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第二章

わたしを殺した犯人は、当時エリオット様の妃候補としてお城で暮らしていた女だ。


もともとエリオット様は女性に興味がなかったし、それに加えて愛猫しか溺愛しないものだから、嫉妬した妃候補がわたしをお城の敷地内にある池に突き落としたのだ。



首根っこをつかんだ手をパッと離され、池に落ちるまでの1秒にも満たないわずかな時間だったけれど――。


エリオット様と過ごしたこの10年の楽しかった思い出が一気に頭の中を駆け巡った。



こんなところで溺れている場合じゃない。


きっと、エリオット様が心配して探しているはずだ。



わたしはなんとか爪で土をつかみ、自力で岸に上がったけれど、大量に水を飲んで意識が朦朧としていた。


そして、ぐったりして倒れているところをお城の衛兵たちに発見された。



彼らは、妃候補が侍女もつけずにひとりで庭にいるのを不思議に思って目を向けた。


そうしたら、わたしを故意に池に落とす場面を遠目からたまたま目撃していたことにより、妃候補の犯した罪が公に。



命は取られなかったものの、妃候補は即刻お城を追い出された。


その後、家名剥奪、国外追放を言い渡されることになる。



わたしはというと、瀕死の状態でエリオット様のもとに連れていかれた。


暖炉の前で、包まれた毛布でしきりに体をさすられて温められるけれど、ぐっしょりと濡れた体は急激に体温が奪われ、徐々に意識が遠のいていくのがわかった。



「シェル!シェル…!!」



エリオット様の叫ぶ声が聞こえ、うっすらと目を開ける。



どうしてエリオット様は、そんなに血相を変えた顔をしているの…?


しかも、目に涙まで溜めて。



泣かないで、エリオット様。


だって、わたしは今すごく幸せなのだから。



あなたに拾ってもらってからのこの10年、とっても楽しかった。


毎日頭をなでられて、話しかけてくれて、書類を書くところに邪魔に入ってもやさしく抱っこしてくれて。



エリオット様の膝の上でくつろぐ時間が、わたしの最高の癒しでした。


エリオット様、大好きです。



そんな大好きな人に最期を看取ってもらえるのなら、これ以上幸せなことはありません。


今まで、ありがとうございました。



そうして、エリオット様が呼びつけた獣医が駆けつける前に、わたしは息を引き取った。



野良猫として生まれたわたしにはもったいないくらいの幸せな毎日で、この猫生に悔いはない。



…ただ、ひとつだけ心の残りがあるとすれば。


こんな突然の別れじゃなくて、本来の寿命を全うするまでエリオット様のそばにいたかったな。



エリオット様がお仕事ばっかでスネて、ツンツンしちゃったときもあったから、こんなことならもっともっと甘えておけばよかったな。



なんてこと、今さら言ってももう遅い――。


『できるよ』



突然、わたしの意識の中に響いたやさしい声。


この声…、知ってる。



『で、できるって?』


『あんたの願い、アタシが叶えてあげよう』


『叶えるって、あなたはいったい…』



…そうだ、思い出した!


やさしくて、心地いいこの声は――。



『もしかして、森の家のおばあちゃん?』


『フフフ、気づいたね』



森の家のおばあちゃんは、エリオット様の次に好きな人間だ。



散歩でお城の敷地外へ出たとき、たまたま森の中に一軒家を見つけた。


そこにはやさしいおばあさんがひとりで住んでいて、たびたび遊びにいっていた。



『ヒッヒッヒッ。孤独なババアに見えていたかもしれないが、アタシは魔女だよ』


『魔女…?おばちゃんが?』


『ああ、そうだよ。あんたにゃ、世話んなったね。こんな老いぼれの相手をしてくれてありがとよ。お礼にあんたのその願い、アタシが叶えるよ』


『ほ、本当…!?』


『本当さ。ただし、これは禁忌の魔法。代償もあるけど、どうする?』



代償…?



そんなの、聞く必要なんてない。


わたしの答えは、初めから決まっている。



『おばあちゃん、お願い。わたし、エリオット様に会いたいの』


『わかったよ。あんたのその消えゆく命、アタシがもらうよ』

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