↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/55

第32話:王都の暗雲と、託された黒い封書

重々しいドアベルの音を残し、ジュリアン子爵の一行が去った『グリーン・リーフ』。


張り詰めていた空気がゆっくりと解けていく中、店内に残されたのはカウンターの上にぽつんと置かれた漆黒の封書と、重苦しい静寂だった。


封書にはカルゼル子爵家の紋章である「一角獣と剣」の蝋封が固く施されている。


「なんなのあの人たち! めちゃくちゃ失礼じゃない!」


二葉が木剣の柄を握りしめ、頬を膨らませて怒りをあからさまにした。


「いきなりやってきて、でっち上げだなんて……! 私たちが命がけで『歪みの核』を倒したのに!」


「落ち着いて、二葉」


一葉は優しく妹の肩を叩き、静かな手つきでカウンターの上の封書へと手を伸ばした。


「でも、ひと姉! あんな高圧的な言い方ってないよ! 冒険者資格を剥奪するなんて脅して……」


「ふた姉の言う通りだけど、相手は王都の貴族だ。下手に反発すれば、僕たちだけでなく『グリーン・リーフ』やギルドにも迷惑がかかってしまう」


三葉が眼鏡の位置を直し、冷静な分析を口にする。しかし、その瞳には悔しさと警戒の色が濃く滲んでいた。


「問題は、あの人が言っていた『魔力腐敗症』という病気だ。そんな症例は聞いたことないよ。高位の回復魔法すら効かない病気なんて……」


「ええ。それに、あの封書……」


一葉が指先で封書の表面をなぞると、胸元の緑のペンダントが微かに反応し、冷たい違和感を伝えてきた。


「何か、嫌な魔力の気配がするわ」


「一葉、見せてみなさい」


厨房の奥から歩み出てきたのは、父の一二三だった。普段の穏やかな表情は消え、かつての冒険者としての鋭い眼差しが、一葉の手元にある封書を射抜いている。


母の葉も心配そうに一二三の傍らに寄り添っていた。


一葉は頷き、一二三へ封書を手渡した。


一二三は封書を受け取ると、鼻をかすかに鳴らし、眉をひそめた。


「……なるほど。『魔力腐敗症』か」


「お父さん、何か知っているの?」


三葉が身を乗り出す。一二三は一瞬だけ遠くを見るような目をし、低く静かな声で語り始めた。


「魔力腐敗症とは、外傷や通常の病気とは異なり、体内の魔力回路そのものに『不純な毒素』が固着し、自己の魔力を腐敗させていく奇病だ。肉体を治癒する通常の回復魔法ヒールをかければかけるほど、その治癒魔力すらも毒素に取り込まれ、症状を悪化させる」


「回復魔法が逆効果になる病気……!?」


二葉が息を呑む。


「だからこそ、王都のヒーラーたちでは手を焼いているのだろう。……だが、不純物の構造を分解する三葉の【三途の葉落】、魔力回路の暴走を抑え込む二葉の【二生の根張】、そしてその状態を保持・固定する一葉の【一輪の秒芽】なら、解法の糸口になり得ると奴らは踏んだのだ」


「私たちの……魔法が?」


一葉は自分の手のひらを見つめた。


「そうだ。だが、あのジュリアン子爵という男の目には、お前たちを助けたいという意志などない。王都の権力闘争の中で、お前たちの功績を利用するか、あるいは失敗させて潰すか……どちらに転んでも自分に利益が出るような奸計を張り巡らせている」


一二三の言葉に、店内の温度がすっと下がったような緊張感が走る。


「お父さん……私たちは、どうすればいいの?」


一葉の問いに、一二三は温かく、しかし力強い眼差しで三姉弟を見つめ返した。


「決めるのはお前たちだ。断ることもできる。いくら貴族の威光があろうと、私と葉がいればお前たちやこの店を強引に脅かすことなどさせはしない」


「あなたたち」


葉が優しく三人の手を包み込んだ。


「危険な賭けに乗り出す必要はないのよ。あなたたちはまだEランクになったばかりの冒険者なのだから」


両親の深い愛情と保護の意志。


しかし、一葉の脳裏には、先ほどジュリアン子爵が口にした「魔力腐敗症で苦しんでいる人々」の存在が離れなかった。


そして、自分たちの生活魔法が誰かの命を救う可能性を秘めているという事実も。


一葉は二葉と三葉の顔を見合わせた。


二葉は木剣をぎゅっと握りしめ、力強く頷いた。


「私、逃げたくないよ! あんな嫌な貴族の言いなりになるのは腹が立つけど……本当に苦しんでいる人がいるなら、私たちで助けてあげたい!」


「僕も同感」


三葉が手を強く握りしめる。


「高位の回復魔法が効かないのなら…。それに……王都で、僕たちの魔法がどこまで通用するか試してみたいという気持ちもあるかな」


二人の強い決意を聞き、一葉の心も固まった。


一葉は胸元の緑のペンダントに触れ、一二三と葉に向かってまっすぐな視線を向けた。


「お父さん、お母さん。……私たち、王都からの指名依頼を引き受けます」


「一葉……」


「私たちは、ただ自分たちの身を守るためだけに生活魔法を磨いてきたわけではありません。大森林の『歪みの核』を倒した時と同じように、困っている人を助け、日常を守るためにこの力を使いたいんです」


一葉の凛とした言葉に、一二三は一瞬目を見張り、それから誇らしげに破顔した。


「……そうか。立派になったな、一葉」


一二三は封書の蝋封を親指でパリリと割り、中の羊皮紙を取り出した。そこには指名依頼の詳細と、王都への出発日時、そして提示された莫大な報酬額が記載されていた。


「分かった。お前たちの決意を尊重しよう。だが、王都は森の怪物よりも狡猾で危険な『人間の悪意』が渦巻く場所だ。……私もマスターとしてではなく、かつての経験者として、しっかり準備を整えてやろう」


「お父さん?」


一二三は厨房の奥から、使い古された革の鞄と、三人分の新しい旅装具を取り出してきた。


「王都までの道のり、そして現地での活動に備え、明日から特別集中講義を行う。生活魔法のさらなる応用と、対人・対魔力毒における極意を教え込むよ。」


「「「はい!!」」」


三人の元気な返事が店内に響き渡った。


高圧的な貴族からの嫌がらせとして持ち込まれた漆黒の指名依頼。


しかし、それは森羅家の三姉弟にとって、可能性をさらに広げ、新たな世界へと羽ばたくための「旋風」となろうとしていた。


胸に輝くEランクの証とともに、一葉たちの視線は、まだ見ぬ大都・王都の空へと向けられていた。

「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】(★★★★★)で応援していただけると励みになります!」


前作もあわせてお楽しみいただけると嬉しいです!


前作はこちらから読めます。

https://ncode.syosetu.com/n5113mk/


※アプリをご利用の方は検索画面で Nコード『n5113mk 』と検索していただくか、作者マイページの「活動報告」から直接お越しいただけます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。