第29話 まずは謝罪から
元カノが自宅を訪問して来た驚きの出来事から次の日。
「…お邪魔します」
前川さんがどこか遠慮がちな様子で俺の家に入って来る。
いつも通り朝食を作りに来てくれた。
昨日、俺は元カノの件で感情的になり、心配してくれた前川さんを突き放してしまった。
そのせいか、いつもなら自然に笑う前川さんも、今日はどこかぎこちない。
前川さんは話したそうにしつつも俺の顔色をチラチラと窺うが、決して口を開かない。
俺はそんな前川さんの背中を見ながら、胸の奥がズキッと痛む。
――ダメだろ、俺。
前川さんは何も悪くないのに。
前川さんはリビングに入る。
俺も後を追うように入る。
「前川さん」
俺は後ろから前川さんに声を掛ける。
まずはやることがある。
これを忘れてはいけない。
「…」
前川さんが不安そうに振り返った。
「昨日はごめん」
俺は昨日の件について頭を下げて謝罪する。
「昨日はちょっと冷静さを失ってた。前川さんにも怒りをぶつける形で当たっちゃって。本当にごめん」
ちゃんと謝らないといけないと思った。
前川さんだけは傷つけたままにしたくないから。
「あ、頭を上げてよ」
前川さんが慌てたように俺の前に来る。
「えっと、大江君が謝ることないから。私が余計なこと聞いちゃったのが悪いから。ごめんなさい。私が悪いのに謝らせちゃって」
今度は前川さんが俺に頭を下げる。
「違うよ」
俺はハッキリと言い切る。
「あれは完全に俺が悪い。前川さんは悪くない」
自分の非を認める。
誤魔化さない。
それが今の俺にできる最低限の誠意だった。
「……そういうところ、ズルいよね」
「え? 」
「ちゃんと謝れるところ。大江君、優しいから」
前川さんが少し照れたように視線を逸らす。
その頬はほんのり赤かった。
☆☆☆
俺は昨日のことを全部話した。
元カノが来たこと。
渡辺と上手くいってないこと。
相談を持ち掛けられたこと。
そして、俺が感情的になってしまったこと。
「……そっか」
話を聞き終えた前川さんが小さく呟く。
少しだけ俯いていた。
「でもさ」
前川さんが制服のスカートをギュッと握る。
「私は……もう元カノさんと関わってほしくない」
「前川さん……」
「昨日の大江君、すごく辛そうだったから。見てるこっちも苦しかったし……」
そこまで言ってから、前川さんはモジモジしながら続ける。
「あと、その……嫉妬しちゃうから」
言い終えた瞬間、前川さんの耳まで真っ赤になる。
「……分かった」
俺は迷わず答える。
「元カノとはもう関わらない。相談も断る」
「え……そんな簡単に決めていいの? 」
「簡単じゃないよ。でも――」
俺は前川さんを見る。
「前川さんが嫌がることはしたくない」
「っ……! 」
「それに、今の俺を支えてくれてるのは前川さんだから」
「……ありがとう」
そう言うと、前川さんは嬉しそうに頬を緩めた。
「今日中にちゃんと決着をつけるよ」
俺がそう言うと、
「うん。信じてる」
前川さんはまっすぐ俺を見つめながら頷いた。




