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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第24話:後方支援の真価と、迫り来る影

地鳴りのような重低音が響いてから、それほど時間はかからなかった。


『グリーン・リーフ』の店前に、傷ついた冒険者を抱えた自警団員たちが雪崩れ込んできた。


「救護班! 負傷者だ! 調査隊の先鋒が森の中層手前で、異常発生した魔物の群れと激突した!」


店内に緊迫した叫び声が響きわたる。運ばれてきたのは、全身に深い爪傷を負った青年冒険者と、肩口から猛毒を流し込まれて顔を紫に染めたベテランの戦士だった。


「こちらへ! 担架を中央のテーブルに!」


一葉が凛とした声で指示を飛ばす。


「二葉、出血の酷い方を! 三葉は毒を受けている方の応急処置を頼むわ!」


「了解!」


二葉がすばやく青年冒険者の元へ駆け寄る。血が溢れ出る太ももの傷口に対し、手際よく清潔な包帯を巻き付けると、即座に魔法を発動させた。


「【二生の根張】!」


二葉の繊細な魔力コントロールにより、包帯と皮膚が隙間なく強力に固定され、圧迫止血の効果が飛躍的に高まる。溢れていた滑血がぴたりと止まった。


「すげえ……痛みが和らいで、血が止まった……!」


一方、三葉も素早く動き出していた。手帳を開き、紫に腫れ上がった戦士の肩口へ手をかざす。


「【三途の葉落】……!」


三葉の不純物分解の魔法が冴え渡る。


体内に侵入した毒素の構成要素だけをピンポイントで識別し、細胞を傷つけることなく異物として分解・除去していく。


顔の紫斑がみるみるうちに薄くなり、戦士の荒い呼吸が落ち着きを取り戻していった。


「よし、毒素の八割を分解完了! あとは解毒薬を飲ませれば大丈夫です!」


「ありがとう、二人とも!」


一葉が二人の処置の仕上げに入る。


二人の元へ順番に歩み寄ると、空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かした。


「【一輪の秒芽】……!」


淡い緑色の魔力が負傷者たちを優しく包み込む。


二葉が止血した傷口と、三葉が毒を抜いた状態が、一葉の魔法によって時間ごと固定され、傷の悪化や二次感染が完全に遮断された。


「これで本格的な治療院へ運ぶまでの時間は十分に稼げるわ。二人とも、次の患者さんを!」


「「はい!」」


後方に控えていたギルドの衛生兵やヴァルターは、目を見張ってその光景を注視していた。


「信じられん……専門の回復魔法使い(ヒーラー)すら手惑う重傷と劇毒を、生活魔法の組み合わせだけでここまで迅速に抑え込むとは……!」


ヴァルターが感嘆の声を漏らす。


生活魔法は威力が低い。しかし、その分「魔力消費が極めて少なく」「対象の細部にまで精密に干渉できる」という最大の強みがあった。


三姉弟の連携は、凄惨な救護現場において完璧な救命システムとして機能していた。


それから一時間。次々と運ばれてくる負傷者を、三人は不眠不休で処置し続けた。


厨房では一二三と葉が、疲弊した救護員や軽傷者たちのために、高栄養のスープと回復効果を高めるハーブティーを絶え間なく作り続けている。


「みんな、一口でも飲んでおきなさい。身体の芯から魔力が回復するわ」


葉が優しく差し出す温かいスープを飲み、傷ついた冒険者たちが生き返ったような表情を見せる。


「助かった……マスター、一葉ちゃんたちがいなかったら、俺たちのパーティは全滅してたくらいだ」


「ああ、生活魔法があんなに頼もしいなんて思いもしなかったぜ……」


感謝の声が店内に溢れる中、一葉は【一輪の秒芽】の発動速度と精度の高まりを肌で感じていた。


(傷の進行を止める『鮮度保持』……。何度も繰り返すうちに、魔力の巡りが以前よりずっと滑らかになっている。対象の状態をより正確に捉えられるようになってるわ)


成長のステップを確実に登っている手応え。しかし、一葉の胸のざわめきは消えなかった。


運ばれてくる負傷者の数が、徐々に増えているのだ。


「……バルガスさんは? 第一小隊はどうなったの?」


二葉が汗を拭きながら、新しく運ばれてきた冒険者に尋ねた。冒険者は悔しそうに歯を噛み鳴らす。


「バルガス隊長は……俺たち負傷者を逃がすために、中層手前の防衛線で立ち塞がってる! だが、相手が最悪だ……!」


「最悪……?」


三葉が眉をひそめる。


「狂暴化した中層の魔物だけじゃない! 森の奥の『歪み』から溢れ出た影のような不気味な魔物が、次々と湧き出してるんだ! バルガス隊長一人じゃ、長くは持ちこたえられない……!」


その言葉に、店内の空気が凍りついた。


「一葉、二葉、三葉」


厨房から静かな歩調で歩み出てきたのは、父の一二三だった。その佇まいは、普段の温厚なカフェのマスターのそれではない。かつての冒険者としての、圧倒的な覇気が静かに立ち上っていた。


「お父さん……」


一二三は窓の外、激しい戦闘の気配が漂う森の方角を見つめた。


「後方支援は十分に見事だった。お前たちが、多くの命を救ったよ。……だが、防衛線が突破されれば、この店も、街も呑み込まれる」


「あなた……」


葉がそっと一二三の隣に並ぶ。


両親の本気の気配を前に、二葉と三葉は息を呑む。


しかし、一葉はゆっくりと前に踏み出した。


「お父さん、お母さん。……私達も行きます」


「ひと姉!?」


二葉が驚いて一葉を見る。三葉も目を見開いた。


一葉は振り向き、妹と弟の目をまっすぐに見つめた。


「私たちは、ただ守られるだけの存在じゃないわ。この数日間の特訓で、私たちが三人揃えばどれほどの力を発揮できるか、確かめたはずでしょう?」


一葉の言葉に、二葉と三葉の瞳に再び強い光が宿った。


「……うん! ひと姉の言う通りだ! バルガスさんを助けに行こう! 私たちの連携なら、絶対に力になれる!」


二葉が木剣を強く握り直す。


「僕の【三途の葉落】で、影の魔物の構造も解明してみせる。僕たち三人で行かせてください、お父さん!」


三葉が手帳を胸に強く押し当てた。


一二三と葉は、成長した三人の子供たちの姿をじっと見つめた。そこには不安や恐れではなく、大切な場所と仲間を守るための気高き決意だけがあった。


一二三は一瞬だけ目を閉じ、やがてゆっくりと開くと、深く頷いた。


「……分かった。ただし、決して一人で先行するな。三人で寄り添い、お互いを守り合え。……一葉、二葉、三葉。お前たちの真価を、森の影に見せてやりなさい」


「「「はい!!」」」


頼もしい返事を残し、三姉弟は救護拠点を飛び出した。


バルガスが待つ、激戦の森の中層手前へ向かって。森羅家の絆と研ぎ澄まされた魔法が、ついに本格的な戦場へと解き放たれようとしていた。

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