第14話 村の外は・・・
馬車でグラナドに移送されている。
家を出る時、両親は淡々とした態度で接してくれた。
最後に「元気なら、それでいい」と言われ、見送られた。
貴重な働き手が減ったことは申し訳ない想いがあったので、これまでの仕事で稼いだ報酬を幾分か置いてきた。
村から、グラナドまでは馬車で二日の距離だ。
近くに街もあるようで今日は、そこで一泊する予定だ。
いよいよ、街の入り口に着いた。
死地と呼ばれる場所が近いので寂れているのだと思っていたが、活気があり、賑わっている。行き交う人々の格好は小綺麗で容姿も整っている人が多かった。
なんとなく、知ってはいたが実際、目にすると足がすくみかける。
馬車を引いている人間から
「おーい。 自分で宿を取って休んでくれ」
と言われ、翌日の出発時間だけを告げられた後、馬車を降りる。
街中を歩き、宿屋を探す。
気のせいかと思っていたが、すれ違う人たちは俺をジロジロと見て、迷惑そうな顔をしている。
子連れの女性は俺を見ると、子供の視界を遮るように手を引いていた。
高級そうな宿屋は避けて、看板に書かれている金額を確認して、ほどよい店に入る。
扉を開けると同時に
「いらっしゃいませ!」
という愛想の良い声が聞こえたが、店員の女性と目が合うと
「……えーっと、うちの店に何か用?」
敬語もなにもあったもんじゃない。
「泊まりたいんだが……」
それを聞いて、ムスッとした店員は語気を強める
「あんたを泊める部屋なんてないわ。 他のお客さんから苦情がきちゃうでしょ?」
「泊まれるだけの金はある」
「そうなの? どこで盗んできたお金か分からないけど、どうしても泊るなら、一泊1,000ヴェールよ」
ちなみに、一般的な食事なら相場は5ヴェールほどだ。
そして、この店は看板に宿泊は20ヴェールと書いてあった。
「看板には書かれている金額と違うのか?」
俺を睨みつけたあと
「だったら、他を探せば? あんたみたいなのを泊めるとね、特殊な清掃が必要になっちゃうの。 分かってくれるかしら」
明らかに見下され、ふっかけられている。言い返そうと思ったが、他の客たちも集まってきた。
「うわ! こんなの奴、久しぶりに見たよ」
「やめてほしいんだよな~、金があるからって俺たちと同じ宿に泊まろうなんてすること。 住む世界が違うんだからさ。 大体、その金はどうしたんだって話だよ」
「どうする? 衛兵を呼んでこようか?」
こうなってしまっては、ここに泊るという選択肢は消えた。これ以上、目立つわけにはいかない。
どんな言いがかりを付けられるか、想像ができなかった。それに、動悸のように心臓がうるさい。
俺は逃げるように、その場を去った。
その後、別の宿にも入ったが、用件を伝える前に残飯を投げつけられる始末だった。今にして、この世界の顔面格差を突きつけられることになった。
結局、この日は街の外で野宿をすることにした。
ただ、もう一つ用事があった。
村を出る前に依頼を持ってきた情報屋に経緯を伝え、この街で落ち合う約束をしていた。
◇
街の少し外れで情報屋を待つ。
足音は聞こえなかったが、件の人物はやってきた。
「待たせたな」
いつものローブのフードを深く被った情報屋がそこにいた。
「どうだ? 街の感想は?」
「……圧倒されたよ。 ここまで見た目に応じた扱いを受けるなんて想像できなかった」
率直に伝える。
「そうだろうな。 村のような環境とは異なっている。 ここで人並みの暮らしがしたければ、ある程度の見た目が必要になる。 もしくは、頭一つ抜けた功績だな」
俺にとって、頭の痛い問題で眩暈がする。
「それで、私を呼んで何が聞きたい?」
こちらの事情はお構いなしに、いつも通り、すぐに本題に入るのは変わらない。宿屋の一件で疲れていた。用件を済ませることにする。
「聖遺物について、何かわかったか?」
少しの沈黙の後
「存在する可能性はある」
含みのある言い方が引っかかる。
「ない可能性もあるってことだな?」
情報屋は頷く。
「お前の考えているとおりだ。 本当にグラナドにあるのかについては、情報がない。 あると”言われている”だけだ」
ゴールのない探索に放り込まれることが確定する。ここから先は困難しか存在しないようだ。考え込んでいると
「状況は悪いが逃げないのか?」
疑問が投げかけられる。自然な疑問だ。
腹は括っている。有益な情報がなかったとしても、覚悟はしていた。
「最後まで抗ってみるつもりだ」
そう答える。
「死ぬかもしれないのに?」
「俺はこれまで逃げ続けてきたんだ。 嫌なものから目を背けてきた。 だから……次は」
最後まで口にできなかった。それでも、もう逃げない。これは決めたことだ。
それに、あの日の夜、宿した加護からシノの存在を感じる。
シノのいない世界で生きるなら、それは死んだと同義だ。
それを聞いた情報屋は、何かを考えるようにして
「なら、最低でも男爵相当か、それ以上の立場になるしかないな。 ただ、見た目が悪ければ正当な評価を受けられないことは多い」
絞り出すような言葉。
これまで、情報屋との会話で温度を感じたことがなかった。今は、断言はできない渦中にいる俺に対して、糸口を提示してくれている。
人との繋がりがない俺にとって、それだけのことでも嬉しくなった。
「現実的ではないが、冒険者としての功績が分かりやすい。 侯爵と対等な功績を上げるなんて人外レベルの冒険者だがな」
結局、功績を上げながら、見た目を良くするしかないということだった。
「ちなみに……俺の見た目は、あんたから見て、どうなんだ?」
念のため確認しておくことにした。
珍しく、言いづらそうにしているが口を開くと
「最低だ。 体験済みだと思うが、街では人扱いされないレベルだ」
大きく息をつく。
自分の置かれた立場を再認識した。
「分かった。 ありがとう。 これからも情報交換させてくれ」
辺りが暗くなってきた。
情報屋は何か言いたそうにしていたが、疲弊していたため、この場はお開きとした。




