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彼女を奪われても何も言わなかった俺、イケメンがクラスで自慢した結果なぜか1軍女子に距離を置かれて孤立した  作者: 白金豪


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第60話 ようやく名前呼び

 朝。


 俺と前川さんはいつもの通学路を並んで歩いていた。


 最近はこうして一緒に登校するのが当たり前になっている。


「ねぇ、真春君」


「ん?」


 隣を見る。


 前川さんがじっとこっちを見ていた。


「私、思うんだけど」


「なに?」


「そろそろいいと思う」


「何が?」


「名前」


「……名前?」


「うん」


 嫌な予感がした。


 前川さんは少しだけ頬を膨らませる。


「真春君さ」


「うん」


「いつまで前川さんって呼ぶの?」


「っ」


 思わず視線を逸らした。


 来た。


 いつか言われると思っていたやつだ。


「それは……」


「よくないと思う」


「そんなにか?」


「そんなに」


 即答だった。


「私、何回も真春君って呼んでるよね?」


「呼んでる」


「なのに真春君は前川さん」


「……」


「距離ある」


「いや、そんなことは」


「ある」


 また即答だった。


「めちゃくちゃある」


「……」


 反論できない。


「それに」


 前川さんは少しだけ声を小さくした。


「私たちさ……」


「ん?」


「その……」


「?」


「キスまでしたのに」


「っ!?」


 思わずむせそうになった。


「ちょ、ちょっと!? ここ外だよ!! 」


「事実だもん」


 顔を真っ赤にしながら言うな。


 余計恥ずかしいだろ。


「だから」


 前川さんが俺を見る。


「名前で呼んで」


「今?」


「今」


「いやいや」


「今」


 逃がす気ゼロだった。


「真春君」


「なんだよ」


「呼んで?」


「圧が強い」


 前川さんがクスッと笑う。


「じゃあ優しく言う」


 1呼吸置く。


 そして。


「真春君」


「ん?」


「都子ちゃんって呼んで?」


「っ!? 」


「私は呼ばれたい」


「知ってるよ……」


 前川さんの口元が緩む。


 絶対楽しんでる。


「ほら」


「……」


「頑張れ」


「他人事だな」


「だって呼ぶのは真春君だし」


「そうだけど」


「ほら」


「……み」


「ん?」


「……」


「聞こえない」


「わざとだろ」


「うん」


「きつい」


「ありがとう」


「褒めてない」


 前川さんがクスクス笑う。


「ほら」


「……」


「真春君」


「分かったから」


 どうせ呼ぶまで終わらない。


 俺は観念した。


 小さく息を吐く。


 そして。


「……都子ちゃん」


「っ……!」


 都子ちゃんが足を止めかけた。


 目を丸くする。


 それから。


 みるみる顔が赤くなった。


「……」


「なんだよ」


「……もう1回」


「は?」


「もう1回」


「嫌だ」


「なんで!?」


「恥ずかしいから」


「私だって恥ずかしかったもん!」


 都子ちゃんが抗議する。


 でも。


 口元が緩みっぱなしだった。


「お願い」


「断る」


「真春君」


「無理」


「お願い」


「……」


 しつこい。


 本当にしつこい。


 すると。


 都子ちゃんが俺の制服の袖をちょこんと掴んだ。


「お願い」


 反則だろ。


「1回だけ」


「……」


「ね?」


 上目遣いだった。


 こんなの断れるわけがない。


 俺は大きくため息を吐く。


「……都子ちゃん」


「っ!」


 都子ちゃんの肩がぴくりと跳ねる。


 そして。


 嬉しそうに笑った。


「うん」


 その笑顔が妙に反則だった。


「ありがとう」


「大袈裟だな」


「大袈裟じゃないよ」


 都子ちゃんは俺の隣へ少しだけ近付く。


「ずっと呼んでほしかったから」


「そうかよ」


「うん」


 都子ちゃんは小さく頷いた。


「これからも都子ちゃんね」


「慣れたらね」


「駄目」


「なんでだよ」


「今の呼び方好きだから」


 悪戯っぽく笑う。


 俺は思わず顔を逸らした。


「真春君」


「……」


「顔赤い」


「うるさい」


「ふふっ」


 都子ちゃんの笑い声が朝の通学路に響く。


 どうやらしばらくは、この話で揶揄われ続けそうだ。

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