第39話 背中を押してくれる
「ふ~ん。都子が来ないから今日はコンビニ弁当なんだ~」
俺と後藤さんはコンビニの入り口付近で佇む。
後藤さんはなにを考えているのだろうか?
納得したような表情で頷き、手に持つペットボトルの水を口に運ぶ。
「後藤さんはどうしてここに? 」
俺は疑問を尋ねる。
後藤さんとコンビニで遭遇したことが不思議だったから。
「あたし? あたしは部活帰りだから」
後藤さんはペットボトルのキャップを閉めながら答え、俺に視線を向ける。
「へぇ、後藤さん、部活してたんだ。知らなかったよ」
意外だった。俺は勝手に後藤さんは帰宅部だと思ってた。後藤さんが部活をするイメージが湧かないし、実際に活動してる姿も見たことがなかったから。
「そ。あたし、運動部なんだよ。バスケ部。意外かもしれないけどね」
後藤さんはなにを思ってか俺にピースする。自分の意外性をアピールしてるのだろうか?
「それで。どうして今日は都子が大江君の家に来ないの? なにか理由があるんでしょ? そうしないと有り得ないし」
後藤さんがすべてを知ってそうな口ぶりで俺に理由を尋ねる。
まるで俺が困ってることも見透かしたように。
「実は…」
俺は今日の放課後の帰り道に起こったことをすべて話した。
前川さんが父親に強引に手を引かれて連れて行かれたこと。
その途中で無理やり止めようとしたが、家族の問題に口を挟むなと言われたこと。
それ以上、なにもできず、前川さんが強引に連れて行かれるのを、黙って見ていることしかできなかったこと。
すべてを後藤さんに打ち明けた。
「ふ~ん。都子のパパが介入してきたんだ」
後藤さんは、そっぽを向く。心情の読めない感じで何度も首を縦に振る。なにを考えてるか分からない。
「都子のパパ、過保護なんだよ。都子には遊ぶ時に門限あったしね。ただ、大江君の家で料理するから門限を破ってたんだと思う。だから都子のパパが夜遅く帰らないように対策を取ったんだと思うよ」
後藤さんは再びペットボトルの水を飲む。
半分ほど飲み終え、キャップを閉じる。
「親が子供のこと、特に異性関係で干渉すると面倒なことしか起きないのにね」
はぁ~〜と呆れたように大袈裟に溜め息を吐く。その溜め息は前川さんの父親に対してのものだろうか? それとも違うなにか?
「それで大江君はどうしたいの? 」
後藤さんが俺に意見を求める。
「どうしたいって? 」
俺は後藤さんに急に聞かれて質問に質問を返してしまう。後藤さんの聞く意図も分からなかった。
「大江君はこのままでいいの? 前みたいにコンビニ弁当やインスタント食品の生活に戻りたいか、それとも都子との生活を取り戻したいか。どっちなの? 」
後藤さんが俺に選択肢を与えるように尋ねる。真剣な眼差しが俺を捉える。おそらく、冗談なしの本気の回答を求めてるに違いない。
「俺は…。俺は前川さんが家に来なくなって、よりありがたみを感じたんだ。いつも美味しいご飯を作ってくれて、それを食べられる。それがどれだけ大切か、分かってたつもりだけど、甘かった。それを今回の件で失って痛いほど理解した。だからこそ、前川さんとの生活を取り戻したい」
俺は強い眼差しを向けて、気持ちに嘘をつかずに答える。後藤さんと目が合い、真っ直ぐ見つめ返す。
「ふっ。なら、よかった。都子も喜ぶよ」
後藤さんは口元を緩めて微笑を浮かべる。ペットボトルに残った水をすべて飲み干す。
近くのコンビニのゴミ箱にペットボトルを放り込む。
「それじゃあ、行こっか! 」
後藤さんはコンビニの前から1歩を踏み出す。
「行くってどこへ? 」
俺は後藤さんの発言の意味が理解できず、詳細を知るために聞く。
「どこって? 都子のおうちだよ。取り返しに行こうよ」
「取り返すってどうやって? 」
俺には算段などまったく持ってない。だからこそ後藤さんの意向は無謀にしか思えなかった。
「大丈夫。あたしが上手いことやってあげるから。大江君は都子への熱い気持ちを伝えるだけでいいから。いいから付いてきて」
「上手いことやるってどうやって? 」
「う~ん。それは内緒。あとで分かるから。上手く行く保証はあるから安心して。ささっ、行くよ~」
方法を教えてくれない後藤さん。
俺は後藤さんに多少なりとも不信感を抱きつつも、言われたように後を追った。前川さんの自宅に向かうために。




