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第三章

そうして、目覚めるとわたしは17歳の女の子になっていた。


ただ、現役魔女ではないおばちゃんの魔法は少し時間がかかり、愛猫シェルとして亡くなってから1年の時がたっていた。



転生してすぐにエリオット様のもとへ向かおうとしたわたしだったけど、それをおばちゃんが止めた。


なぜか、笑いをこらえた表情をしている。



「ちょっと待ちな、あんたはもう人間だよ?いたいけな少女が四足歩行で向かってきたりしたら、百年の恋も冷めちまうよ」



そう言われて、わたしは手と足を地面につけて歩いていたことに気づく。


わたしは見た目は人間だけど、中身は猫のままだった。



ひとまず、こんな姿ではエリオット様には会いにいけない。



二足歩行の練習から始まり、文字を読む練習、フォークやナイフの使い方など、人間界で暮らすために必要な最低限の知識と教養を学んだ。


そして、おばあちゃんとのふたり暮らしにも人間生活にもすっかり慣れた頃、お城の侍女募集の張り紙を見つけて今に至る。



「侍女志望は、説明があるからここで待っているように」



衛兵が扉を開けると、大広間には何十人もの女性たちがいた。


扉の音に反応して、みんなが一斉に目を向ける。



わたしと近しいような歳の人もいれば、いかにも家事全般が得意そうな年配の人まで様々だ。


ざっと見ても、50人近くはいるだろうか。



その場で少し待機していると、奥の扉からヴァンデール城の侍女服を着た女性たちが入ってきた。


一番前に立つ、いかにも貫禄があるメガネをかけた女性が、この城の侍女をまとめる侍女長のようだ。



「ようこそ、ヴァンデール城へ。本日は、こんなにも多くの侍女志望者にお集まりいただき、大変うれしく思っております」



そうして、侍女長から仕事の説明があった。



初めは侍女見習いとして、お城でのすべての雑務を叩き込まれるのだとか。


それから侍女になり、王族の身の回りの世話を任されるようになっていく。



それを聞いて、わたしは手を高く伸ばした。



「あの、質問してもいいですか?」


「どうぞ」


「わたし、国王様のお世話係りになりたいです!それには、どうしたらいいですか?」



そのとたん、周りは眉をひそめた。


侍女長たちも顔をしかめて、わたしに目を向ける。



「あなた、わたくしのお話を聞いていたのかしら?」


「は、はい。なので、すぐに国王様の侍女になる方法をお聞きしようと――」


「だまらっしゃい!」



突然の大きな声に、わたしはビクッと体を震わせ、瞬時に物陰に隠れてしまった。



び、びっくりした…。


いきなり大声を出されたり、不意の物音はとっても苦手。



前世でも、そのたびにエリオット様の陰に隠れていた。



恐る恐る顔を覗かせるわたしに、侍女長は鋭い視線を向ける。



「どこの馬の骨ともわからない、今日きたばかりの侍女志望者を、国王に近づけるわけないでしょう!」



侍女長はわたしを怒鳴りつけ、鼻息を荒くする。



「身の程知らずも甚だしい。侍女見習いの仕事をすべてこなせるようになったら、そのとき改めて言いにきなさい!」



ものすごい剣幕に、わたしは固まったまま目をパチパチとさせた。



「は…はい、すみませんでした」



肩をすくめ、しょんぼりしながら頭を下げる。


周りは、口元に手をあてながら失笑していた。



そんな中、ひとりの侍女志望者がわたしに話しかけてきた。



「あなた、今の本気で言ってるの?」


「え、そうですけど…」


「いきなり王族にお近づきになれるだなんて、夢見すぎよ。しかも、エリオット国王なら尚更」



そんなにおかしな発言をしたのだろうか。


ただ、以前のようにエリオット様のそばにいたいだけなのに。



だってわたしは、“あの人”――エリオット様に会うために転生したのだから。



「もしかして、あなたも妃狙い?」



言葉の意味がわからず、わたしはキョトンとして首をかしげる。



「ごまかさなくたっていいわよ。ここにいる大半は、あわよくばと思って侍女志望者としてきてるだろうから」



その人が言うには、ごく稀に、侍女として働いていたら王族に見初められるケースがあるのだとか。


そうなれば、庶民から王族へ成り上がれる大チャンス到来。



一気に勝ち組の仲間入りを果たせるため、そのわずかな希望を抱いて、まずは王族専属の侍女になるべく画策する人もいるらしい。



「まあ、王族入りできるなら相手はだれでもいいけど、欲を言えばやっぱりエリオット様よね〜。申し分ないルックスで、しかも国王!すぐにでもお近づきになりたい気持ちはわかるわ〜」



その人は頬を赤く染めて、すっかり自分の世界に浸ってしまっている。



ということは、この人もエリオット様の妃になりたいと思っているのだろうか。



わたしは、妃になんて興味ない。


大好きなエリオット様のそばにいられるだけでいいから。



でも、さっきの侍女長の言い方だと、侍女見習いの仕事をすべてこなせるようになったら、この件を再度お願いしてみてもいいってことだよね。


それなら、俄然やる気が出てきた!



突拍子もない質問で、侍女長たちからはいきなり目をつけられることになってしまった。


でも、わたしは無事に、侍女見習いとしてヴァンデール城で住み込みで働けることとなった。



いつかはエリオット様の侍女になれるように、わたしは仕事に励んだ。



毎日全力で仕事をするせいか、見習い侍女が寝泊まりする部屋に戻ると、死んだように眠ってしまう。


そして朝がくると、だれよりも早く起きて、一日の仕事をこなした。




徐々にここでの暮らしにも慣れてきた、そんなある日。


わたしは、ようやく大好きな人と再会を果たす。



それは、大広間の大理石の床にこべりついた汚れを一生懸命に落としていたときだった。


床にはいつくばっていたわたしの耳に、遠くから聞きなじみのある足音が聞こえてきた。



足早で、でもしっかりと床を蹴る、均等に響くこの足音は――。


姿が見てなくても、すぐにわかった。



大広間の扉が開け放たれると、侍女見習いの掃除の監視をしていた侍女長が身を引いて頭を深々と下げた。



「国王様!」



その場にいた侍女見習いたちも仕事の手を止め、すぐに頭を下げる。


その中で、ただぼうっと突っ立っていたのはわたしだけ。



流れるブロンドヘアの短髪に、エメラルドを埋め込んだかのような緑の瞳。


かすかに漂ってくる石鹸の香りに、わたしは思わず目の奥が熱くなった。



その人物とは、わたしが大好きで大好きで大好きだった、元主・エリオット様だった。


1年前と変わらない凛々しいお姿に、わたしの胸から思いが込み上げそうになる。



ずっと会いたかった。


またこうしてお会いできるなんて、夢みたい…!



「…エリオット様!」



わたしは、溢れそうになった涙を指で払いながら駆け寄った。


――ところが。



「なんだ、貴様は」



エリオット様は目を細めると、鋭いまなざしでわたしを捉えた。


そのあまりにも冷たい視線に、わたしはその場で固まってしまった。



だ…だれ?


この人は、本当にわたしが知るエリオット様…?

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