第10話 告白
「はぁぁぁ~〜」
俺は大きな溜め息を吐く。
カラオケの結果は散々だった。
音程は合わないし、盛り上がりもしなかった。
桜井、前川さん、後藤さんからの反応もよくなかった。
点数も75点と桜井に比べて遥かに悪かった。
「うん、ドンマイ」と桜井にフォローされる始末。
大恥をかいてしまった。
そんな俺はカラオケを終えて解散した後、帰路に就いていた。
近くの学校を通る。
「うん? 」
見覚えのある2人を発見する。
場所は学校の裏門の近く。
前川さんと桜井だった。
確か、解散の際に2人で行きたいところがあると言っていた気がする。
俺は近くの物陰に隠れる。
「なぁ、前川。ちょっといいかな」
桜井が前川さんに声を掛ける。
どこか緊張した面持ち。
「なに? 」
前川さんも応答する。
「いきなりなんだけど。俺、前川のことが好きなんだ。俺たち付き合わない? 」
桜井からの告白。
19時という時間帯もあり、部活動も終了しており、裏門近くに人気はない。
「…ごめんなさい。私、そのような目で桜井を見たことなかった」
前川さんは丁寧に頭を下げる。
桜井からの告白を断る。
「「…」」
告白を断られた桜井と前川さんで気まずい空気が流れる。
しばらく沈黙が続く。
「じゃあ…。帰るね。いい? 」
前川さんが踵を返す。
この場を去ろうとする。
「ま、待て!! 」
桜井が1歩踏み出して前川さんの腕を取る。
「な、なに? 」
前川さんの顔に動揺が走る。
いきなり腕を掴まれて驚いたのだろう。
「ちょっと考え直してくれ。俺の告白の件。嘘だよな? 断るなんて」
桜井がしつこく粘る。
「はぁ? さっき返事したよね? 付き合えないって」
前川さんが鬱陶しそうに桜井の手を振り払おうとする。
「離さない! ここでオッケー出して貰うまで!! 」
桜井は強く抵抗する。
前川さんの腕を力強く握る。
「だ、だから! 付き合えないって言ってるでしょ! 話を聞いて! 」
前川さんの表情が歪む。
おそらく桜井の握力に痛みを感じたのだろう。
「嫌だね。俺の君への気持ちは本物だ。それに応えてくれるまでは」
桜井の目が血走る。
頭のネジが1本ほど飛んでしまったようだ。
踏み込んではいけない領域まで入っている。
「…誰か」
前川さんは困惑した表情で周囲を見渡す。
まるで助けを求めるように。
「無駄だよ。こんな時間に誰も来ない。敢えて俺がそんな場所を選んだんだから」
桜井が意地悪な笑みを浮かべる。
普段の爽やかさは損なわれる。
してやったりな表情。
「…そんな」
前川さんの表情が恐怖に支配される。
身体を震わせる。
明らかに桜井に怯えている。
「さあ、前川。いや、都子。どうする? 」
桜井は前川さんに選択を迫る。
このまま恐怖で前川さんを押し切るつもりだ。
無理やり告白を成功させて前川さんと付き合うつもりだ。
こんなゲスな行為、見逃してはならない。
俺は助けに入ればいい話だ。
だけど、桜井や渡辺みたいな陽キャは怖い。
中学から陽キャに怯えて学校生活を過ごしてきた。
恐怖の対象だからこそ渡辺に彼女を奪われても何も言わなかったのだ。
普通の人間なら何かしらの文句や不満をぶつけているだろう。
でも、前川さんには借りがある。
渡辺にやつ当たりで詰められた時に守って貰った。
あの恩は忘れない。
その借りは返さないといけないと思っている。
そして、そんな前川さんのピンチ。
ここで助けないで、いつ助ける?
自分の恐怖を優先して、借りのある人を助けずに見て見ぬフリをするのか?
そんなの最低だ。
今の告白を無理やり通そうとする桜井以下だ。
頑張れ、大江真春。
お前、男に生まれてきたんだろ?
男には恐怖を克服しなければいけない時が来る。
それが今なんじゃないか?
今こそ踏み出せ! 前川さんを助けるために!!
俺は人生で初めて陽キャに対する恐怖に打ち勝ち、前川さんを助けるために大きな1歩を踏み出した。




