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森羅家の生活魔法は戦闘不能? 〜カフェの雑用と馬鹿にされた三姉弟、Fランクから最強へ駆け上がる〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第13話:新しい調理器具と、常連さんの小さなお祝い

午前十時。『グリーン・リーフ』の開店を知らせる真鍮のベルが、カランコロンと涼やかな音を響かせた。


「いらっしゃいませ! 『グリーン・リーフ』へようこそ!」


二葉の元気な声が店内に通る。


扉をくぐってきたのは、常連客のマリアと、その近所に住む老紳士のトーマスだった。


「一葉ちゃん、二葉ちゃん、三葉くん、おはよう。昨日いただいたお茶とスコーン、本当に美味しかったわ。今日はトーマスさんも誘って来ちゃったのよ」


「おはよう、森羅の子供たち。マリアさんから噂を聞いてね。ここのお茶を飲むと、長年の腰の痛みが和らぐと聞いて楽しみにしていたんだ」


「マリアさん、トーマスさん、いらっしゃいませ! お席へどうぞ」


一葉が二人を窓際の日当たりの良いテーブル席へ案内する。


「三葉、トーマスさんには『ミズタマリ草』をブレンドした特製ハーブティーと、焼き立てのベリースコーンを用意しようか」


「うん、了解。昨日の新しいおハサミで細かく刻んだハーブがあるから、すぐ抽出できるよ」


三葉が手帳に素早く注文を書き込み、厨房で手際よく茶葉を準備する。


昨日買い替えたばかりの真新しい裁断用ハサミは切れ味が抜群で、茶葉の細胞を余計に潰すことなく綺麗に刻むことができた。


三葉の清掃魔法【三途の葉落】によって不純物が極限まで取り除かれたミズタマリ草は、独特のエグみが一切なく、透き通ったエメラルドグリーンの茶葉に仕上がっている。


一葉が【一輪の秒芽】で常に『摘み立ての瞬間』のフレッシュさを保っているため、お湯を注いだ瞬間に、森林浴をしているかのような瑞々しい香りが爽やかに広がっていく。


「お待たせいたしました。特製ミズタマリハーブティーと、焼き立てスコーンのセットです」


一葉が丁寧にカップを並べると、トーマスはその香りの深さに目を見張った。


「ほう……これは実に素晴らしい香りだ。まるで朝露の降りた深い森の中にいるような気分になるね」


トーマスがゆっくりとカップを傾け、温かいお茶を一口飲んだ。


次の瞬間、トーマスの目が驚きで見開かれた。


喉を通り抜けた温かなお茶が、じわじわと全身の血行を良くし、長年重く沈んでいた腰の関節周辺が、まるで日向ぼっこをしているかのように温かく解れていくのが分かったのだ。


「こ、これは……!? 体の芯からじんわりと温かくなって、重かった腰が嘘みたいに軽い……! マリアさんが言っていたのは本当だったのだな!」


「ふふ、でしょう? 一葉ちゃんたちが淹れてくれるお茶は、ただ美味しいだけじゃなくて、なんだか元気が湧いてくるのよ」


マリアが嬉しそうに微笑む。


「一葉ちゃん、本当にありがとう。こんなに素晴らしいお茶が飲めるなら、毎日でも通いたいくらいだよ」


「気にいっていただけて良かったです、トーマスさん。お豆やお茶の鮮度には特に気を配って仕込んでおりますから」


一葉が控えめに微笑む。


厨房では、昨日買った小鍋を使って二葉と三葉がスコーン用の自家製ベリージャムを煮詰めていた。新しい小鍋は熱伝導率が高く、果肉の形を残したまま短時間で鮮烈な赤色に炊き上がる。


「見てひと姉、新しいお鍋だと焦げ付かないで綺麗にジャムが仕上がるよ!」


二葉が木ベラを持ちながら振り返る。


「本当ね、二葉。甘みも凝縮されていて、スコーンとの相性もばっちりよ」


「昨日、ギルドで買い取りのついでに道具を買い替えて大正解だったね。大銀貨二枚の査定のおかげで、残ったお小遣いでお父さんとお母さんにもいい紅茶の茶葉が買えたし」


三葉が手帳の出納帳をペンで叩きながら頷いた。


自分たちの魔法処理が異次元の薬効を生み出している自覚は一切なく、ただ買い出しの成果に満足している様子だった。


午後の営業も落ち着き、店内に静かなジャズが流れる時間帯。


カランコロン、とドアのベルが鳴り、一人の背の高い男が入ってきた。


背中に大きな剣を背負った男——Cランクパーティ『鋼の牙』のリーダー、バルガスだった。


「いらっしゃいませ、バルガスさん」


一葉が出迎えると、バルガスは店内を見回し、少し照れくさそうにカウンターの端の席へと腰を下ろした。


「おう。仕事の合間にちょっと時間が空いてな。昨日、ギルドで騒ぎがあったって聞いて……お前たちが怪我でもしてねぇかと思って立ち寄ってみた」


バルガスは腕を組み、不器用にぶっきらぼうな声を出す。


「まあ、バルガスさん! 心配してくださったのですか? ありがとうございます。見ての通り、私達も家族もみんな無事ですよ」


一葉がパッと表情を明るくする。


「ふん……まあ無事ならいいんだ。あの後、ギルド長から聞いたぞ。お前たちが持ち込んだハーブに、Fランク最高の買取値がついたそうだな」


「はい! お父さんとお母さんに教えてもらった通りに仕込んだハーブを高く評価していただけて嬉しかったです。お陰で新しいお鍋とハサミが買えましたよ」


二葉がカウンター越しに、新しくピカピカに磨かれた小さなお鍋を見せてにっこり笑う。


バルガスはその無邪気な笑顔と、出された淹れたての珈琲に視線を落とし、深く溜め息をついた。


「……たく、普通ならFランクでそんな高額査定を出されたら、有頂天になってランクアップの危険な依頼に飛びつくところだ。だが、お前たちは相変わらず『お鍋が買えた』で大満足か」


「当たり前ですよ。僕たちの本業はこのカフェの営業ですから。冒険者としての活動は、お店で使うハーブの採集とお掃除の延長なんです」


三葉が手帳に明日の仕込みメモを書き込みながら、淡々と応じる。


「ははは、相変わらずブレないねぇ、三葉は」


カウンターの奥から、父の一二三が笑いながら追加の珈琲豆を持って現れた。母の葉も焼き立ての試作クッキーを小皿に載せてバルガスの前に置く。


「バルガスさん、うちの子たちがいつもギルドでご迷惑をおかけしていないかい?」


「いやいや、ご両親。迷惑どころか、この子たちの持ってくるハーブのおかげでギルドの薬草ストックの質が跳ね上がって大騒ぎですよ。当の本人はお鍋とハサミで喜んでますけどね」


バルガスが苦笑しながらクッキーを口に運ぶ。サクッとした歯ごたえとともに、バターの芳醇な香りとほのかなハーブの風味が広がった。


「……うまいな。このクッキーも、あのハーブを使ってるのか?」


「ええ、昨日三人で摘んできてくれたグリーンハーブを少し生地に混ぜ込んであるのよ。香りが立って美味しいでしょう?」


一葉が嬉しそうに微笑む。


「……なるほどな。街の冒険者やギルドがどれだけ大騒ぎしようが、この店じゃあ全部『美味しいお茶とお菓子』の材料に変わるわけだ」


バルガスは珈琲を一口含み、その深い味わいに満足そうに目を細めた。


「まあ、何はともあれ無事で良かったよ。だが、あまりに質の良いハーブばかり納品してると、また別の変なパーティや商人に目をつけられるかもしれないからな。最浅層での採取とはいえ油断するなよ」


「うん! 気をつけるね!」


二葉が元気よく返事をし、バルガスは「ごちそうさま」と代金をカウンターに置いて、軽やかな足取りで店を後にしていった。


夕方になり、すべての営業を終えた『グリーン・リーフ』。


「よし、本日の営業終了! テーブルの拭き掃除も完了だよ!」


二葉が雑巾をバケツですすぎ、元気に声を上げる。


「厨房の洗い物も全部終わったよ。新しいハサミのお手入れもして、油を差しておいたから明日もバッチリ使える」


三葉が整理された棚を見渡して手帳にチェックを入れる。


「二人とも、今日もお疲れ様。お母さんが作ってくれた夕食をいただきましょうか」


一葉が穏やかに呼びかけ、三人は奥の居住スペースへと向かうのだった。

「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】(★★★★★)で応援していただけると励みになります!」


前作もあわせてお楽しみいただけると嬉しいです!


前作はこちらから読めます。

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