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彼女を奪われても何も言わなかった俺、イケメンがクラスで自慢した結果なぜか1軍女子に距離を置かれて孤立した  作者: 白金豪


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第50話 揶揄い

 ショッピングモールを出ると、外はすっかり夕暮れに染まっていた。


 西の空は茜色。


 ガラス張りの建物に夕陽が反射し、街全体が柔らかなオレンジ色に包まれている。


 昼間の暑さも少し落ち着き、心地よい風が頬を撫でた。


「楽しかったね」


 隣から弾むような声が聞こえる。


 前川さんだった。


 肩まで伸びた髪を風に揺らしながら、満面の笑みを浮かべている。


 その表情は本当に嬉しそうで、見ているこっちまでつられそうになる。


 ゲームセンター。


 プリクラ。


 フードコート。


 特別なことをしたわけじゃない。


 けれど、前川さんはまるで夢の国から帰る子供みたいな顔をしていた。


「うん。そうだね」


 俺が答えると、前川さんは少しだけ唇を尖らせる。


「真春君、そればっかり」


「何が?」


「楽しかったしか言ってない」


「だって楽しかったし」


「もっとあるでしょ?」


 じーっと見上げてくる。


 なんだその圧は。


「……ゲームセンターとか」


「うんうん」


「プリクラとか」


「うんうん」


「フードコートとか」


「小学生の作文?」


 前川さんが吹き出した。


 ケラケラと楽しそうに笑う。


 その笑顔を見ていると、俺まで少しだけ口元が緩む。


「私はすごく楽しかったよ」


 前川さんがそう言って胸の前で両手を握る。


 まるで大切な宝物を抱えているみたいだった。


「そっか」


「うん」


 そして。


 前川さんは少しだけ俺の顔を見上げた。


「真春君は?」


 真っ直ぐな瞳。


 逃げ場のない視線。


 少しだけ言葉に詰まる。


「……楽しかった」


 そう答えると。


 前川さんの顔がぱっと明るくなった。


「ふふっ」


 嬉しそうに笑う。


 本当にそれだけで満足そうだった。


 なんだかずるい。


 たった1言でそんな顔をされると、こっちの方が恥ずかしくなる。


 俺は視線を逸らした。



☆☆☆



「ただいま」


 玄関の扉を開ける。


 すると。


 ドタドタドタドタッ!


 階段を駆け下りる音が聞こえた。


 嫌な予感しかしない。


「真ちゃーーーん♡」


 予想通りだった。


 お母さんだ。


 しかも全力疾走である。


 息子が帰宅しただけでそこまでテンションを上げられる人間を俺は他に知らない。


「それに都子ちゃんも!」


 お母さんの目が一気に輝く。


 犬がおやつを見つけた時みたいな顔だった。


 そして。


 制服姿の俺と前川さんを交互に見た。


 数秒。


 じっと見つめる。


「……」


「……」


 前川さんも固まる。


 そして、お母さんはゆっくり口元を押さえた。


「まさか……」


「何が」


「学校帰り」


「うん」


「制服姿」


「うん」


「2人きり」


「うん」


「ショッピングモール」


「うん」


 お母さんの肩が震える。


 次の瞬間。


「きゃああああああああ!!」


 絶叫した。


「デートじゃないのぉぉぉぉ!!」


「違う」


「絶対デートよ!!」


「違う」


「都子ちゃん!」


「は、はい!」


 前川さんの背筋が伸びる。


「どうだった?」


「え?」


「デート♡」


「だから違う」


「楽しかったです!」


 即答だった。


「都子ちゃん!?」


 前川さんはハッとする。


 しかしもう遅い。


「かわいいぃぃぃ!!」


 お母さんは両手で頬を押さえながら悶えていた。


 前川さんは顔を真っ赤にして固まっていた。


 俺は額を押さえる。


 帰ってきてまだ数分だ。


 なのにもう疲れた。


「それで?」


 お母さんがニヤニヤしながら俺を見る。


「何が」


「デート♡」


「違う」


「ショッピングモールデート♡」


「だから違う」


「どうだったの?」


 お母さんは身を乗り出してくる。


 目が完全に輝いていた。


 ゴシップ好きのおばちゃんみたいな顔だ。


「普通の内容だよ」


「へぇ~」


 お母さんの口元がさらに緩む。


「ゲームセンター行って」


「うん」


「プリクラ撮って」


「うん」


「フードコートで喋って」


「うん」


「普通なんだ?」


「普通だろ」


「そうなんだぁ」


 全然信じていない。


 というか面白がっている。


「それでどうだったの? 真ちゃんは? 」


「楽しかった」


 つい口から出てしまった。


 しまったと思った時には遅い。


 お母さんの目が見開かれる。


「今聞いた!?」


「聞いてない」


「楽しかったって言った!」


「言ってない」


「言った!」


 お母さんが前川さんを見る。


「都子ちゃん!」


「は、はい!」


「真ちゃん、楽しかったって!」


「はい!」


 前川さんも嬉しそうに頷いた。


「前川さん!?」


 なんでそっちにつくんだ。


 前川さんは口元を押さえながら笑っている。


 どうやらかなり機嫌がいいらしい。


「へぇ~」


 お母さんがニヤニヤする。


「何だよ」


「真ちゃんがねぇ」


「何だよ」


「女の子とのお出掛けで楽しかったって認めるなんてねぇ」


「別に普通だろ」


「普通じゃないわよ?」


 お母さんは断言する。


「真ちゃん昔から女の子と遊ぶタイプじゃなかったもの」


「……」


「なのに都子ちゃんとは一緒にショッピングモール行って、プリクラまで撮って」


 お母さんはわざとらしくため息を吐く。


「青春ねぇ」


「うるさい」


「若いっていいわねぇ」


「うるさい」


「お母さんも混ざりたかったわ」


「それは嫌だ」


 即答だった。


 お母さんはケラケラ笑う。


 そして最後に俺と前川さんを見比べた。


「まぁ」


 優しい笑みを浮かべる。


「2 人とも本当に楽しそうでよかったわ」


 その言葉に。


 前川さんが少し照れたように笑った。


 俺はなんとなく居心地が悪くなって視線を逸らす。


 すると。


「顔赤いわよ、真ちゃん♡」


「うるさい」


 お母さんの笑い声がリビングに響いた。

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