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彼女を奪われても何も言わなかった俺、イケメンがクラスで自慢した結果なぜか1軍女子に距離を置かれて孤立した  作者: 白金豪


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第45話 帰還者

「前川さん、今日もありがとね。からあげ凄く美味しかった」


 前川さんから受け取った食器をすべて洗い終え、丁寧に水気を拭き取る。


 キッチンにはまだ揚げ物の香ばしい匂いが残っていた。


 俺は食器を棚へ戻すと、そのままリビングのソファへ腰を下ろす。


「いえいえ。今日は球技大会で真春君、頑張ってたから好きな物を作ってあげようと思って」


 前川さんも俺を追い掛けるように隣へ座る。


 当然のような動作だった。


 最近はこうして一緒に過ごす時間が増えたせいか、前川さんとの距離感がおかしくなっている気がする。


 肩が触れそうなほど近い。


 いや、実際に少し触れている。


「まあ、球技大会は1回戦で負けちゃったけどね」


 俺は苦笑いを浮かべる。


 思い出すだけで悲惨な試合だった。


 相手は上級生の強豪チーム。


 サーブは速い。


 レシーブは上手い。


 スパイクは重い。


 途中から俺たちはほとんどボールに触れられなかった。


 最終スコアは2対25。


 もはや勝負になっていない。


「そんなこと言わないで」


 前川さんが少し眉を下げる。


 そして、ぐっと俺との距離を縮めた。


「え?」


 気付けば前川さんの顔がすぐ近くにある。


 ふわりと甘いシャンプーの香りが漂った。


「私にとってMVPは真春君だよ」


 前川さんは俺の手を両手で包み込む。


「勝っても負けても関係ないの」


「でも負けたし」


「関係ないもん」


 即答だった。


 しかも少し頬を膨らませている。


 ぐっ、可愛い。


「真春君、最後まで諦めなかったでしょ?」


「まあ、それは」


「だからかっこよかった。一生懸命だったもん」


 真っ直ぐな瞳だった。


 冗談でもお世辞でもない。


 本気でそう思っている顔だった。


 その視線を向けられると照れてしまう。


「ありがとう。前川さん」


 自然とそんな言葉が漏れた。


 誰かに認められる。


 ただそれだけなのに、こんなにも嬉しい。


 球技大会で負けた悔しさも、クラスメイトから笑われたことも、少しだけどうでもよくなる。


 前川さんが味方でいてくれる。


 それだけで十分だった。


「感謝なんていらないよ」


 前川さんは柔らかく微笑む。


「私は素直な気持ちを伝えてるだけだから」


 そう言うと、前川さんは俺の身体へそっと寄り掛かった。


「えっ?」


 反応する暇もない。


 そのまま両腕が首へ回される。


 抱き付かれた。


 完全に抱き付かれた。


「ま、前川さん?」


「球技大会で疲れたでしょ?」


 耳元で優しく囁かれる。


「だから私が癒してあげる」


 近い。


 近すぎる。


 心臓がうるさい。


 これだけ密着していたら聞こえているんじゃないだろうか。


「前川さん……」


「なぁ~に?」


「その……近い」


「嫌?」


 上目遣い。


 反則だった。


 そんな顔をされて拒否できる男がいるのだろうか。


「嫌じゃないけど……」


「なら問題ないよね? 」


 前川さんは満足そうに頷く。


 むしろさらに抱き付く力が強くなった気がする。


 柔らかい感触が腕に伝わる。


 温かい。


 安心する。


 心地良い。


 今日は朝から球技大会で走り回った。


 精神的にも肉体的にも疲れている。


 だからだろうか。


 前川さんの体温に包まれていると、少しずつ眠気が襲ってくる。


 瞼が重い。


 このまま寝てしまいそうだ。


「真春君?」


「ん……」


「眠そう」


「ちょっとだけ」


「ふふっ、いいよ。ぐっすり寝ちゃって」


 前川さんが小さく笑う。


 その声さえ子守歌のように聞こえた。


 もう少しだけこのままでいたい。


 そう思った瞬間だった。


 ガチャッ。


 静かな部屋に金属音が響く。


 俺は反射的に目を開いた。


 玄関の鍵が開く音。


 続いて自宅のドアが開かれる。


「ただいま~」


 聞き慣れた女性の声。


「真ちゃん、いる~? 帰って来たわよ~」


 その瞬間。


 前川さんの身体がピクリと固まった。


 俺も固まった。


 お互い抱き合ったまま。


 数秒の沈黙。


「……」


「……」


 そして同時に顔を見合わせる。


 まさか――。

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