第9話 歌わされる羽目に
「♪♪♪」
学校が終わった放課後。
俺は桜井、前川さん、後藤さんと一緒に学校近くのカラオケに来ていた。
現在、トップバッターを進んで引き受けた桜井が、最近の流行っていそうな歌を熱唱する。
前川さんも後藤さんも知ってる様子でリズムに乗って身体を左右に揺らす。
この歌を知らないのは俺だけなのだろう。
そんな気がした。
それにしても。
桜井の奴、歌が上手いな。
歌い慣れてるって感じ。
カラオケの採点の音程もほとんど外さずに歌えている。
上級者って感じだ。
5分ほどの熱唱を終えて桜井が歌い切る。
モニターに点数が表示される。
95点だった。
「まぁ、こんなもんかな」
桜井は得意げな顔でマイクをスタンドに置く。
当たり前のように前川さんの隣に座る。
その距離が妙に近い気がする。
「ちょっと、いつもより低いけどね。ちょっと喉の調子が良くなくてね」
桜井は隣の前川さんに本調子じゃないことをアピールする。
「ふ~ん。そうなんだ。それでも90点超えるなんて凄いじゃん」
前川さんは操作していたスマートフォンから目を離し、モニターに映された得点を見て桜井を褒める。
「前川もそう思う? 嬉しいな~」
桜井は嬉しそうに頬を緩める。
「それじゃあ、この調子で行こう! 次は大江、行ってみよう! 」
桜井は勢いよく俺を指差す。
「え…。俺? 」
俺は自分の顔を指差す。
「そうだよ。君だよ」
桜井は肯定するように頷く。
「俺は…いいかな…」
俺は桜井から視線を逸らす。
自分が歌うなど想定すらしていなかった。
「俺が歌って、前川も後藤も歌う予定なのに、自分1人だけ歌わないのはノリが悪くない? 」
桜井は前川さんや後藤さんに同調を求める。
「まあ、無理にとは言わないけど」
「歌いたくない理由でもあるのかな? 」
前川さんと後藤さんは同調こそしなかったが、不思議そうな表情をしていた。
なぜ歌うのを嫌がるのかという風な感じで。
「前川や後藤は、ああ言ってるけど。どうする? やめる? 」
桜井は俺に2択の選択肢を提示する。
だが、やめるを選べる状況ではなかった。
このまま歌わなくても何も言われないだろう。
だが、変な空気になるのは確かだった。
それだけは想像できる。
「う、歌うよ」
俺はソファから立ち上がる。
自分が知ってる曲をセレクトする。
小学校で歌った経験のある当時流行っていたJPOPを選択する。
これなら3人が知らないことはないと思ったから。
スタンドのマイクを手に取る。
室内にJPOPのイントロが流れ始める。
俺は歌う準備を整える。
桜井、前川さん、後藤さんの視線が俺に集まる。
まだ歌ってもいないのに見られてる感覚。
緊張しかしない。
カラオケなんて数回しか来たことない。
採点なんて初めて。
だから自分の歌や点数がどう思われるかも怖い。
そんな恐怖心と戦いながらイントロを終えたメロディーに合わせて歌い始めた。




