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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第22話:夜の庭園訓練と、確かな手応え

営業を終え、すっかり暗くなった『グリーン・リーフ』の裏庭。


月明かりと、ランタンの柔らかな光が敷地内をぼんやりと照らしている。昼間の喧騒とは打って変わり、静まり返った庭には夜風の吹き抜ける音だけが響いていた。


「よし、それじゃあバルガスさんに教えてもらった『不意打ち』と『罠』の応用、三人で試してみようか」


二葉が素振りを終え、木剣を握り直した。


「うん。昼間言っていた【一輪の秒芽】と【三途の葉落】の連携なんだけど、ひと姉に試してもらいたいことがあるんだ」


三葉が手帳を開き、ランタンの光にかざしながら一葉を見る。


「私の【一輪の秒芽】と……?」


「そう。僕の【三途の葉落】は、不純物や特定の要素を分解して『状態を変化させる』魔法だよね。でも、変化させた状態を維持するのには魔力を使い続ける必要がある。そこにひと姉の『状態を固定する(鮮度保持)』魔法を重ねたらどうなるかなって」


三葉の言葉に、一葉はハッと目を見開いた。


「なるほど……! 私の魔法で、三葉が作った『摩擦ゼロの地点』や『分解した直後の状態』を固定してしまえば、三葉が魔力を送り続けなくても罠が持続するのね」


「そういうこと! これなら三葉が別の行動をとっても、設置した罠がそのまま残り続けるよ!」


二葉が嬉しそうに声を弾ませる。


「やってみましょう」


一葉は優しく微笑むと、指先をすっと立てた。


まずは実験だ。三葉が庭の真ん中にある平らな石に向かって魔法を発動する。


「【三途の葉落】……!」


石の表面に付着していた極小の凹凸や土埃が一瞬で分解され、鏡のように滑らかな状態へと変化した。


通常であれば、風が吹き土が乗ればすぐに元の摩擦を取り戻してしまう。


そこへ一葉がすかさずステップを踏み込み、空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かした。


「【一輪の秒芽】……!」


淡い緑色の魔力が石の表面を包み込み、そのまま静かに浸透していく。


二葉が木剣の先でその石を突いてみた。


ツルッ!


「すごい! 完全に固定されてる! 力を込めても全然引っかからないよ!」


「うまくいったね。……魔力消費も、単体で維持するよりずっと少ない」


三葉が満足そうに手帳へメモを書き込む。


「次は、二葉の【二生の根張】との組み合わせね」


一葉が二葉に向き直る。


「二葉が相手の武器や足元に魔力を付与した瞬間、私の【一輪の秒芽】でその『拘束状態』を固定するわ。そうすれば、相手が力任せに振り解こうとしても、拘束の強度が持続するはず」


「うん! それ、絶対強いよ! やってみよう!」


二葉が木剣を構え、庭に置かれた木製の練習用ダミーへと躍り出た。


「【二生の根張】!」


二葉が木剣をダミーの腕に打ち据えると同時に、根のような魔力が巻き付く。そこへ一葉が指を滑らせ、【一輪の秒芽】で状態を即座に固定した。


ガキィン! と重い音が響き、ダミーの腕は完全に硬直した。二葉が引いても、ダミー自体が地面に縫い付けられたかのように微動だにしない。


「固定が……解けない! ひと姉の魔法が合わさるだけで、こんなに強固になるんだ……!」


二葉が目を丸くして感嘆の声を漏らす。


「単体の魔法は小さくても、互いの効果を補い、固定し、連鎖させることで、これほどの強度を生み出せる……。僕たちの魔法は、三人揃って初めて完成するんだ」


三葉が手帳をしっかりと握りしめた。


一葉もまた、己の指先を見つめながら確かな手応えを感じていた。


「うん。これなら……もし森から魔物がやってきても、時間を稼ぎ、お互いを守ることができるわ」


三葉の不純物分解による「環境変化」、二葉の根張りによる「位置固定」、そして一葉の鮮度保持による「状態の定着」。


些細な術式が、三姉弟によって、想像を超える「戦術」へと昇華された瞬間だった。


特訓を終え、額の汗を拭いながら店内へ戻った三人。


厨房のカウンターでは、父の一二三が温かいホットミルクとハーブティーを用意して待っていた。


「お疲れ様。裏で良い訓練ができたようだね」


一二三が穏やかな笑みを浮かべてカップを差し出す。


「お父さん! すごいんだよ! 三人の魔法を合わせたら、ダミーが完全に固まって動かなくなっちゃったの!」


二葉が興奮気味にホットミルクを受け取り、今日の成果を身振り手振りで報告する。三葉も温かいカップを両手で包み込みながら頷いた。


「バルガスさんに教わったことと、ひと姉の【一輪の秒芽】の応用が綺麗に噛み合いました。これなら、強い相手が来ても連携で対応できます」


「そうか……互いの魔法を理解し、補い合う。素晴らしい成長だな」


一二三は優しく二人の頭を撫でた。


その横で、食器を片付けていた母の葉が、一葉の元へ歩み寄る。


「一葉。あなたも、自分の魔法の新しい使い方を見つけられたようね」


「うん、お母さん。……私、ずっと自分の魔法は料理の鮮度を保つためだけのものだと思ってたの。でも、二人を助けるための力になれるって分かって……少し安心した」


一葉が控えめに微笑むと、葉は温かくその手を包み込んだ。


「あなたの【一輪の秒芽】は、ただ状態を保つだけではないわ。大切なものを『変えさせない』という、とても強い意志の魔法なのよ。自信を持ちなさい」


「うん…!」


一二三は静かに三人を見渡すと、表情を少しだけ引き締めた。


「明日からはギルドの警戒態勢も本格化する。街の自警団や冒険者たちが森の警戒にあたるはずだ。私たちが直接前線に出ることはないが、お店に来る冒険者たちのサポートや、万が一の備えは怠らないようにしよう」


「「「はい!」」」


三人の頼もしい返事が、夜の厨房に心地よく響いた。


その夜。


二階の自室で、一葉は窓枠に手をかけ、静まり返った街の夜景と、その向こうに黒々と佇む大森林を見つめていた。


夜風が髪を揺らし、微かに湿った異様な魔力の匂いを運んでくる。


(森の『歪み』……。お父さんたちも気にしていたけれど、間違いなく異変は近づいている)


一葉はそっと胸元に手を当てた。


かつての冒険者だった両親が、なぜこの街でカフェを開き、静かに暮らしているのか。その詳しい理由はまだ聞いていない。


だが、理由が何であれ、今の森羅家には守るべき温かな日常がある。


(二葉も三葉も、一生懸命強くなろうとしている。……私も、長女として二人を絶対に守ってみせる)


指先を滑らせ、空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かす。


手のひらに灯る、小さくも揺るぎない【一輪の秒芽】の緑色の光。


暗闇の中で静かに輝くその光は、これから訪れるであろう大きな嵐に対し、決して折れることのない森羅家の絆を象徴しているかのようだった。

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