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森羅家の生活魔法は戦闘不能? 〜カフェの雑用と馬鹿にされた三姉弟、Fランクから最強へ駆け上がる〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第12話:横暴な冒険者と、無自覚な最高評価

「ひと姉、ちょっとネクタイが歪んでるよ。じっとして」


午後のピークが落ち着いた『グリーン・リーフ』の厨房で、二葉が一葉の襟元に手を伸ばし、器用に結び直した。


「……あら。気を付けていたんだけどな。ありがとう、二葉」


一葉は困ったように微笑みながら、一二三が淹れてくれた食後の珈琲に口をつける。


「ひと姉は本の整理や珈琲の仕込みを始めると、周りが見えなくなっちゃうからね。ほら、寝癖も少し残ってるよ」


三葉が小さく苦笑しながら、手拭いに少し水をつけて一葉の毛先を抑えた。


「一葉、二葉、三葉。そろそろお店の仕込み用のハーブと、マリアさんに頼まれていたスコーンのテイクアウト分が完成するよ。お茶を飲んだら、少し街へ買い出しに行ってきてくれるかい?」


一二三が穏やかな声で声をかけ、淹れたての温かい珈琲を三人分のカップに注いだ。


「はーい! お父さん、スコーンの包みは私が見ておくね!」


母の葉が手渡してくれた包みを大事そうに鞄へしまい、三人は両親に見送られて『グリーン・リーフ』の扉を開けた。


マリアへのお届けものを済ませた三人は、ギルドの買取窓口へと足を運んだ。


ダンジョン最浅層で採取した『ミズタマリ草』と『グリーンハーブ』、そしてスライムから採れた魔石を換金し、新しい調理器具を買うためだ。


ところが、買取窓口のフロアは嫌な緊張感に包まれていた。


「おいおい! Fランクのガキどもがノロノロ並んでんじゃねえよ!」


粗暴な声とともに、二葉の肩が強く突かれた。振り返ると、柄の悪いDランクパーティのリーダー格の男が、不快そうに三人を見下ろしていた。


「たかが雑用専業のFランクが! おい、査定員! 俺たちが命がけで手に入れた中層の魔物の素材だ! 先に査定しろ! ガキどものゴミハーブなんて後回しでいいだろ!」


男は強引に三人を押しのけ、窓口の台の上にドスンと魔物の爪や皮を叩きつけた。


「あら……でも、私たちもお買い物がありますので、順番を守っていただけると助かるのですが……」


一葉が困ったように首を傾げると、男は青筋を立てて一葉の胸元へ手を伸ばした。


「あァ!? 命が惜しくねえのか、このアマ——」


次の瞬間、男の手首がピタリと途中で止まった。


二葉が一葉の前に立ち、男の手首を片手でガッチリと掴んでいたのだ。


【二生の根張】。カフェの超重量級な冷蔵庫を一人で動かす二葉の脚力と固定力は、大地に根を張ることであらゆる衝撃を無効化する。荒くれ冒険者の腕力など、二葉にとっては「びくともしない棚」以下だった。


「……ひと姉に気安く触らないで。動かないわよ?」


「ぐ、ぐあああっ!? こ、この女、どんな怪力してやがる……!?」


どれだけ力を込めても細い片手から腕が抜けない。骨がギチギチと悲鳴を上げ、男の顔が恐怖で歪んだ。


「ふた姉、いいよ。騒ぎにしたらお父さんとお母さんに心配かけちゃうから」


三葉が手帳を開きながら、袋から素材を取り出して台の上に置いた。


傷ひとつない『グリーンハーブ』と、水滴を湛えた『ミズタマリ草』だ。


男の仲間が腕を押さえる男を庇いながら笑った。


「ハッ! ただの雑草じゃねえか! 最浅層の薬草なんて全部合わせても銀貨数枚だろ! 俺たちの素材は大銀貨三枚(約三万円)の値がつく代物だぞ!」


だが——査定員の顔色が、一瞬で変色した。


「な……なんですか、これは……!? 根から引き抜かれているのに、まるで『いま命を吹き込まれた瞬間』のように魔力が満ちている……!?」


「え? ああ、それですか?」


一葉が呑気に微笑んだ。


「摘んだ瞬間の新鮮なお豆の香りを損なわないための【一輪の秒芽】をかけておいたんです。これをしておくと、お野菜もハーブも傷まないんですよ」


対象の状態を完璧なまま時間固定する神技。査定員はさらにミズタマリ草を見て息をのんだ。


「こ、こちらの草も不純物が完全に分解され、純粋な『聖水草』に変質している……!?」


「あ、それは僕の【三途の葉落】です。お店の庭の雑草を枯らしたり、生ゴミを分解する清掃魔法なんですけど、不純物を分解しておきました」


「清掃魔法だと……!?」


査定員は冷ややかな目で男たちの素材を一瞥した。


「……お前たちの素材は解体が雑で傷も目立つ。買取価格は銀貨5枚(約5千円)だ」


「なっ……!? 大銀貨3枚って言っただろうが!」


「それに対して……この完全鮮度保持・完全浄化されたハーブ群は……Fランクの持ち込みとしては異例の【大銀貨2枚(約2万円)】で買い取らせていただきます!」


「「「大銀貨2枚ぇぇぇぇぇえええええっ!?!?」」」


フロア内に驚愕の叫びが響き渡った。


命がけで獲ってきたゴツい素材が5千円、雑草と馬鹿にしたFランクのハーブが2万円。


「嘘だ! イカサマだ!!」と男が叫び、一葉たちに殴りかからんとしたその時——。


「おい。俺の行きつけの店の店主たちに、何か用か?」


静かだが鋭い圧迫感とともに、フロアの奥から歩み出てきたのは、昨日『グリーン・リーフ』を訪れたBランク冒険者・アルフレッドだった。


「ひっ……!? Bランクの『銀翼の風』のアルフレッド様……!?」


「彼らの淹れるお茶やお菓子の価値も分からない愚か者が、威張るんじゃない。ギルドの恥晒しめ」


アルフレッドが軽く威圧を放つだけで、男たちは腰を抜かし、ガタガタと震え上がった。


そこへ騒ぎを聞きつけたギルド長も現れ、横暴を働いた男たちに【ライセンス一時停止&ペナルティ罰金】を即座に言い渡した。


自分たちが見下していたFランクの三人に圧倒的な評価の差を見せつけられ、さらに本物のBランク冒険者に一睨みされた男たちは、顔面蒼白で逃げ出していった。


ギルド長は一葉たちに向き直った。


「素晴らしい納品でした、森羅殿。本当なら昇格させたいところですが……ギルド規定の討伐数や採取実績の規定数に届くまでは、ルール通り【Fランクのまま】実績ポイントをしっかり貯めていただく形になります」


「はい! もちろん大丈夫です!」


一葉がホッとしたように微笑んだ。


「ええ、私たちまだFランクになったばかりですし、お店の仕込みのついでに採取しているだけですので!」


二葉も笑顔で頷く。


「……うん。大銀貨2枚もあれば、欲しかったお鍋もハサミも無事に買えるね」


三葉も手帳に『買い出し予算:クリア』と書き込んだ。


「「「(Fランクのままで全然悔しがってない……!?)」」」


ギルド内がズコーッと派手にずっこけた。


自分たちがどれほど凄い評価を受けたかも、嫌な冒険者を叩きのめしたことも、三姉弟には全く自覚がなかった。


「よし! 新しいお鍋もハサミも買えたし、おうちへ帰ってお母さんにお話ししよう!」


「うん、ひと姉! 今日の夕飯のお手伝いも楽しみだね!」


「三葉、寝癖治った? お店に戻ったら、お父さんに美味しい珈琲淹れてもらおうね」


お金をカバンに仕舞い、三人はいつものようにFランクのまま仲良く手を繋ぎ、両親の待つ『グリーン・リーフ』へと帰っていくのだった。

「少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【評価】(★★★★★)で応援していただけると励みになります!」


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前作はこちらから読めます。

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