。


「俺はAランク冒険者のクロード。……噂を聞いて見に来てみれば、まさかFランク上がりの三姉弟が、王都を揺るがす奇病を生活魔法で片っ端から治しているとはな。傑作だぜ」


クロードの言葉に、一葉はまっすぐな視線を返した。


「クロードさん……私たちはただ、苦しんでいる人たちを助けたいだけです。子爵が何と言おうと、この街の日常を守るために戦います」


クロードは一葉の瞳に宿る確かな決意を見つめ、豪快に笑い飛ばした。


「ハハッ! いい目だ! 気に入ったぞ、森羅家の一葉!」


クロードの表情が引き締まり、真剣な眼差しへと変わる。


「子爵の奴、明日にも王都騎士団を総動員して、この貧民区を『毒素の発生源』として一網打尽に包囲・粛清するつもりだ。自分たちの悪事がバレる前に、病人もろともお前たちを消し去る気だぞ」


「そんな……ッ! どこまで酷いことを……!」


二葉が怒りに身を震わせる。


「だが、そうはさせん。お前たちのその魔法、…王都の全住民に見せつけてやろうじゃねえか」


クロードが背中の長剣を軽く叩き、不敵に言い放った。


「俺が王都ギルドのまともな連中と、裏街の冒険者たちを全員集めてやる。明日、子爵が仕掛けてくる全戦力を、お前たちの生活魔法で返り討ちにして、奴の悪事を白日の下に晒してやろうぜ!」


「クロードさん……!」


一葉、二葉、三葉の顔に、確かな希望の笑みが浮かぶ。


王都の暗雲を払い、本当の日常を取り戻すための大決戦。


Fランクから昇格した三姉弟は、信頼できる仲間を得て、王都全体を巻き込む巨大な反撃の旋風へと成長しようとしていた。


「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】(★★★★★)で応援していただけると励みになります!」


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