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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第33話:特訓の神髄と、王都への旅立ち

『グリーン・リーフ』の裏手にある広い庭園。早朝の冷涼な空気が漂う中、森羅家の三姉弟は動きやすい旅装束に身を包み、父・一二三と対峙していた。


「いいかい。王都で対峙するのは、野生の魔物だけではない。魔力腐敗症という未知の奇病、そして患者の体内で毒素と化した『不純な魔力』だ」


一二三は手にした木枝で地面に流麗な魔法陣を描きながら、静かだが重みのある声で語りかける。


「魔力腐敗症の毒素は、患者自身の生存本能や残存魔力と複雑に結合している。力任せに分解しようとすれば、患者の魔力回路そのものを破壊しかねない。必要なのは、より繊細で、より深い『魔法の対話』だよ」


「魔法の……対話?」


二葉が木剣を構え直しながら、首をかしげる。


「そう。二葉、お前の【二生の根張】は単に敵の動きを止める拘束術ではない。対象の魔力の暴走を包み込み、脈動を『正常なリズムに整える』ための根張りでなければならない」


一二三が木枝を軽く振ると、地面から無数の小さな魔力根が弾け飛び、二葉の木剣をやさしく包み込んだ。


二葉は目を見張り、その魔力の温もりに息を呑む。


「相手を力でねじ伏せるのではなく、包み込んで落ち着かせる……。これが、怪我人や病人に対する【二生の根張】の神髄だ」


「包み込んで……落ち着かせる……」


二葉は目を閉じ、木剣を通じて自分の魔力を静かに練り上げた。


地面へと伸ばした緑の根は、先ほどまでの激しい弾け方とは異なり、まるで母が子を抱くような柔らかで温かな光を帯びて広がり始める。


「三葉、お前の【三途の葉落】も同じだ」


一二三の視線が三葉へと向けられる。


「ただ力任せに不純物を切り離すのではなく、健全な魔力回路と腐敗した毒素の『境界線』を完璧に見極めるんだ。髪の毛一本分以下の微小な接合部を見抜き、外科手術のように最小限の負担で分離させるんだ」


「髪の毛一本分以下の境界線……」


三葉は手、瞳を極限まで澄ませた。


「わかったよ、お父さん。僕の分解波動を極限まで細分化し、微細な魔力素粒子単位で不純物だけを削ぎ落とす精密操作……やってみる」


「そして一葉」


一二三は一葉の前に歩み寄り、その胸元に輝く緑のペンダントをそっと指先で突いた。


「【一輪の秒芽】は、二人が作り出した『正常化された状態』と『毒素の分離状態』を、患者の体内に完璧に定着させるかなめだ。少しでも固定が甘ければ、残存した毒素が再び増殖を始めてしまう」


「……はい、お父さん。私の【一輪の秒芽】は『変えさせない意志』。患者さんの命の輝きを、健康な状態を、絶対に損なわせないという強い想いで繋ぎ止めます」


一葉は空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かした。


手のひらに灯る淡い緑の光は、ペンダントの結晶と美しく共鳴し、庭園全体を優しく包み込むほど深く澄み渡っていった。


一二三はその光景を見届け、満足そうに目を細めた。


「よし。これならば王都のどんな困難にも立ち向かえる。お前たちの魔法は、すでにただの雑用魔法ではない。人を救い、未来を紡ぐ至高の術だよ」


特訓を終え、出発の刻が訪れた。


『グリーン・リーフ』の店先には、旅立つ三人を送るために多くの人々が集まっていた。


「一葉ちゃん、二葉ちゃん、三葉君! 王都に行っても元気でね!」


「あんな意地悪な貴族なんかに負けちゃダメだぞー!」


街の子供たちや常連の客たちが、口々に声援を送り、手作りの焼き菓子や干し肉などの餞別を三人の鞄へ押し込んでいく。


そこへ、ギルドマスターのヴァルターと、大剣を背負ったバルガスが歩み寄ってきた。


「一葉さん、王都ギルドへの紹介状と、正式な指名依頼の受領書類だ」


ヴァルターが一通の厳重に封かんされた書簡を一葉へ手渡す。


「カルゼル子爵は王都でも有数の権力者だ。嫌がらせや無理難題を突きつけてくるやもしれん。だが、君たちの背後にはこのギルドと、この街のすべての冒険者がついていることを忘れるな」


「ヴァルターさん……!」


「へへっ、困ったことがあったらいつでも連絡しな! 俺たちがいつでも王都へ殴り込んでやるからよ!」


バルガスが豪快に胸を叩き、二葉と三葉の頭をわしわしと撫で回した。


三人を取り囲む温かな愛と期待。一葉は胸が熱くなり、何度も深々と頭を下げた。


「皆さん、本当にありがとうございます! 行ってきます!」


「行ってきまーす!」


「行ってまいります!」


三人は店前に立つ父・一二三と母・葉に向き直った。


「一葉、二葉、三葉。自分たちの信じた道を歩みなさい」


一二三が穏やかに微笑み、葉が温かく抱きしめてくれた。


「気をつけてね。美味しいお土産を楽しみに待っているわ」


「はい! お父さん、お母さん!」


三人は背中に詰まった大きな鞄と、胸に輝く銅色のEランクプレートを誇らしげに揺らし、朝日に照らされた街道へと歩み出した。


王都へと続く街道を進む大型の乗り合い馬車の中。


窓の外を流れる緑の風景を見つめながら、二葉が木剣の柄をさすった。


「ねえ、ひと姉。王都ってどんなところなんだろうね? すごく大きくて、綺麗な建物がいっぱいあるのかな?」


「ええ、きっと賑やかで素敵なお店もたくさんあるはずよ。でも……」


一葉は胸元のペンダントに触れ、引き締まった表情を浮かべた。


「私たちが向かうのは、華やかな光の裏にある『魔力腐敗症』という深い影のただ中よ。浮かれずに、気を引き締めていきましょう」


「うん。僕も王都の魔力環境や噂される奇病のデータをできる限り書き込んでおいたよ」


三葉が静かに頷く。


「子爵の狙いがどうであれ、僕たちの魔法で、必ず患者さんを救い出すことができるよ」


「ええ。三人で力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられるわ」


一葉は二人の手をそっと握りしめた。


Fランクから地道に積み重ね、Eランクへと昇格した森羅家の三姉弟。


生まれ育った故郷の街を後にし、生活魔法という名の小さくも力強い芽吹きを携えて、三人は巨大な試練と謀略が渦巻く決戦の地・王都へと向けて、確かな一歩を踏み出していた。

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