第6話 冒険者
猪の魔物を追い払った後、森で出会ったのはロッドという名前の男と、その仲間達だった。
ロッドは大柄で顔や腕には傷痕が目立っている。しまいには、片目には眼帯をつけていた。これまでに遭遇してきた修羅場の数が窺えた。
俺とシノが襲われたことが分かると、仲間の人が傷の手当をしてくれたのだが……すごく美人だった。
こんなに綺麗な人が俺の身体を触りながら
「痛いとこはない? ここは?」
そう言いながら、身体を触診してくれる。
嬉しさがありながらも、緊張と見栄を張りたい気持ちで
「うす。 ……大丈夫っす。 痛くないです」と言ってしまった。
そんなやせ我慢は容易に見抜かれたようで、僧侶のような格好をした女性は、詠唱を始めると傷がふさがり、体力が回復していく魔術を使ってくれた。
これが……魔術……か。
自分には素養が全くなかった、この世界での奇跡を、まさか見られるとは思ってもみなかった。そうして、痛みと傷は消えていった。
僧侶風の女性は
「もう大丈夫よ。 よく頑張ったわね。 無事でよかった」と俺の頭を撫でながら、抱きしめてくれる。
女性の香りと、頬に当たる膨らみには衝撃を受けた。
シノは大きな怪我がなかったようで、別の仲間の人が付いていてくれた。
ちなみに、その人はやけに軽装で、それでいて美人だった……。
普段の生活では味わえない、いろいろなものを五感で堪能していると、魔物から素材を採取したロッドが戻ってきた。
「よーし! 欲しいもんは採れた。 今日はこれで終わりにするぞ」
ロッドは猪の牙と毛皮を回収したようで、機嫌よく話しかけてくる。
「坊主、ありがとな。 手間が省けた御礼に村まで送らせてくれ」
俺もシノも疲れ切っているため、ロッドたちと村に戻ることにした。
「それにしても坊主。 ブラッドボアに立ち向かうなんて、すごいじゃねえか。 駆け出しの冒険者の中には、あれにやられる奴も多い。 丸腰で追い払っただけでも大したもんだぞ?」
褒められて悪い気はしなかった。ただ、あの時は必死にシノを守ろうと考えていただけで、魔物がもっと強かったらと考えるとゾッとした。
反応の薄い俺を見て、ロッドは続ける。
「でも今日のことは運が良かったと思え。 あのまま追い払えたとしても、坊主の怪我は長引いたかもしれねえぞ。 たまたま、俺たちが通りかかっただけだからな」
釘を刺すように言われる。言葉の端々から、この男は腕が立つのだと察することができた。
俺も痛い思いはしたくないし、戦闘が自分に向いているとは思えなかったため、素直に頷いておいた。
ロッドたちは受けた依頼のために、今晩はうちの村に泊ると言っていて、村長の家まで連れていったところで別れた。
家までの道中は大した距離じゃないが、シノと二人きりになる。
ごたごたしていて、碌に話せていなかった。横目で顔を窺うも、表情は沈んでいた。
そっとしておいたほうが、良い気もしていたが、このまま解散すると一人で落ち込んだままではないかと思えた。
せっかくできた大切な友達を励まそうとする。
「今日はびっくりしたね。 でも、ロッドさんたちが来てくれて良かったよ」
返事はなく、俯いたまま地面を見つめていた。
もう少し続けてみる。
「回復の魔術?も使ってもらったんだけどさ、すごかったよ」
明るい声色で話しかけるも、反応はほとんどなかった。
そのまま、いつもの別れ道に着いてしまった。
うーん……どうしたもんかな……。
シノが足を止めたので、釣られて俺も立ち止まる。
何か言おうとしたと思えば、唇を噛んで俯くという動作を繰り返している。
どうしようかと考え込んでいると、気づいた時にはシノに抱きしめられていた。
「っ……リオスぅ……」
とっさのことに息を呑む。
「今日は……ほんとうにごめんね……リオスが死んじゃうかと思った…」
さっきまで泣き止んでいたのに、また涙が零れそうなくらい濡れていた。
「私と遊んだせいで、こんなことになったから、もう嫌われたんじゃないかって思ってたの……ごめんね」
謝罪と後悔を混ぜた、精一杯の言葉だった。
この健気な女の子を元気づけたいが、気の利いたことを言える自信がなかった。
それに、俺は今日の出来事は全て貴重な体験だったと思っていた。
そして、シノの脚力だったから森の奥まで行けた訳で。そこに着いて行ったのも俺の意思だし。
あれやこれやと悩むが、今の俺は十歳の子供なんだ。等身大でいくことにした。
「俺はこれからもシノと一緒にいたい。 だから明日からも遊びに行こう」
抱きしめ返すような形で、ちゃんと届くように耳元で伝えた。
それを聞いた当人は一層、泣いてしまい、落ち着いて帰るまでに時間がかかった。
(シノは可愛い。 性格も含めて本心から可愛いと思える。 これからも、一緒にいたい。 だけど、この世界でそれは叶うのか……? シノなら貴族に見初められることもあるんじゃ……)
腕に伝わる温もりの心地よさが、不安を感じさせる材料にもなっていた。




