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異世界ルッキズム ー顔面格差が激しい世界で最低限の見た目でいることにしたー  作者: 緑地亭かっぱ


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第30話 覚悟を纏う

 フラウとの話が終わった後、ギルドを訪ねた。


 ここ数日間の顛末をエステルに共有した。探索していない等の疑いがかけられ、変な横やりが入らないように。


 俺の認識票と魔女から渡された聖遺物を確認させたところ、ギルド中が騒然としていた。


 珍しく焦っているエステル。表情は変わらないが、いつもより、早口で言葉を重ねている。


 「レーヴ侯爵に書を出し、刑は終了でいいか、確認しましょうか?」


 そう確認されたが、いくらでもやり込まれそうだったので、止めてもらうよう伝えた。


 受付の裏では


 「まずは認識票の更新だ!」


 「手の空いてる者は、聖遺物の鑑定と並行して鑑定書を作ってくれ!」


 かなり、慌ただしい空気に包まれた。


 受付のエステルも慌てて、言葉を足そうとしている。ギルドの話は後日でいいかと、踵を返そうとした。


 それを遮るように、凛とした声が響いた。


 「リオス!」


 振り返った。



 「あなたの功績は、冒険者として白銀級のものです! これは、この国の――」



 そういえば、冒険者に等級があったことを思い出す。

 えっと、白銀は上から四番目?いや、三番目だったか?などと考えていた。



 「白銀は三位の冒険者でこの国において、一定の発言権を持ちます」



 発言権……。


 そうは言われても、いまいち、レベル感が掴めない。

 俺の様子から、何も伝わっていないことを察したエステルは




 「――つまり、男爵相当です」




 その発言に虚を突かれた。


 「……本当か?」


 思わず聞き返す。


 「はい。 もちろん領地を持てる貴族ではありませんが、国家への貢献者として扱われます」


 エステルは真っすぐに俺を見つめた。

 胸の奥で何かが小さく鳴った。


 ――皮肉な話だ。


 だが、それだけでは足りない。今はまだ、正式に認められたわけではない以上、これだけでシノを取り戻せるとは思わない。


 「わかった……今は急ぐ。 今度、詳しく教えてほしい」


 事情を察してくれたのだろうか。エステルは引き止めなかった。



 「はい。 何事も生きてこそですよ」


 新しくなった認識票と聖遺物、それを証明する書面を渡される。淡い銀白色の輝きを放つ、認識票。これまでの灰色とは存在感が違っていた。


 俺自身は……前に進めているのだろうか。

 感傷的になる胸の内を誰にも吐露せず、ギルドを出た。



 ギルドを出ると、夕日が建物を赤く染め始めていた。

 出発する前に、もう一つ、済ませておきたいことがある。



 街まで移動する。

 路地を歩き、小さな露店が並ぶ一角へ向かった。



 目的の店は、雑貨屋だ。


 ニナに差し入れするための煙草を補充する。

 それと、もう一つの必要なものを調達したい。



 壁や棚を物色している俺に、いつかの若い女店員が気づいた。



 「あら、また来てくれたんですね」


 人懐っこい笑みを浮かべながら近づいてきた。


 「今日は何かお探しですか?」


 「ああ。 この前と同じ煙草。 それと……仮面は置いてあるか?」


 「仮面、ですか?」


 店員は少しだけ目を丸くしたが、すぐに「あぁー」と思い出したように頷く。


 「こっちには出ていませんが、奥にありますので」


 案内された店の奥には、十枚以上の仮面が並んでいる。


 「仮面が必要だなんて……なんだか、訳あり……ですか?」


 少しだけ、おどけた口調で尋ねられる。


 「そんなところだ」


 「……そうでしたか」


 関係のない人間に話す気にはなれず、素っ気ない返事をすると、それ以上は聞いてこなかった。


 少しだけ、暗くなった店員の声色に、申し訳なさを覚えた。


 たぶん、今の自分は気負っていて、その感情が漏れていたかもしれない。

 この店員の接客は嫌いじゃないし、前に選んでもらった煙草もニナと話し込むきっかけになった。



 「えっと、よければ仮面を選んでもらえないか?」


 「え?」


 驚いて目を見開いている。


 「その、前に選んでもらった煙草が良かった。 だから、仮面もあんたの好みで選んでほしい」


 驚きから、女店員の頬がゆっくりと緩んだ。


 「ふふっ。 そんな頼み方をされたのは初めてです」


 自分でも、こんな頼みをするのは意外だった。

 でも、これからすることを考えると、験を担ぎたくなった。


 店員は、棚の前に歩み寄ると、一枚ずつ仮面を手に取り始めた。

 どれも一度は手に取るが、「うーん」だとか「違いますね」と呟いては戻していく。



 「あ、これがいいかも」


 手に取っていたのは、黒の簡素な仮面。装飾の類が一切ないものだ。


 「随分と地味だが、どうして、これを?」


 「だからです」


 即答だった。


 「派手な仮面だと、その仮面ばかりが印象に残りますから」


 店員は仮面を俺の顔に軽く当てた。


 「わたしは、あなた自身が印象に残ってくれればいいなと」


 少し照れたように笑う店員。


 「仮面って、顔を隠すためのものですけど……その人らしさまで隠しちゃうのは、なんだかもったいないじゃないですか」


 その言葉に、一瞬だけ返す言葉を失う。

 この世界では、顔がほぼ全てだ。

 美しい者は愛され、醜い者は蔑まれる。


 そんな世界で生きてきた俺に向かって、「あなた自身が印象に残ればいい」と言う人がいるとは思わなかった。


 「……変わったことを言うんだな」


 「うーーん」


 店員は首を傾げる。


 「わたし、あなたが煙草を買いに来た時のこと、よく覚えてますよ」


 「うん?」


 「困った顔されてて、戸惑ったりしながら用件を話されました。 そこから、わたしが勧めた煙草の説明を熱心に聞いて――。 その様子を見た時、誰かへの贈り物かな?とか、初めて吸ってみるのかな? みたいに、いろいろと事情を考えたりしてしまって」


 思わず、苦笑いしてしまう。


 「そんなことまで覚えていたのか」


 店員はこくりと頷いた。


 「今時、いませんから。 わたしみたいな若い店員の意見を参考にして、煙草を選ぼうとする人なんて」


 「あの時、この人は不器用そうだけど、何事も誠実に向き合うのかなって。 勝手に想像しちゃってました」


 人懐っこく、おどけた口調だった。

 その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなった。



 「だから、この仮面です」



 物を買いにきた。それだけのことなのに。

 この店員に仮面を選んでもらえたことを、嬉しく感じた。



 「……これをもらおう」


 「気に入ってもらえましたか?」


 いたずらっ子のように笑った。


 「ああ。 これが、いちばんだ」


 代金を渡し、店を出ようとしたところで、不意に呼び止められた。



 「あ、そうだ」


 振り返る。



 「その仮面、気に入ったからって――」



 「次に来るとき、つけてきちゃダメですよ? わたしは、あなたの顔を覚えていたいですから」


 どんな意味が、どこまで含まれているのか、わからない。


 ただ、こんな繋がりでも、無くしたくないと思い始めていることを自覚する。


 昔の俺なら―――こんな感情を抱いただろうか。


 不思議だ。このやり取りを経て、急に明日の実感が湧いてくる。


 もう、後には引けない。

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