第26話 積極的な1軍女子と受け身な俺
ピンポ~ン。
自宅のドアフォンが鳴る。
「3~0~!!! 」
俺はパンパンに溜まった疲労と戦いながら腕立て伏せ30回を終える。
休みたい衝動に駆られながらも、そんな暇もなく筋トレをしていた自分の部屋を足早に後にする。
来訪者に対応するために階段を降りて1階の玄関に向かう。
「は〜い! 」
俺はドアフォンに応答する形で自宅のドアを開ける。
外の光と空気が自宅内に差し込む。
目の前には昨日、食事を作る約束をしてくれたクラスメイトの女子。
「おはよう、大江君」
紺色のブレザーに緑のスカート(制服)姿の前川さんが、ニコッと笑顔で朝の挨拶をしてくれる。
「うん、おはよう、前川さん」
俺は前川さんの笑顔に見惚れながらも挨拶を返す。
一応、笑顔で返すが、おそらくぎこちないものだろう。
「前川さん、今日は朝食を作るためにわざわざ来てくれてありがとう。さっ、中に入って」
俺は前川さんを促す。
「お邪魔します」
前川さんは軽く頭を下げて俺の家に足を踏み入れる。
玄関でローファーを脱いで揃える。
「いえ~い。今日で2回目のお邪魔しますだよ~」
前川さんはヘラッと気の抜けた笑みで俺に向けてピースする。
「うん。そうだね。いらっしゃい」
俺は快く前川さんを自宅に迎え入れる。
俺と前川さんは玄関からリビングへと入って行った。
「さっきから気になってたんだけど。大江君、少し汗かいてるね。もしかして体調悪い? 」
前川さんが心配そうに俺の額に手を当てる。
前川さんの手の温もりが俺の額に伝わる。
やばっ。距離が近い。前川さんの顔がすぐ目の前にある。
「じ、実は…前川さんに筋トレを薦められてから始めたんだ。さっきまで腕立て伏せをしてたんだよ。30回が限界だけど」
俺は汗をかいていた事情を話す。
おそらく顔は赤くなっているだろう。上手く説明もできてないかもしれない。
「そうなんだ。それなら安心したよ」
前川さんは俺の額から手を離す。手の温もりが消える。名残惜しさを覚える。
「どれどれ~。お~硬い硬い~〜」
前川さんは俺の腕に触れて筋肉の感触を確かめる。
「頑張って筋トレしたんだから、しっかり栄養バランスの整った食事を摂らないとね! 」
前川さんが俺の筋トレを労い、ポンッと肩に触れると、手を洗うために洗面所に行ってしまった。
一方、俺はというと、最近始めた筋トレを褒められて胸が熱くなった。
☆☆☆
「ごちそうさまでした」
俺は前川さんの作ってくれた朝食を食べ終えて両手を合わせる。
「は〜い。お粗末様で~す」
前川さんは上機嫌な調子で対応する。
「今日のご飯も本当に美味しかったよ」
俺は朝食の感想を伝える。
「それならよかった! お昼ご飯のお弁当は違うメニューだから楽しみにしててね。しっかり持って来てるから」
前川さんは学生カバンから弁当袋を取り出し、俺に見せる。
「うん。楽しみにしてる」
俺はお弁当の中身を想像しながらワクワクする。
なにが入ってるんだろう?
今すぐにも確認したい衝動に駆られる。
でも、ここは我慢だ。昼休みに入るまでの辛抱だ。
「洗い場、借りるね」
前川さんは俺が完食して空になった大皿や茶わんを重ねて1つにまとめる。
そのまま洗い場に持って行こうとする。
「ご飯を作って貰ったのに片付けまではさせられないよ。俺が洗うよ」
俺は慌てて食卓のイスから立ち上がる。前川さんの背中を追う。
「う~ん。じゃあ、私が洗うから大江君が拭いてくれない? 2人で協力した方が早いと思うし」
前川さんは洗い場のシンクに食器類を優しく置く。
「うん。それはそうだね。分かった。タオル準備してくるよ」
俺は前川さんの提案を受け入れる。俺は洗面所にタオルを取りに行く。
「うん。お願いね」
前川さんは俺の背中に声を掛けてシンクで洗い物を始める。
慣れた手際のいい動きで食器や茶わんを洗い終える。
俺は洗面所からタオルを取って来て、キッチンに戻る。
洗い終えた食器や茶わんの水滴をタオルで拭き取る。
「はい。次ね」
既にすべてを洗い終えた前川さんが、残った茶碗を俺に手渡す。
「ありがとう」
俺は前川さんから茶碗を受け取って水滴を拭き取る。
この作業を終わるまで繰り返した。
まるで協力して家事を担う夫婦のように。
☆☆☆
俺と前川さんは一緒に教室へ登校する。
前川さんと同時に教室に入るとクラスメイトたちの視線が集まる。
自然と注目される。
男子からは嫉妬が女子からは好奇な視線を向けられる。
その中にはクラスで孤立した渡辺と桜井の姿もあった。
渡辺と桜井は孤立したもの同士で仲良くしている。
寂しさを紛らわすように常に行動を共にしている。最近では当たり前になった日常。
「それじゃあ、またね」
「うん。またね」
前川さんと俺は一旦、別れる。
前川さんは友達と合流し、俺は自分の席に向かう。
学生カバンを机の上に置く。
(いま何時かな? )
俺は教室に備え付けられた時計を確認した。
まだ朝のホームルームまで15分あった。
時間に余裕はある。
(喉も乾いたし、飲み物でも買いに行こうかな)
俺は教科書やノートを机に仕舞わず、イスに座りもせずに教室を退出した。
一方、俺が教室を出て少しして、スマートフォンを確認した渡辺が席から立ち、何度か桜井と言葉を交わした後に、教室を後にするのだった。
彼女に呼ばれたとかで。




