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彼女を奪われても何も言わなかった俺、イケメンがクラスで自慢した結果なぜか1軍女子に距離を置かれて孤立した  作者: 白金豪


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第41話 アツアツと甘々と苦笑い

「大江君、それに七海も…」


 しばらくすると、前川さんの自宅の玄関扉がゆっくりと開いた。


 暖色の明かりが外へ漏れる。夜の住宅街にぼんやりとした光が広がり、昼間とは違う静かな空気を作り出している。


 そして、家の中から前川さんが姿を現した。


 おそらく父親に呼ばれたのだろう。


 突然の来客に驚いているのか、前川さんは目を丸くしながら俺と後藤さんを交互に見つめる。


「え……? 」


 信じられないものを見るような反応だった。


 それも当然かもしれない。


 時刻はすでに夜。

 しかも、俺は後藤さんを連れて前川さんの家まで来ているのだから。


 前川さんは俺を見る。


 その後、後藤さんを見る。


 そして再び俺を見る。


 状況を整理しようとしているのかもしれない。


 だけど――。


 俺は視線を逸らさなかった。


 ここで逸らしたら駄目だと思った。


 俺は小さく息を吸い込む。


 胸の鼓動がやけにうるさい。


 心臓が暴れている。

 緊張で喉が乾く。


 だけど、それでも。


「前川さんとの日常を取り戻しに来たんだよ」


 俺は1歩を踏み出す。


 真っ直ぐ前川さんの瞳を見つめた。


 一瞬だけ、周囲の空気が止まった気がした。


 前川さんの瞳が大きく揺れる。


「ひゅ~ひゅ~。かっこいいよ~」


 後藤さんが横からニヤニヤしながら茶化してくる。


「茶化さないでくれ……」


 俺は小声で返した。


 だが、そんなやり取りすら耳に入っていないみたいに、前川さんは呆然と俺を見つめていた。


「……大江君」


 震えるような声だった。


 前川さんの白い頬がみるみる赤く染まっていく。


 瞳も潤んでいた。


 まるで泣くのを我慢しているみたいな表情。


 その姿を見た瞬間、胸が締め付けられる。


 あぁ。

 前川さんも苦しかったのかもしれない。


 俺だけじゃなかったのかもしれない。


 そして前川さんはゆっくりと俺の前まで歩み寄ってくる。


 距離が近付く。


 ふわりとフローラルな香りが鼻をくすぐった。


 シャンプーの匂いだろうか。


 甘くて優しい香り。


 昔、小学校の頃に一緒に遊んでいた時には気付かなかった。

 でも今は、その香りだけで心臓がおかしくなりそうだった。


 前川さんは俺の目の前で立ち止まる。


 上目遣いでこちらを見上げながら、小さく口を開いた。


「ありがと」


 その声はいつもよりずっと柔らかかった。


 嬉しさを隠し切れていないみたいに、口元が少し緩んでいる。


 そして――。


 前川さんの顔がさらに近付いた。


「え――」


 思考が追い付く前に。


 チュッ。


 柔らかい感触が俺の左頬に触れた。


 一瞬だけ脳が停止する。


 なにが起きたのか理解できなかった。


 ただ、頬に残る柔らかな感触だけが妙に鮮明だった。


 温かい。


 柔らかい。


 そして少しだけ湿っている。


「あはっ♡ 私からのお礼♡♡ 」


 前川さんはニコッと笑みを浮かべる。


 してやったりみたいな小悪魔な表情。


 俺を少し小馬鹿にしているようにも見えた。


「え!? 」


 俺はようやく感触の正体を理解する。


 思わず左頬を押さえてしまった。


 さっき触れられた場所が少しだけ熱い。


 いや、熱いどころじゃない。


 心臓が壊れそうなくらい暴れている。


 顔まで熱くなっているのが自分でも分かった。


「え、ちょ、前川さん!? 」


「ふふっ♡ 」


 前川さんは悪戯が成功した子供みたいに笑う。


 その笑顔が可愛すぎて直視できない。


 しかも、さっきまで泣きそうだったくせに、今は完全に楽しそうだ。


 俺で遊んでるだろ、この人。


「これから私との生活をもっと手放せなくなるように料理もそれ以外も頑張るからね! よろしくね!! 大江君。いや――」


 前川さんはそこでわざとらしく言葉を止める。


 俺を見つめる瞳が細められる。


 そして、蕩けるような笑顔を浮かべた。


「真春君! 」


 名前呼び。


 その瞬間、胸の奥が大きく揺れた。


 前川さんはそんな俺に追撃するように、両手でハートマークを作った。


「これからもよろしくね♡ 」


「……っ」


 駄目だ。


 色々と心臓に悪すぎる。


「あらあら。お熱いね~」


 一方、後藤さんは俺たちのやり取りを少し離れた場所から眺めていた。


 最初は面白そうに茶化していた彼女だったが、今は珍しく困ったような苦笑いを浮かべている。


「いや~。これは流石に甘すぎるわ」


 後藤さんは肩を竦めながら呆れたように笑った。


 だけど、その表情はどこか嬉しそうでもあった。

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