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第18話 同行者

 戦いの後、小休止を兼ねてフラウと名乗る人物と壊れた塀に腰掛けていた。


 お互い名乗った後、携帯していた食料を二人でつまむ。

 やや緊張感に欠けるが、食える時に食っておくことにした。


 「どうして、こんな場所に一人でいたんだ?」

 

 高貴な身分なのではないかと感じさせる女性が、訪れる場所とは思えなかった。


 俺自身も一人でいた訳だが、同じように罪人という訳でないだろう。

 少しだけ考え込んだフラウが口を開く

 

 「実は……冒険者を目指していまして。 そのための修行をこの迷宮でしていました」


 それを聞いて、正気とは思えなかった。


 決して華美ではないが上品な装いと、差し出された食料に口を付ける際の洗練された所作。

 こんな禍々しい場所にいる彼女は違和感しかなかった。


 「入口に衛兵がいたと思うが?」


 今、思い出したというように


 「ええ、いました。 あの方には少しだけ眠ってもらいました」


 先ほどの魔術を目の当たりにしているため、衛兵を眠らせることは造作もないのだろう。

 わざわざ、この場所を選ぶなんて世間知らずなのかと言いたくなるが、おどけた口調に追及する気は起きなかった。


 「ところで、リオスこそ、何故この場所に?」


 こちらを覗き込むように聞いてくる。瞳の奥は威厳すら感じる。

 適当に誤魔化すことも考えたが、それが通用しない雰囲気を感じていた。


 危害を加えられることはなさそうだったので、底が知れない相手を前にして正直に話すことにした。


 「俺は……貴族の反感を買って。 罰として、ここで聖遺物を見つけるための探索をしている」


 「そんな! そうだったのですね! それにしても……聖遺物ですか」


 それを聞いたフラウの眼が一瞬、輝いたように見えた。


 なんで少し嬉しそうなんだ……?


 質問が続けられる


 「そうなってしまった経緯を聞いても?」


 自分から話しておいて、ここで断るのも憚られたため、俺はここまでの成り行きを話す。

 一通り話し終えたところでフラウは


 「随分と辛いことがあったのですね……」


 神妙な顔で呟く。

 誰かに、ここまで話を聞いてもらうことがなかったこともあり、感情を吐露した自分がいた。


 それと同時に少しだけ胸の中が軽くなった気がした。

 話を戻そうとした時、涙声になりそうだった。


 「だから、俺は探索を続けないといけない。 ここからは危険だからフラウは戻ったほうがいい。 出口まで送って行くから」


 俺からの提案を受けて、考え込んでいる。


 「ご心配はありがたいのですが、まだ御礼ができていませんので。 私も同行させてもらえませんか?」


 意外な逆提案を聞いて、目を見開いてしまう。

 ここは、こんな子がいていい場所ではないだろうと思った。


 「私は命を助けてもらいました。 リオスがいなければ、きっと……あの魔物に犯された後に嬲り殺されていました。 あなたに救われた命ですから、御礼を兼ねてお役に立つのはだめ……ですか?」


 随分と謙遜がすぎる気もする。


 そして、本人は意識していないと思うが、フラウの上目遣いでの問いはイエスと言わざるを得ない魅力があった。

 いかんせん、フラウと話していると自分のペースが乱れる気がする。


 もちろん、探索に魔術師がいれば生き延びる可能性は増す。

 一方で無関係な人間を危険に巻き込んでいいのか悩んでいた。


 俺を迷わせている、もう一つの要因は魔術だ。

 さっきの戦闘を経て、フラウの魔術で試してみたいことが頭に浮かんでいた。


 そんな俺を見た彼女は


 「御礼をしないと、私の気が済みませんので」


 優しさに満ちた笑みを向ける。これ以上、好意を無下にするのも良くない気がした。

 

 「わかった。 そうしたら、同行をお願いするよ」


 見間違いにも思えたが、それを聞いた彼女はニタァと口角を上げているのが微かに見えた。


 「ただ、この先も守り切れる自信はないから、最悪の場合は俺をおいて逃げてほしい」


 自分の罪で他人を巻き込んでしまいたくはなかった。


 俺から出てくるのは重苦しい話ばかりだったので、頭を切り替えて、試してみたいことを打診する。


 「早速で悪いんだけど、すぐに御礼をしてもらいたいことがあって……」


 内容が内容であるため、言い出そうとすると恥ずかしくなってしまう。


 しかも、出会ったばかりの異性に頼むのは、ひどく恥ずかしく感じる。


 頬をかきながら、若干しどろもどろになっていると、一瞬、ゴミを見るような目で見られた。


 「リオス……あなたも男性なので気持ちはわかりますが……さすがに、それは……急ではないですか」


 こちらを窘めるような発言だが、フラウ本人は視線を伏せながら、身をよじっている。羞恥から逃げるように、胸元や腹部を庇うように手で隠している。


 その様子に言葉では言い表せない感情から、フラウを見つめてしまいそうになったが、それよりも誤解を解くことを急いだ。


 「ち、ちがうんだ。 そういう御礼じゃなくて、頼みたいのは――」


 あぁ、まずい。早く、端的に言わないと状況が悪化する……

 気持ちは逸るが、言葉が追い付かない。


 なんとか、核心部分を真っ先に伝えた。



 「火の魔術を俺の顔に向けて打ってくれないか?」



 目を大きく開けて絶句するフラウ。


 しまった、言葉が足りていなかったか……。


 「や、えっと。 変な意味じゃなくて。 なんて言えばいいか……俺の顔に打てるだけ打ってもらいたいんだ、火の魔術を」


 


「えっと……正気……ですか……?」

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