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異世界ルッキズム ー顔面格差が激しい世界で最低限の見た目でいることにしたー  作者: 緑地亭かっぱ


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第23話 施術②

 聖遺物を手に入れることができた翌日、これからの行動を整理したくてフラウに休暇を伝えた。


 それを聞いたフラウは


 「まぁ! それでしたら、以前にリオスが言っていた湿疹(にきび)と湿疹(にきび)痕(あと)の治療をしてみましょう!」


 なぜかウキウキしながら言ってきた。

 俺の顔を覆う髭や体毛については、ある程度の目途が立っていた。

 ちょうどいい機会ではあるため、フラウの提案に同意した。


 俺の鼻や頬にできている赤黒いそれは、大きいものだと、いつの間にか潰れたかと思うと、そのあと肌に凹みを作るタイプのものだった。

 いわゆるニキビ痕と呼ばれるそれを変えようと考えた。


 ただ、このお願いをするのはフラウに対して、申し訳なさを感じていた。

 さすがに施術中に膿も出たりするであろう、謎の治療を若い女の子に伝えるのは憚られた。


 しかし、当の本人は


 「なるほど。 火針と同じような形状だけど……針から流すのは雷の魔術ということですか」


 考え込む姿を見て、無理難題だよな。と後悔する。それに、あまり綺麗じゃない顔に触れてもらったりするのは申し訳ない気持ちだった。


 フラウは口を開く


 「確認ですが。 雷の魔術ということは皮膚を焼くのではなく、痕の深いところに刺激を与える。 ということでいいですよね?」


 「ああ。 合っている。 この凹んだところを直すには、表面に何をしても効果がないんだ。 深い層の部分に刺激を与えて回復を促したい」


 ふむふむと頷いている。


 「考えていることは分かりました。 だけど、刺激だけだと少し弱いような……」


 何かを考え込んでいる。


 「例えばですが針を打ち、雷を流した後で回復液(ポーション)を塗ってみるのはどうですか?」


 妙案だ……生前、似たような処置を検索で目にした気がする。


 「ありがとう、フラウ。 それでやってみたい」


 一瞬、口の端を不気味に釣り上げ、ニタリとした笑みが見えた気がする。

 ただ、俺の気のせいだったようだ。フラウはいつもの表情に戻っていた。


 「では、リオス。 スライムを何体か狩ってきてください。 あと、回復液も忘れないでくださいね」


 思った以上に乗り気の彼女を見て、少しだけ怖くなった。




 狩ったスライムの死骸と、ギルドで購入した回復液を用意して、フラウの部屋に戻った。前回と同じように、ベッドに腰掛け、膝枕を促される。


 どうしても慣れない恥ずかしさがあるが、大人しく従う。


 「そしたら……頼む」


 まだ少女の年齢にも関わらず、熟練の技と経験を有していそうな魔性の笑みを浮かべるフラウがいた。


 「もちろんです、リオス。 魔術の奇跡はあなたと共にあります。 私を信じてください」


 フラウの手が顔に触れる。 憐憫にも似た優しくも儚い表情にドキッとさせられる。詠唱を小声で口ずさむ。


 次の瞬間、バチィという音が鳴り、火針とは異なる重い衝撃を鼻に感じた。


 「づぁぁ!」


 痛い。火針での脱毛とは異なる痛みが鼻に来る。

 悲しい訳じゃない。それなのに視界は涙で歪んでいく。


 何か悪いことをした訳でもないのに、この痛みを享受しないといけないのか。

 元からニキビに悩まされない体質であれば、経験しなくてもいい痛みということに悲しい気持ちになる。


 いっそのこと、こんなこと、やめてしまえば……

 

 いや、違う。俺はもう逃げない。結果、上手くいかなくてもこの世界では最後まで足掻くと決めた。


 術を止めていたフラウに伝える。


 「続けてくれ。 遠慮はいらない」


 微笑むフラウ。


 「ええ。 もちろんです。 それでこそ、リオスです」


 バチィ、バチィ、バチィ

 続けて三発を受け止める。

 きつい……、言葉にならないものが漏れる。


 小休止と言わんばかりに、質問が投げかけられた。


 「どうして、魔女からの誘いは受けなかったのですか?」


 先日の一件について、フラウは口にした。

 あの時の感情を吐露した。


 「そうだな……言葉にするのは難しいんだが」


 「美しくなることで得られる、体験や機会は正直、あると思う。 他者から承認されることも増えるだろうし、それが多ければ多いほど、生きやすいと思う」


 「だけど、今の俺を前にしても、向けてもらえる好意や善意もあって。 魔女の誘いを受けることに、違和感を覚えたんだ」


 シノの真っすぐな想いを向けられて、気づけたこと。

 エステルが、罪人の俺に世話を焼いてくれたこと。


 「今、フラウがしてくれていることもそうだ。 あの誘いは、向けてもらったものに優劣をつけて、自分だけが満たされる選択になりそうだと思えたんだ」


 昔の俺だったら、迷わず選んだであろう選択。

 見た目を変えることで救われるものがあるのも、事実。

 俺の場合は、本当に望んでいたものが明らかになっただけだ。


 この世界に来て、遠回りをして辿り着いた。

 俺は、美しい見た目が欲しいのではない。

 数少ない大切な人と、望んだ生活ができれば、それでよかったんだ。


 魔女の誘いを断ったことに未練はない。


 フラウは真剣な目をして俺を見つめている。

 とても、ジットリとした舐めまわすような視線に恥ずかしくなり、目を逸らす。


 「そう……ですか」


 バチィ、バチィ、バチィ、バチィ


 答えた後、放たれる電撃。火照ったように鼻が熱い。


 「ふふっ。 とても不器用ですが、実にあなたらしいですね」


 穏やかな笑みを浮かべながら、続けようとする。


 すると、電撃は頬に移っていく。

 歯を食いしばる。顔の上にいるフラウは、もうスイッチが入ってしまっていた。


 「あぁ。 いいですよ。 その調子ですリオス」


 そう、言っているが、既に目の焦点が定まっていない。


 予定していた箇所の電撃が終わる。顔全体に火照りと脈動を感じる。


 ようやく独特の苦しみから解放される――はずだった。

 自分で回復液を顔にかけようと、身体を起こした時、予想外の言葉が聞こえた。


 「リオス、スライムの死体はどこですか?」


 ジェスチャーで荷物袋の中にあることを伝えると、フラウは満足そうにしている。


 「この先も私に任せて、そのまま寝ていてください」


 彼女はスライムの死体を手に取り、椀に回復液を注ぐとスライムの死体を浸した。


 ぐっちゃ、ぐっちゃ。


 怪しい音を立てながら、フラウの白い指でそれは捏ねられている。液体まみれになったスライムから、回復液が指先から妖しく滴り落ちている。


 仰向けの俺は恐怖すら感じていた。

 フラウはそれを俺の顔に勢いよく貼り付けるように乗せた。


 「むごっ、むごご!」


 顔全体が覆われ、空気の通り道が強制的に奪われる。


 くっ、苦しい。


 「むーーー! んごぉ!」


 呼吸が困難になり、フラウの手を叩いて、やめるよう合図する。

 しかし、顔を紅潮させた魔術使いには伝わらない。


 「だいじょう……ぶ。 苦しいと思いますが、これは必要なことなんです。 電撃が終わった後、すぐに回復液を浸透させ、効果が逃げないように蓋をするのが肝ですよ……」


 甘い囁きが耳元で聞こえる。必要なことなのは同意だが、せめて呼吸はさせてほしい。頭がクラクラしていく。


 「一度、休憩しましょう」


 そう言われると、スライムがどかされる。

 大きく息を吸い込み、呼吸を整える。


 なんでこんなことするのか、涙目で訴えると


 「リオス。 あなたが進む道は困難なものです。 今やっている治療も、やって満足ではいけません。 最大の効果を得るためには苦しいことを乗り越えるのです」


 その目は既に自分の世界に入っていた。

 再度、ぐちゃぐちゃ、ぐにゃぐにゃとスライムだったものを捏ねながら、大人しくするよう告げていた。


 「ま、まてフラウ! せめて鼻か口、どっちかは開けて……っもぉ!ぐもぉ!」


 再び顔面に襲来したそれに酸素を奪われる。

 腕を動かしてどかそうとした時、馬乗りになるフラウ。両の膝に体重をかけ、俺の腕を抑える。


 顔に真上から腕の力で押さえつけられるスライムと、何かを囁く魔女。


 「もっと……もっと頑張りましょうリオス。 私と一緒に、これからも挑戦を続けましょう」


 そう言ってスライムだったものとの密着は続けられた。


 後日談になるが、フラウのこだわりに効果があったのかは不明だ。


 しかし、電撃と回復液のスライムパックの合わせ技は俺の顔にある湿疹と湿疹痕を良い意味で変えていった。

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