第24話 それだけのことで
情報屋と話をする約束をしていた。裏路地を目指す。
明るい時間帯だったため、周囲の目線を気にして足早に向かう。
目的地に着いた時、すでに情報屋は俺を待っていた。視界に俺を捉えると
「ん? なんだか、雰囲気が随分と変わったんじゃないか?」
フードを被っているのに分かるのだろうか。そんな疑問があったが端的に応じる。
「あぁ。 実は……いろいろあってな」
詳細を人に話そうという気にはならなかった。
情報屋も深入りはする気がないと言った感じで続ける。
「それで、聞きたいことはなんだ?」
今日の目的はどうやってレーヴに近づき、シノを奪還するかだ。
「どうすればレーヴ……あいつから、シノを奪還できるか手がかりが欲しい」
深刻そうな顔をする
「まず、お前の質問は適切じゃない。 どうすれば合法的に貴族の婚姻を取り消せるか、なんじゃないのか? 戦争みたいに玉砕覚悟で特攻するなら、すぐにでもできるだろ」
いきなり核心に迫るあたりは、さすがこの道のプロだ。
質問は続く
「もう一つ、教えろ。 お前のような境遇の人間は少ない訳じゃない。 普通は受け入れて相応に生きていくもんだ。 何故そこまで身体を張る? 命がいくつあっても足りないぞ」
こいつの言うことは正論だ。
もしかしたら、レーヴの評判は尾ひれがついているだけかもしれない。
案外、シノにとっても良い暮らしができて人並みには幸せなんじゃないかとも考えた。ただ、それでも俺はシノがくれたもので命を紡いでこれた。真意を確認しないまま、迎えに行く約束を反故にはできない。
「わかってる。 だが、約束したからな。 冒険者として非公式にしろ、受けた依頼には応えたい」
ふんっと鼻を鳴らす情報屋。
「やれやれ。 青臭い感情だ」
しばしの沈黙の後、口が開かれる
「……レーヴの屋敷に暇なメイドがいる。 だいたい夕刻の時間に、そいつは裏口から出てくる。 そいつなら、何かヒントを持っているかもな」
俺を試すような視線
含みを持たせるが、その人物から手がかりを得ろということだ。
ある程度、付き合いを重ねてわかっているのは、この情報屋は無意味なことは言わない。
たしかに、屋敷で働くメイドであれば何か糸口を探れそうにも思う。
それに加え、これ以上は自分で確かめろという雰囲気を醸し出している。
「助かる。 その人物に会ってこようと思う」
情報の引き換えに謝礼を渡そうとする。
思い出したように、言葉が続けられた。
「そういえば、お前は煙草を吸うか?」
想定外の内容だった。
煙草か……。この世界にもあったとは。
学生の時には、金もないのに吸っていたな。
「いや、今は吸っていないな」
「なら、屋敷で一服してきたらどうだ? 働きづめなんだ、たまにはそれくらいの発散もいいんじゃないか」
疑問はありながらも、俺は頷いておいた。
情報屋と別れた後、そのままの足で煙草が売っている店に向かう。
街中を歩いていて気付いたのは、以前ほど剣呑な視線を受けていないことに。
フードを深くかぶり、宿を出ようとする俺にフラウが言っていたことを思い出す。
「もう、そこまで気にする必要はないかもしれませんよ?」
足を止めて、フードを脱いだ。その瞬間から、心臓が跳ね始める。
すれ違う数人が俺のほうを見た。掌が汗ばんでいくのを感じていた。
でも、――――それだけだった。
ただ、見ただけで何かされることも、言われることもなかった。
取り組んできた見た目の改善は、俺が望んだ、他者からの無関心を獲得できるくらいの成果を出せていた。
雑貨に入った後、若い女の店員は俺の質問にきちんと答えてくれた。
そこで煙草とマッチを買って店を出た。これまで感じたことのない、感覚が足取りを軽くしていた。




