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第2話 転生

 目を覚ますと、小さなベッドの上にいた。

 固いアスファルトとは程遠い感触に、悪い夢でも見ていたのだと思った。

 身体を起こして、いつも枕元に置いているスマートフォンを取ろうとする


 うん? 視界がいつもと違う?


 違和感のある視界と、しっくりこない感覚。

 もう一度、気合を入れて身体を起こそうと腹に力を入れると


「おぎゃああ」


 という赤ん坊のような声で泣いた。



 俺自身が驚いていると、近くの扉が開く音がして、入ってきた女の人が俺を胸に抱きかかえた。

 包み込むような抱擁をされるがまま、あやされていると俺の中では次々と疑念が湧いてきた。


 もしかして……これは……


 現代の日本とは異なる家の造り、俺を抱きかかえる女性の髪や瞳の色。

 試しに、自分の視界に入る小さな赤子の手を動かそうとすると、手が上がり女性の胸に置かれた。


 極め付きには、部屋の中に入ってきた若い男が女性と一緒に俺をあやしている。


 まぁ、このふたりは夫婦ってことだよな……

 そうすると俺は、この二人の子供ってことか……


 どうやら、あの事故の後に現世とは違う世界に生を受けてしまったようだ。

 死の間際でやり直しを願ったような気もする。


 赤子であっても死ぬ直前の行動と感情は覚えていた。

 今の状況にあっても、直前の出来事を思い出して、どうしようもないくらい悔しくなる。


 俺は声を上げて泣いた。

 前世の記憶を辿り、いろいろなことを思い返しながら泣き続けた。


 生々しい光景が脳裏に浮かんでいた。努力でどうにかすることのできない身長の低さ、思春期にできた大きなニキビで顔が覆われ、シミや痕が残ったこと。毛深くて自分の髭や体毛を見るたびにストレスを感じていたこと。


 恋愛をして、少しでも好意を出せば露骨に嫌な態度をとられたこと。異性に対する不信感が増していき、自分は劣った人間なんだという意識から、自己肯定感は下がり続け無気力で定職に就かなかったこと。


 今が赤ん坊で本当に良かった。心底、そう思いながら泣き続けた。

 

 ◇


 この世界で俺は『リオス』という名前だった。

 以前の名前と語感が似ていて、名前は気に入っていた。


 幼少期から大人たちの会話に聞き耳を立てながら、思考を巡らすことが習慣だ。

 驚いたのが、この世界は俺がいた日本よりも、ルッキズムが蔓延していることだ。


 具体的には、見た目が良いことは上流階級の証というルールが存在していた。

そのため、王宮や都にいる人間や貴族には美男美女が多いことがお決まりのようだ。

 さらに、領民の女性にあっては外見に恵まれた場合、貴族の側室として半ば強制的に嫁がせられることが珍しくない。


 このような慣習になっていることの根本的な理由が根深かった。


 この世界には魔術とスキル的な概念の『加護(かご)』が存在している。

 魔術は生まれつきの才能で使えるもので、使用できる量や質は完全に個人の力量による。


 厄介なのは加護だった。

 加護は見た目がいい、一部の女性だけが生まれながらに保有していると言われていた。


 それに加えて、生涯に一人にだけ、女性が自身の加護を男性に与えることができるというものだった。

 これにより、王宮や貴族間では見た目がいい女性を青田買いし、家系の繁栄と格式を高く保つという構図になっている。


 もとにいた世界よりも、自分が望んだ暮らしをするには見た目が重要だった。


 これを五歳の時に知った俺は、慌てて村の近くにある湖まで走った。俺の家には鏡がなく、ほとんどの村人も自身の見た目を気にするという思考がほとんどないようだ。


 そうなると自分の外見を確認する方法は、湖に映る自分を見ることだ。

 息を切らし、湖の水面を覗き込む。

 そこで、自分の顔を見て、頭を抱えた。控えめに言っても、美男子になる要素がほとんどない造形だった。なんなら、転生前の自分を、そのまま幼くしただけだった。


 自然な形で上級国民たちの暮らしに入っていけることはないと悟ってしまった。


 転生しただけじゃ、そう上手くはいかないか……


 念のため、成長ボーナスに縋りたい一心で、湖を使った容姿確認を定期的に続けるようになっていった。



 絶望しながらも、時間だけは多くあったため、近い将来に自分の希望を叶えるための努力は続けた。


 誰よりも早く、文字の読み書きを覚え、書物を読み漁った。

数少ない魔術の書物から、魔術の発動を試みるも何も反応せず、自分には才能がないことを知った。五歳から十歳になるまで、試してみたが、結果が変わることはなかった。


 この頃は、近所の子供達と遊ぶことはせず、いつも一人で行動している俺を両親は心配していた。

 村の中でも変わり者と噂されるようになり、「誰か友達になってやれよ」という空気がある。


 そんな空気もあったが、ブツブツと独り言を言い、定期的に湖までダッシュしている奴に構う者はおらず、不気味がられていた幼少期を過ごしていった。

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