第33話 繁栄の秘密
屋敷の勝手口でニナと合流した。
「……そちらの方は?」
そういえば、と。フラウを紹介する。
「俺に同行してくれている、フラウだ。 今日も協力してくれることになった」
「はじめまして」
小さく会釈をする、フラウ。
そんな彼女を見て
「……え?」
ニナの手から、火を点けようとしていた煙草が落ちた。
そのまま、固まっている。
「どうした? 人を増やしたのは、まずかったか?」
「そういうわけでは……」
ニナは、フラウに一歩近づく。
フラウは、不思議そうに首傾げる。
「わたしの顔に、何かついていますか?」
「い、いえ……よろしくお願いします」
何かを言いたそうにしていたが、それ以上、何かを口にすることはなかった。
挨拶もそこそこに、勝手口の物陰に隠れ、屋敷の正門に視線をやっていた。
ニナから聞いていたとおり、晩餐会に向け、王宮の人間や他の貴族連中が、ぞろぞろと屋敷に入っていくところだった。上品な装い、豪華な宝石をぶら下げた連中が吸い込まれていく。
貴族たちの愉しげな声が、ここまで届く。
「それにしても、レーヴ侯爵は今回で何人目の側室でしたかな?」
「たしか、四人目であったと記憶しております。」
「四人目とは……『もう』と言っていいか、『また』と言っていいのか……」
「側室を迎えるだけでも相応の支度と出費が要ります。並の貴族では、とても真似できますまい」
「それだけ侯爵家が潤っているということでしょう」
男たちは感心したように頷き合う。
やがて、一人が懐かしむように口を開いた。
「そういえば、レーヴ殿が家督を継がれた頃は、侯爵家も先行きを案じられておりましたな」
「ええ。先代が亡くなられた直後は、家運も傾くのではないかと囁かれておりました」
「ところが、あそこから見事に立て直された」
「やはり、あの『糸』のおかげでしょう」
「あれは見事ですな。王家への献上品はもちろん、宮廷でも評判とか」
「引き合いが絶えぬと聞きます」
感嘆の声が漏れる一方で、一人の貴族が首を傾げた。
「しかし、不思議な話でもありますな」
「と申しますと?」
「レーヴ侯爵領は、古くから絹の産地というわけではありません。あれほど見事な糸が、どうして生み出せるのか……」
「そこは侯爵家の秘伝なのでしょう」
「その話題になると本人も露骨にはぐらかす、という話は耳にしたことがあります」
「私も聞いたことがありますな」
「ははは、それが秘伝というものでしょう。」
「いずれにせよ、あれほどの品質を他家が再現できぬ以上、レーヴ侯爵家の繁栄は当分揺るぎますまい」
「まことに、そのとおり」
男たちは杯を傾けるように笑い合い、そのまま屋敷の中へと姿を消していった。
一見、無関係に思えるも、微かな違和感を覚える。
その会話を聞き終えて、ニナに視線をやる。
「そんなに、有名な糸なのか?」
ニナは、小さく頷き
「仔細はわかりませんが、レーヴが潤っているのは本当のことです」
家を立て直すほどの利益を生む名産品。
製法は、同じ貴族ですら知らないときた。
潤うから、側室を招ける……そこまでは、自然な流れに感じる。
でも……
いや。俺は、いま考える必要がないことを、気にしすぎじゃないか?
屋敷に入っていく者がいなくなった。
つまり、自分たちが侵入する時間だ。
腹に落ちない違和感がありながらも、頭を切り替えようと、二人に声をかけた。
「行くぞ……」




