表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/24

第9話 鍛錬

 はっきり言って、俺の身体能力に関しては人並み。そして、見た目に関しては人並み以下だ。

 この辛い事実を認識した時から、密かに取り組んでいたことがある。


 昔、ロッドに出会った時に頼み込んで、冒険者が受ける簡単な依頼を回してもらえないか相談した。

 もちろん、子供にそんなことはできないと断られたのだが、食い下がる俺にロッドは観念した。


 彼らが信頼している情報屋を紹介してくれて、そいつを通して依頼を回してもらう形をとった。


 普通の冒険者は、こんな依頼の受け方はしない。マージンを取られるからだ。

 俺は成人前であり、冒険者になれる年齢ではなかったことから、この形態を選んだ。


 冒険者として生きていくと決めた訳ではないが、ロッドを見て、興味が湧いていた。見た目至上主義の世界から、外れた存在として生きていける可能性を探ってみたいと思えた。


 ただし、当然危険はつきまとう訳で、まずは簡単な雑用レベルの依頼からこなし、最近では低級の魔物退治や魔物の死骸から素材を回収することを主にしていた。

 

 低級の魔物は、大きいネズミや角が生えているウサギといった、農作物に悪さする程度のものだ。

 たまにゴブリンや大型の昆虫に出くわすこともあるが、群れではないので慎重に動き、対処できていた。


 そして、このやり方を採ったもう一つの理由は金だ。


 前世でのことを振り返ると、金があれば、容姿を変えることができ、さらに容姿を変えずとも自身への評価を覆す打開策になると考えた。

 逆に言えば、俺の状況では金がなければ、現状を打開する手立ては限りなくゼロになる。この現実に備えるために、一番実入りのいい選択をした。

 

 通常の依頼より、もらえる金銭は少ないが、成人前の報酬としては高額で、畑仕事を手伝うより、実入りはよかった。




 最初は魔物を目の当たりにして、すくんでいた足も経験を重ねることで克服できた。微かな達成感を感じながら、回ってきた依頼を着実にこなしていった。


 情報屋は最初こそ、「子供に何ができる」という態度だったが、徐々に対等に接してくれるようになった。

 声からは男か女か分からないその人物は、いつもローブとフードで身体全体を隠していて、一見すると不審者にも思えた。


 依頼の成功が続くと、雑談の延長で都の情報や貴族の情報を教えてくれるようになった。それに加え、今、魔物退治に使っている武骨なファルシオンも情報屋が過去に使っていたお下がりをもらった。


 肝心の俺の戦闘スタイルは、泥臭いの一言に尽きる。

 村で出た残飯や死んだ家畜を森の奥に置いて、目当ての魔物が出るまでひたすら身を潜め、背後から急所を一刺しにするというものだ。


 慎重すぎる気もするが、このやり方であれば後れをとることは、ほとんどなかった。


 この日にこなした依頼の収集品を情報屋に渡す。


 いつもの場所で落ち合う手筈のため、先に着いて待っているとローブのフードを深くかぶった人物がやってきた。

 「これ、今回の依頼分になる」


 「相変わらず仕事が早いな」


 小さな麻袋に入った硬貨を受け取る。取引を重ね、袋の中身は確認しなくなっていた。二言三言、言葉を交わして、その場を去ろうとする。


 「ありがとう。 そしたら、また」


 「少し待て」


 立ち去ろうとした時、情報屋に呼び止められた。


 「お前の村に、足が速い女はいるか?」


 俺の動きは止まり、目線が泳ぐ。情報屋の口から出てくる人物ではないと思っていたからだ。


 それに、『足が速い』という点を狙い澄まして聞いてきた。


 思い当たる――……というかよく知っている人物だ。


 喉元まで言葉は出かかっていた。だが、質問の意図が分からない以上、安易にシノの存在を教えてしまうことは躊躇われた。


 ――――情報屋にはその反応だけで充分だった。


 「どうやら、お前の村の領主である侯爵が新しい側室を探しているらしい」


 心臓が跳ねた。一瞬で嫌な未来を想像してしまう。

 視線を落としている俺を横目に、情報屋は話し始める。


 それをまとめると

 どうやら、レーヴという侯爵は、これまでにも五人ほど側室を迎えているらしい。

 その理由は好色であることに加え、側室から加護を授かろうとしていると言われている。


 「この村の少女にアタリをつけている」


 気が付いたら俺は頭を掻きむしっていた。


 「貴族の言うことは絶対だもんな……。 嫌な世の中だ」


 「そのうち、事前の視察でお前の村に行くと思うぞ」


 「加護を持っていないことにしても、誤魔化せないか?」


 「……無理だろうな。 レーヴは好色だ。 持っていなければ別の使い方をするだけだろう」


 頭に熱が到達した。気が付けば、痛いくらいに拳を握り締めていた。

 情報屋に悪意はない。シノが貴族に嫁げば、本人の意思に関係なく『使われる』ことは明白だ。


 この国は、美を特別なものとして扱う。そして、それをいいように利用できる人種が存在する。


 その日はそこで解散した。


 帰り道は、足を前に出すたび、鉛を括り付けられたような感覚があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ