第11話 勇気を振り絞って
「ちょっと嫌がってない? 」
俺は勇気を振り絞って助けに入る。
「あ? 」
桜井が俺の存在に気が付く。
不機嫌な目を向ける。
教室での爽やかな笑顔は見る影もない。
「大江…君」
前川さんも俺の存在に気が付く。
不安な瞳を俺に向ける。
今すぐにでも助けて欲しそうな目だった。
「カラオケが下手で音痴な大江が何の用だ? 」
桜井はカラオケでの俺の散々な結果をいじる。
ヘラッとバカにした表情で。
やっぱり怖い。
今後、何をされるか分からないのが余計に。
絶対に目を付けられる。
だけど、前川さんを助けるためには逃げるわけにはいかない。
戦わないと。
そう決めたじゃないか。
「前川さんが嫌がってるように見えたから。止めにきた」
俺は真っ直ぐな目を桜井に向ける。
姿を見せた理由を述べる。
「止めに来た? 俺を? まさか前川が嫌がってるように見えたのか? ぶはっ。これは最高だな。嫌がってなんかないよな? なぁ、前川? 」
桜井は前川さんをホールドしたまま尋ねる。
おそらく、前川さんが恐怖に支配されてると思って自分の言いなりにできると思っているのだろう。
「…違う」
前川さんが声を震わせながら小さく呟く。
「なんだって? 大江に聞こえるように大きな声で言ってやれよ」
桜井が耳を澄ませて聞き直す。
「違う!! こいつが告白を断られたのに、しつこくてオッケーするまで離さないって言うの。だから助けて!! 」
前川さんは必死に俺に助けを求める。
俺に聞こえるように大きな声で叫ぶ。
「な!? 」
桜井は動揺を隠せない。
予想外の前川さんの発言だったのだろう。
「前川さんがそう言ってるみたいだから。…離しなよ」
俺は両足に力を溜める。
桜井が動揺して俺への注意が緩んだスキを狙うために。
普通に突っこんでも勝てない。
でも、動揺している今ならチャンス。
前川さんを助けて解放できる。
「うおぉぉぉ~!! 」
俺は突進するように前川さんと桜井のいるところまでダッシュで移動する。
一気に距離を詰める。
「いいから! 離れろ!! 」
俺は力を込めて桜井の腕を握る。
そのまま強引に前川さんから引き剥がす。
「なっ、て、てめぇ! 」
桜井が鋭い眼光で俺を睨み付ける。
だが、時すでに遅し。
桜井から前川さんは完全に解放されていた。
「大江君! 」
前川さんは俺の後ろに素早く移動する。
縋るように俺の肩に手を置き、ブルブルと身体を震わせる。
俺の後ろに怯えて隠れる前川さんの手の震えが肩に伝わってくる。
「野郎~」
桜井の顔が真っ赤に染まる。
強い怒りを露わにする。
これからどうする。
このまま逃げ切るにしても前川さんが走れる状態ではない。
恐怖で足が動かないことが想定される。
このまま桜井とやり合うか?
勝てる見込みは極端に薄いけど。
前川さんを守るにはそれしか方法がない。
「なんか騒がしいな? まだ誰か残っているのか? 」
聞き覚えのない声。
校内から聞こえた。
学校の関係者であることは間違いない。
「ちっ! 覚えとけよ!! 」
学校の関係者に見つかるのは面倒だと思ったのだろう。
桜井が悔しそうに言葉を残し、その場を後にした。
俺は前川さんを守るために桜井の背中が見えなくなるまで動向を注意深く観察していた。
一瞬も油断することなく。
前川さんに、これ以上の危害が被らないために。




