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彼女を奪われても何も言わなかった俺、イケメンがクラスで自慢した結果なぜか1軍女子に距離を置かれて孤立した  作者: 白金豪


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第46話 母親

まさちゃ〜ん? どこにいるの〜? 」


 リビングの引き戸が開く。


 俺と前川さんは瞬時に離れる。距離を取る。


 黒髪の大人な美人の女性が入ってくる。


「あ! 真ちゃん! いたのね! 返事ぐらいしてよ」


 女性は不満そうに頬を膨らませる。


「お、お母さん。お帰りなさい」


 俺はソファから立ち上がる。


 大江春子。


 俺のお母さんだ。

 普段は父親と共に海外で生活しているが、たまに急に俺の世話をしに帰ってくる。それが今日だったというわけか。


「あら? 真ちゃん、その女の子は? 」


 お母さんの目が前川さんに留まる。


「わ、私は前川都子と言います! 真春君とはクラスメイトで、いつもお世話になってます」


 前川は素早くソファから立ち上がり、自己紹介を始める。顔には緊張が浮かぶ。珍しく顔に汗もかいている。


「あらあら。真ちゃんのクラスメイトの女の子なのね。あの真ちゃんがね〜」


 お母さんが頬に手を添え、おっとりした笑みを浮かべ、舐めるように前川さんの顔や身体を観察する。


「ねぇ、1つ聞いていい? 」


 お母さんが落ち着いた口調で前川さんに尋ねる。


「は、はい! なんでも! 」


 前川さんは落ち着かない様子で首を縦に振る。


「もしかして真ちゃんの彼女さん? 」


 お母さんがこてんっと首を傾げる。


「おい! なんてこと聞くんだよ!! 」


 俺は前川さんの横から突っ込む。

 この母親はデリカシーのないことを聞きおって。


「だって。クラスメイトなのに異性の真ちゃんの自宅にいるなんて普通じゃないじゃない? しかもこの時間までね? 」


 お母さんはリビングの時計に目を向ける。

 時刻は19時30分を回っていた。


「えっと……その……まだ、友達以上って感じです。まだですけど……」


 一方、前川さんはなぜか顔と耳を真っ赤にしながら、お母さんと視線を合わせられずに途切れ途切れに答える。なんだか凄い恥ずかしそうだ。


「まだ友達以上ねぇ〜。ふぅ〜ん」


 お母さんは意味深な表情と共に微笑を浮かべる。

 なんなんだよ。なにが狙いなんだよ。


「お母さん、もういいだろ。それで今回はなんで帰ってきたの? 」


 俺は話題を変えるためにお母さんに帰宅の理由を尋ねる。これで前川さんへの意識を逸らすためだ。


「帰宅の理由? それは真ちゃんの顔を見るためよ〜。私の溺愛する子供なんだから〜」


 この母親は惜しげもなく恥ずかしいことを満面の笑顔で口にする。しかも前川さんの前で。


「真ちゃん♪ 真ちゃん♪ 私の真ちゃ〜ん♪♪」


 お母さんは楽しそうにリズムを刻みながら、俺の前まで来る。


 ギュ〜ッと俺を抱きしめる。お母さんの豊満な胸が俺の顔を覆う。正直、押し付けられて息が苦しい。


「はあぁ〜。落ち着く〜。本当に可愛い〜」


 お母さんが興奮した声を漏らす。

 俺の背中に腕を回し、強く抱きしめてくれる。これも苦しい。


「さすがにやめてよ。前川さんの前で」


 俺はお母さんを強引に引き剥がす。流石に前川さんの前で恥ずかしい姿を見せるわけにはいかない。


「あぁ〜ん! 真ちゃん強引〜」


 お母さんは大袈裟に仰け反る。


「ったく。ごめんね。前川さん」


 俺は前川さんを気に掛ける。いくら前川さんでも他所の母親が息子を抱擁する光景を目の前で見せられて気分はよくないだろう。


「ああいう風に距離を詰めるんだ…」


 前川さんは意外そうな顔でブツブツとなにかを呟いていた。


 あれ?

 なにか思ってたのと反応が違うんだけど。


「前川さん、大丈夫? 」


 俺は少し心配になって隣の前川さんの肩を軽く叩く。


「あ、うん。大丈夫だよ。凄い愛されてるんだね」


 前川さんが我に返る。お母さんのことにも触れる。


「そうかな? おかしいだけだと思うよ」


 俺はお母さんへの素直な印象を口にする。


「あらまぁ、真ちゃんったら。口が悪いんだから」


 お母さんは腕を組んで不満そうに頬を膨らませる。


「真春君、お母さんにそういう言い方はよくないよ」


 前川さんから言動をたしなめられる。


「そうかな〜。なら気を付けて…みようかな」


 前川さんに言われた今後のお母さんに対する言動について考えてしまう。

 改めてみようかな。

 前川さんに嫌われたくないし。


「あら、下の名前で呼んでるのね。ねっ、真春君? 」


 お母さんがニヤニヤしながら仕返しとして揶揄ってくる。


「…そうだよ。…最近、呼ばれ始めたんだよ」

 

 俺は照れ隠しでお母さんから視線を逸らす。


「真ちゃんも満更でもなさそうね。都子ちゃんだったわよね? どんどん真ちゃんのこと名前で呼んであげて。心の中では喜んでるから」


 お母さんがニコッとして微笑み掛ける。

 おいおい。余計なことを言うなよ。


「本当ですか! 真春君のお母さんがそう言うなら、今後も継続して今以上に呼んでいこうと思います!! 」


 前川さんは高速で俺のお母さんに視線を走らせ、嬉しそうな表情で意志表明をする。


「あらあら。盛んなこと。年頃の高校生は元気ね」


 お母さんはニヤニヤと俺を揶揄うように笑みを向けてくる。


 この、前川さんを利用して俺で遊んでやがる。


「それにしても都子ちゃん、お家に帰らなくてもいいの? そろそろ夜の8時が来るわよ? 」


 お母さんがリビングの時計を指差す。


 俺と前川さんは、お母さんの指差す方向を目で追う。


 確かに、あと5分ほどで8時になろうとしていた。


「もうこんな時間! 早く帰らないと!! 」


 前川さんが慌てた表情を浮かべる。


「俺がいつものように送っていくよ」


 前川さんを安心させようと送り届けることを進んで買って出る。


「…真春君。いつもありがとう」


 前川さんの焦った表情が一転、嬉しそうに変わる。


 安心したように俺を見つめる。


「ちょっと待って。都子ちゃん、私が車で送ってあげる。真ちゃんは送り届けなくていいわ」


 お母さんが待ったを掛ける。


「なんでだよ? 別にお母さんが行く必要ないだろ? 」


 俺は目を細めて不快感を露わにする。わざわざ、お母さんが別の提案してくる理由が分からなかった。


「いいじゃない。こうして真ちゃんと仲のいい女の子に会えたんだから。それに都子ちゃんと2人で話したいこともあるし」


 パチッ。


 お母さんは前川さんに意味深なウィンクを送る。


 ピクッと前川さんの肩が僅かに跳ねる。


「なんだよそれ」


 俺は呆れつつ不満を漏らす。


「それは内緒よ。さっ、都子ちゃん、行きましょ! 」


 お母さんは前川さんを手招きする。


「は、はい! お母さん」


 前川さんは返事をしてリビングを出て玄関に向かうお母さんに付いて行く。


 リビングの引き戸が閉まる。


 玄関から、お母さんと前川さんが靴を履きながら雑談する声が聞こえる。

 

 玄関の電気も消えて、自宅のドアが開く音も届く。


 しばらくすると、車がエンジンを噴かし、自宅を出発して動き出す音が家の中まで入ってくる。


 それは自宅のリビングに取り残された俺の耳にやたらと響いた。



☆☆☆



(前川都子 視点)


 私は真春君のお母さんの運転する車の助手席に座る。


 真春君のお母さんは運転席で車を操縦する。

 凄いきれいな横顔。

 真春君がかっこいいのも頷ける。お母さんの遺伝子を受け継いでいることがはっきりと分かる。


「あ、そっちの道を左です」


 私は自宅の道を案内する。


「左ね。は〜い」


 真春君のお母さんは、左にウィンカーを出して、私の言うように道を左折してくれる。

 あとは、ここから1本道を進めば私の家が見えてくる。


 車で行くと私の家から真春君のところまで10分も掛からないんだよね。結構近いんだよね。


「ねぇねぇ、都子ちゃん。いきなりだけど聞いていい? 」


 真春君のお母さんが視線は前のまま私に尋ねる。

 

「いいですよ。なんですか? 」


 私は視線を向けて首を傾ける。


「都子ちゃんって、真ちゃんのこと好きでしょ? 」


「え!? 」


 真春君のお母さんから突拍子もない言葉が出る。

 私が真春君を好き?

 なんで知ってるの?

 今日の今日でさっき会ったばかりなのに。


「その反応は図星だね。青春してるね〜」


 真春君のお母さんは無邪気な笑みを浮かべる。

 まるで私を揶揄うように。


「ど、どうして分かったんですか? 」


 私は動揺を隠せずに理由を尋ねる。

 今すぐにでも知りたかった。本心に従って反射的に出た言葉だった。


「どうして? それは都子ちゃんの真ちゃんに対する態度や反応からだよ〜」


 真春君のお母さんは理由を答えてくれる。


「私、そんなに分かりやすかったですか? 」


 私は助手席から身を乗り出して、なんとか聞き出そうとする。


「うん、凄い分かりやすかった。それにクラスメイトの女子が、わざわざこんな時間まで年頃の男子の家までいるのも不思議だし。夜の8時までなんてよっぽどのことがない限りいないよ」


 確かに。


 私は真春君のお母さんの解説に納得してしまう。普通の男女のクラスメイトの関係なら、こんな時間まで滞在しない。しかも年頃の高校生の男子の家。

 それは私が真春君のことが好きだから。それでご飯を作りに来てる。1秒でも長く一緒にいたいから。同じ空気を吸ってもいたい。


「それで。どうして真ちゃんのこと好きになったの? 」


 真春君のお母さんが踏み込んでくる。

 聞かれるとは思ったけど、ここまでストレートに言ってくるなんて。


「…あるクラスメイトの男子の告白を断って、しつこくオッケーを出すように力を行使されて困ってた時に真春君が助けてくれました。それがきっかけです」


 私は桜井に告白されて、無理やり告白を通されそうになって困っていた当時を回想する。あの時の真春君、かっこよかったな〜。


「へぇ〜、真ちゃんに助けて貰って好きになったんだ〜。真ちゃん、やるじゃん。帰ったら褒めてあげよ」


 真春君のお母さんの口調が上機嫌になる。

 息子の知らない名エピソードを聞けて嬉しいんだろう。表情や口調から分かる。


「本当に褒めてあげてください。真春君は凄くかっこよくて凄いんですから」


 私も言葉に力が籠る。

 自分の大好きな真春君が他の人に良く言われるのは嬉しい。それがお母さんだったとしても変わらない。好きな人は褒められたり、評価されて欲しい。真春君は値する男の子だから。


「お! いいね、都子ちゃん!! 2人で真ちゃんの良いところ古今東西する? 」


 真春君のお母さんが私に提案する。

 真春君の良いところ古今東西?

 超楽しそうじゃん! 私の家までもう少しだけ是非やりたい! 私の家を通り過ぎてもいいくらい!!


「はい! やりましょう! 」


 私はギュッと胸の前で両拳を強く握る。やる気があることを意志表示する。


「いいね! それじゃあ行くね。真ちゃんといったら可愛い! 」


 真春君のお母さんから古今東西が始まる。

 可愛い。分かる。あれだけ魅力的でかっこいいのに自分に自信がないところ凄く可愛い!


「次、都子ちゃん」


 お母さんからパスを受ける。


「真春君だといったら優しい! 」


 私は真っ先に思い付いた真春君の良いところを手を叩きながら答える。


「そうなのよね〜。真ちゃん、凄い優しいのよね〜」


 お母さんはうんうんっと納得したように何度も首を縦に振る。


「次は私ね。真ちゃんといえば良い匂い! 」


 次なる真春君の良いところ。

 良い匂いするんだ?

 私あまり匂いについて意識してなかったかも。

 肌着の匂いは最高だったけど、真春君の直接的な身体の経験はないかも。

 今度、接近して存分に嗅いでみよ。

 真春君なら許してくれるよね?


 次は私。

 もう言うことは決めてる。


「真春君といえば謙虚! 」


 あんなに凄いのに威張らない。自分を凄いと言わない。いつも自信がなさげだ。そこがいい。本当に謙虚な鏡。世の中の男子、特に陽キャは真春君を見習った方がいいと思う。本当に。


「確かに、真ちゃん自分を凄いってアピールしないわね。都子ちゃん、だいぶ真ちゃんのこと見てるわね」


 真春君のお母さんからお褒めの言葉をいただく。超嬉しい。将来、私の義理のおかあさんになる人。少しでも認められた感じがして気分が上がる。


「当然です! 私、真春君のこと大好きですから!! その気持ちは負けません」


 私は真春君への強い気持ちをお母さんに主張する。


「お、言うね〜。この勝負はさらに白熱しそうだね〜」

 

 真春君のお母さんは楽しそうに笑みを浮かべる。


「そうですね! この勝負も負けるつもりはありません」


 私は敢えて宣戦布告する。

 自分の真春君への気持ちをより一層にお母さんに伝えるために。


「それは私も同じ。私の真ちゃんへの愛を舐めないでよね。真ちゃんといえば照れ屋」


 こうして私の自宅をとうに通り過ぎたにも関わらず、真春君の良いことを言い合う古今東西ゲームは勝負がつくまで続いたのだった。


 それはそれは楽しかった。


 流石お母さんというだけで引き出しが凄かった。惜しくも私は負けてしまった。悔しい。今度は勝ちたい。絶対に。負けたままで終わらないから。

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