第8話 思春期
十三歳くらいになると、シノの見た目の良さは村でも話題になっていた。
ここ数年で女性らしさが増したことは、傍で見ていても感じる。
この時くらいから、二人でいる時の過ごし方も変わってきたように思う。
まず、一緒に走ってかなり遠くまで移動する。その先で話し込んだり、生っている果物を食べたりした。
直接、口には出さないが人目につくことを、シノは更に嫌うようになった。
原因は二つくらいありそうで、一つ目は村の男たちから声をかけられることだろう。話の内容は雑談から下ネタまで、多岐に渡る。
見た目のいい女性は村を出て、貴族に嫁ぐ可能性もあるため、手は出せない。
ただ、口は出せるため、生々しく、女性を消費するような言葉を投げる者がいるようだ。
もう一つの原因は――――俺だろう。
この頃の俺の見た目、特に顔はもう言わずもがなという感じ。
鼻や頬には赤いニキビが浮かび、触れると少し痛い。さらに最近では、頬から下に髭まで生え始めている。
そんな俺と、見た目で言えばとても釣り合わないシノとよく一緒にいることで、
村の男から
「ああいうのが好みなのか? ならさ、俺でもいいだろ?」
一方で俺に対しては、
「何をうまいことやったんだ? そろそろ、あいつもお前の見た目の悪さに気がつきそうだけどな」
などと、好き勝手言われていた。
俺は自分の見た目を悪く言われることは、悲しいかな、慣れと耐性があり、分厚い瘡蓋があったので堪えることはなかった。
だけど、最近のシノはさすがに疲れているようだった。
「はぁーー。 ……見た目ってさ、そんなに大事かな?」
誰もいない湖の陸地に到着して、二人で座り込んでいた時、シノは質問してきた。
「んー、難しいな。 最重要視するのは違うような気もするけど、その人を知るための入口ではあるのかも」
前世から今までにかけて思っていた、当たり障りがないことを伝えた。
もちろん、それが本意かと言われればそうではない。
「最近ね。 いろんな人から言われて気が付いたんだけど、子供の頃、私が一人ぼっちのリオスを憐れんで遊んであげていたことになっているの」
「あいつは、昔から優しくて最近は見た目も魅力的になってきた……って」
苛立ちを隠せないようで、水面に拾った石を投げつけている
「ほんと、嫌になる。 過去の事実も、みんな都合よく変えているのよ。 本当はリオスが遊んでくれて……大変なこともあったけど、変わらないで傍にいてくれたのに……」
不満を口にしているシノの話には既視感があった。
元の世界でも美人と、そうでない子が一緒にいると、性格良いアピールであったり、あざとい等と言われていた気がする。良いも悪いも尾ひれがついてしまうのだろう。本当のことは当事者しか知らないのに。
そして、言った側はその事実を忘れ、言われた側には、時に深い傷を残してしまう。
シノを元気づけたい一心で
「俺とシノが分かり合えていれば、今はいいんじゃない? 周りは好きに言うだろうけど、俺たちはこれからも一緒に過ごしていけるよ」
自分の希望も含めて伝えた。
「そ、そう……ね! 私たちは……その、昔からの仲だし。 こう、通じ合えているものがあると思う。 だから、これからも楽しく過ごせるかな」
膨れた顔が少しだけ穏やかになっていて、喋りながら時折、上目遣いで俺の表情を窺っていた。
「ねえ? リオスは、ずっとこの村にいるの?」
難しい質問だった。実は少しずつ村から出るための準備もしていた。
この国では十五歳で洗礼の儀を受けると成人とされる。さらに、その時に領主の貴族が領民の進路を決めるという風習がある。
貴族の決定が嫌なら、冒険者にでもなって村を飛び出すしかなかった。
つまり、それは何の保証もない生活に身を投じるということだ。
「うーん、まだ分からないかな……」
誤魔化そうとしたのに追及してくる
「昔から、考えごとばかりしていたじゃない? 普通の人だったら考えないようなことを考えているように見えた。 最初はなんだか難しそうだなとか、変な子だなって思ってた。 でも、いま思うとリオスは村を出ようとしているのかなって
見えてきて……」
彼女は心配そうにこちらを見つめる。
「それに、王宮や都はこの村よりも、見た目で差別されるって聞くから……そういう場所で暮らすのは難しいだろうし」
何も言えないでいた。この時は、シノと一緒にいられる道をギリギリまで探っていきたいと思っていた。でも、今は具体的に何かを言えるタイミングではなかった。
笑って誤魔化す俺と、その態度が腑に落ちていないシノ。
二人を映す水面がゆっくりと揺れていた。




