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第15話 ギルド

 翌日、馬車に揺られ数時間でグラナド付近の冒険者ギルドに移送された。

 本来、冒険者ギルドは街中にあるのが普通らしい。だが、グラナドという土地の異様さから、


 ここでは街から離れた場所に隔離するよう建てられているという。


 「着いたぞ。 降りろ」


 馬車から降りて、目の前の建物を見上げる。

 城というには小さく、建物というには大きすぎた。


 砦だ……。


 灰色の石を積み上げた無骨な外壁には無数の傷痕が刻まれていた。

 剣や槍といったものではない。巨大な爪で引き裂かれたような痕だ。


 「ここが……ギルド?」


 思わず呟く。


 「さぁ、動け」


 俺の移送に付き添う、衛兵のような男が背中を小突く。

 半ば強制的に歩かされ、鉄扉の前に立つ。


 扉が開けられる。


 ギルドの中は外観に反して、ある種の活気があった。

 壁際に張り出された依頼、カウンターの奥で書類を捌く職員、隅のテーブルでは酒を飲む男たち。


 一歩、足を進めた時。全員が俺を見た。

 視線が俺に向く。次第に声が漏れ聞こえてきた。


 「……新入りか」

 

 「ガキじゃねえか」


 「衛兵付きってことは、訳ありの類か?」


 言い表せない居心地の悪さに、肩が強張る。


 またも背中を小突かれる。


 「あそこが受付だ。 早く歩け」


 急かされるまま、カウンターへと向かう。

 追いかけてくる視線を背中に感じていた。


 カウンターに座っていたのは、一人の女性だった。

 このギルドの中で、その人だけは妙に整然としていた。


 衛兵が用件を伝える。


 「レーヴ侯爵の件だ。 連絡は届いているか?」


 「はい。 聞いています」


 「それでは、これにて移送完了となる。 こちらに署名を」


 事務手続きを終えた衛兵は、俺に一瞥もくれず去っていく。

 それを目で見送った時


 「お待ちしていました」


 二十代半ばくらいだろうか。

 亜麻色の長い髪を無造作に束ねている。

 切れ長の瞳には感情の色が薄い。怒っているわけでも、笑っているわけでもない。

鋭く、凛々しい視線に、まるで射抜かれているような感覚を覚える。


 「話は聞いていますので。 座ってください」


 促されるまま、受付にあった椅子へ腰かける。


 「まず、ここで冒険者として登録をしてもらいます。 私の質問に答えてください」


 着いて早々に、冒険者登録とは……。

 話の全容が掴めないので疑問を口にした。


 「なぜ、冒険者登録が必要なんだ?」


 罪人と言われ、この地に来た。

 俺の状況との繋がりが掴めないでいた。


 一瞬、眉をしかめた女性職員は静かに答える。


 「あなたは罪人としてグラナドに入ることになります。 普通の冒険者にはしませんが、魔術をかけて“本当に探索しているか”を管理することになっています」


 悪びれた様子はない。淡々と既に決まっている手筈を述べていたのだった。


 「魔術をかけるには、認識票が必要です。 認識票は冒険者にしか発行できませんので」


 不本意ではあるが、監視目的なら登録の必要性があるか。


 「わかった。 じゃあ、手続きを進めてほしい」


 名前、年齢、出身といった基本情報に答えていく。


 内容を確認して女性職員はカウンターの奥にいった。

 少しの間、待っていると、手には光沢のない灰色の認識票を持って戻ってくる。


 「これが、あなたの認識票です」


 先ほど伝えた情報が刻印されている。


 「あとは、これにあなたの血を垂らして完了です」


 本人を管理するための偽装防止策なのだろう。

 言われたとおり、指を切ろうと腰から下げたファルシオンに手をかける。


 「こちらでやります。 動かないでください」


 「ん?」


 そう言われた瞬間、僅かな熱を感じた左手の親指に、赤い線が入っていた。

 女性職員は横に、刀剣を置き直していた。


 「そちらの指で認識票に触れてください」


 職員の意外な行動に驚きつつも、言われたとおりに指でなぞる。

 鈍く発光した後、光が収束していくのを見届けた。


 「これで完了です」


 渡された認識票を首にかける。


 「いくつか、質問してもいいか?」


 「いいですよ。 答えられる範囲であれば」


 「俺の行動だが、どこまで監視される?」


 あまり、気分が良くないので確かめておきたかった。


 「こちらで見られるのは、グラナドの中での行動です。 行動の全てではなく、どこにいるのか。 動いているのかだけですね」


 「グラナドに行かなかったり、中で動いていないとどうなる?」


 「その場合はレーヴ侯爵に報告がいき、量刑が重くなると思われます。 中で一定の時間、動きがない場合は死んだものとして扱うことになります」


 職員はさらに付け加える。


 「外での行動は知る術がないので安心してください。 監視の魔術は中だけということです」


 「また、奥に進もうとしていないと、聖遺物を探していないとみなされますね」


 「あとは、常に中に入りきりではなく、転移の魔術陣があるので外に出られます」


 行動に関しての疑問は解消された。陰湿な取り決めもあるようだった。


 「もう少しいいか?」


 「どうぞ」


 淡々と対応する女性職員。

 街の住民とは違い、コミュニケーションがとれるだけでも貴重に感じる。


 「聖遺物があるか知っているか?」


 俺の質問に、少し沈黙した後


 「ある、とは言いきれません。 誰も存在を確認できていないので」


 情報屋が言っていたことと同じで収穫はなかった。

 ならば、ここで深追いしても仕方ない。


 「最後にもう一つ。 どうすれば生き延びられる?」


 一瞬、目が見開かれた。


 「あなたは……ここがどういう場所か知っていますか?」


 「風評くらいしか知らない。 だから、生きるための有用な情報が欲しい」


 先ほどより、長い沈黙が流れる。

 静かに職員は話し始めた。


 「奥に進むほど、通常の魔物とは比較にならない個体が出ます。 それを倒し、奥へ進むことが、あなたが生き残る術です」


 威圧感すら感じる、強い視線。


 「わかった。 それで充分だ。 助かる」


 退路はないことが確認できれば充分で用件は済んだ。

 簡単に礼だけ伝えて、カウンターに背を向けて去ろうとする。


 ギルドの中では、いくつか店があり、冒険に必要な品が売買されているようだった。


 今日のところは、物資を調達して明日から潜ろうと歩き出したところ


 「リオス!」


 後ろから、先ほどの女性職員に呼び止められる。

 視線が交差すると


 「行く前は、必ず私のところへ寄るようにしてください」


 行動管理であれば、認識票の動きで充分なはず……。

 やや、不可解ではあった。


 ただ、他者との交流が極端に少ないそうだったので寄るくらいなら良いと思え、片手を上げて了承の意思を示した。


 必要な物資を調達した後、この日も仕方なく野宿した。

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