大会編13・勝利渇望
AブロックとBブロックがあるというのに、一回戦から友人同士で戦うというのはなかなか良い気分ではない。どうせなら決勝で会おう、とか格好良いことをいいたいものである。
Aブロック、武道場にはネロとイツキが向かい合っていた。
イツキはもとより戦意充分であったが、珍しいことにネロもやる気充分といった様子だった。
「ごめんね、ネロ。今日の私はめちゃんこ本気よ?」
「それはこっちの台詞です! 私、がんばるです!」
涼しげなイツキと、激昂といっても過言ではないネロ、試合開始の激がなる。
イツキが凸凹銃を構えると同時に、ネロが叫ぶ。
「ミディアムサイズ二重奏! 沈黙」
ネロは先日リースに見せたものとは少し違う姿勢ながら、雰囲気は全く同じものをした。
両手に大きな鎌を持ち、左手を下に、右手を上に、というのは同じだが、しっかりとイツキを見据える姿勢で、左手の鎌が背中の方に刃を向けているのが違う。
何より普段の人当たり良い笑顔は消え失せ、レンやリースのように目だけで人をも殺さんとする冷酷で鋭い瞳。
これがネロの完成形、そう言わんばかりの威容。
「……それ技名? ネロらしくない」
イツキが世間話でもするように訊ねたが、ネロはイツキに見せた事のないような目で、無言を貫いた。
「サイレント、ねぇ。無視とはいい度胸じゃない。何でもいいけど、武器もって動かないんじゃ私の勝ちじゃない?」
イツキは銃を合体させ、ネロめがけて撃つ。
「毒ガス弾・ちょこっとだけ」
周りに影響が出ない配慮はしたが、吸えば一日経たず息を引き取る弾。
どうん! と大きな音の弾をネロはかわさずに切り裂いた。
その切り裂く動きの俊敏さにイツキは恐怖を覚えるが、紫の煙に包まれたネロを逆に心配することになった。
「ちょ、ちょっとネロ、大丈夫?」
そうは言うが、まだ解除はしない。解除なら一時間以内とかそんなので大丈夫なのだ。あくまでギブアップさせるための弾。
もくもくと溜まる煙の中、一分経ってもネロは動かない。
「ね、ネロっ!」
イツキが再び叫んだ瞬間、大きな鎌が煙を切り裂き飛んで来て、イツキを肩口から切り裂いた。
霧払いならぬ煙を払うネロの投げ放った鎌が、そのままイツキを裂いたのだ。
左の肩口から右の腰にかけてイツキは肉がぱっくり裂けて血が流れている。当然傷をどうにかする必要がある、イツキは急ぎ銃口を傷口に向けた。
「ち、治癒弾!」
ゴリアックとの特訓のおかげで急な痛みに慣れた、皮肉を感じつつイツキは弾を自分の体に撃ちまくる。
だが、その腕を鎌で持ち上げられた。
「いっ!」
左腕が強引に動き、傷口にモロに衝撃が加わる。
「イツキさん」
見上げたネロの目は、いつもの優しい彼女のものだった。
「……諦めてください」
「嫌よ! 私は、いつつ……、今回は負けない!」
傷口を庇いながらも、イツキは強情にもネロを睨み返す。
「ならいいですよ、好きなだけ相手します」
そう言うと、ネロはゆっくりと歩き、イツキから距離を取った。
ざわざわと客が騒ぐが、イツキは落ち着いて、小さな銃で自分の傷を回復した。
「……手加減したこと、後悔させてあげる」
「私は、みんなと楽しい時間を過ごしたいんです。そのためには、エレノンを私が倒さなくちゃいけないんです!」
イツキが凸凹銃を再装備すると同時に、エレノンは叫ぶ。
「ラージサイズオーケストラ・遁走曲」
今度はクワガタのように、真正面から、両手に大きな鎌を構えた。
「フーガ、今度は何をするのかしら?」
今まで弱かったエレノンとネロがどうして強くなっているのか、不思議と不安はあるが、今度こそイツキは手を抜かず、容赦もせずに戦うことを決意する。
「鳥もち弾、連射!」
バルカンのように連射される弾に、ネロはやはり冷めた瞳で対応する。
ネロの行動は、投げ、大きな鎌をひたすら投げた。
大鎌は鳥もちの一つや二つでは止まらない、多くの鳥もちを纏ってようやくネロとエレノンの間に落ちる。
やがていくらかの鎌が壁のように積み重なって、イツキは銃撃をやめた。
目の前には高く積み上がった鳥もちと鎌の金属の壁。小型の鎌を投げるスタイルのネロが、これほど大きな鎌を、互いの姿が見えなくなるほどの壁を作り出すまでに投げられるようになったのだ。
「さてと、本当にネロ、どうしたらいいものか……」
ここまで強くなったことは計算外。というか、もはや別人として見ないと戦えないほどである。
「本気で殺す気で、いくしかないのね……」
火炎放射か、酸を使うことまで視野に入れると、また声が聞こえた。
「ラージサイズデュオ・行進曲!」
「マーチ……まさか、まさかね」
鳥もちの反対側から聞こえる歓声、まるで曲芸を楽しむかのような観客のざわめきを聞き、イツキの不安が現実に変わった。
壮大な音と同時に鳥もちと鎌でできた壁が一撃で破砕された。
ネロが振り上げた鎌には、鎌と餅がついているが、ネロは表情を変えずそれを捨てて、新たに大鎌を出した。
鎌を曲芸のように回しながら、振り回しながら歩くネロは、一人の行進を進んでいるようにどこか規則正しく、しかし愉快な雰囲気がある。
ただ恐ろしいのは、ネロの表情が一切変わらず、蔑むように冷たい目をしていること。
投げればイツキを倒せるだろう鎌をネロは放たず、ただ回しながら、一歩一歩イツキに近づく。
「大酸弾! からの油弾と火炎弾!!」
ゴルフボールほどの弾をネロは見事弾いたが、その瞬間に弾は破裂した。
中から体積以上の液体が散布されると、ネロに浴びせられる。
鎌を回して防ごうにも次の弾が眼前に迫っている。
どうすればいいか、冷静に見えてもネロはやはりネロ、イツキはそう判断して少し安心した。
これから地獄の苦しみがあると思い、イツキはゆっくりと解除弾を用意しておく。
だがネロはやはり変わった。
本人は変わらないように、と強く意識していたのに、彼女はそのために変わってしまったのだろう。
酸を浴び顔を焼きながらネロは叫ばず、同時に油と炎が混じる。
その中でネロは叫んだ。
「スモールサイズオーケストラ……狂想曲」
「カプリッチオってなに!? い、いや、それよりも……」
燃え盛るネロが炎の中から飛び出した、と同時に小型の鎌を我武者羅に投げてくる。
突進と鎌投げ、相反する攻撃をネロは焼き尽くされた体を強引に動かし行う!
声も出ずに、ただ恐怖から逃げるためにイツキは鳥もち弾で小鎌をからめとる。
だが、ネロは止まらない。
「フルサイズ独奏・鎮魂歌」
両手でなんとか持てるサイズの巨大な鎌を滅茶苦茶に振り回しながらネロが迫ってきている。
「ば、化け物……」
イツキは自分の発言に驚愕した。どうして友達にこんな言葉を言えるのか。
けれどその言葉はこの場の誰もが納得できるほど、今のネロは化け物じみていた。
観客席からは悲鳴が響く。燃え盛る体でネロが歩く様子を、見ていられないのだ。
「ゴリアック!! 秘術を!」
ナミエが叫ぶ。これ以上試合を続けようものならネロの命にも関わる。
だが同時にネロが走り出す、その次に校長がマイクを取った。
「試合、試合終りょ……」
茫然と経ったままのイツキに、轟然とネロが鎌を振りかぶり駆けぬけた。
「ギブギブギブギブ!! ごめんなさい私の負けですっ!!」
イツキがしりもちをつくように倒れ、両手で頭を防ぎ目を閉じる。
「…………」
ネロはそのまま鎌をゆっくりと降ろした。
そしてゴリアックが間に入り、秘術の指輪をネロに嵌める。
焦げた肉体から瞬く間に白に近い血色の良いネロの顔が現れる。だがその目には滂沱の涙が流れていた。
「……うぅ」
「お前スゴイな! 俺と勝負しろ!!」
ネロの呻きとゴリアックの笑顔の勧誘がある中、校長が改めて言う。
「し、試合終了。勝者、コルネロ・プラム」
イツキの判定勝ちは覆り、ネロの二回戦進出が決定した。
Bブロックの一回戦。
リース・ジョンとイリーナ・サンディの戦い。
イリーナは自由自在に念動で操る事ができる短刀を複数出す事ができるのだが。
試合開始より数分と経たず、銀装でそれを弾き、あっという間に失神させて勝利を得た。
リースの実力は周りを群抜いているのは違いない。特に最近は強くなってきた。
「次に楽しみなのは、ネロとエレノンの戦いでしょう」
自分が勝ったことは何も言わずにリースは父に報告する。
それにシズヤは何かいおうとしたが、ますます火種を作る気がしてやめた。
だが、ハッケイが情けない顔をする。
「ネロとは、さっきの燃えてた娘か。正直おっかないな」
「そうは言ってもネロは武人としての兆しを見せています。もっと訓練を続ければきっとネロも……」
言葉の途中でハッケイがそれを否定する。
「ないな。彼女は武人というよりも……ふむ、聖女とでも言おうか。自分を犠牲にしてまで周りを救おうという気概が見える」
「ネロが聖女、ですか? それはなんと申しましょうか……ううむ、ネロが聖女……」
リースがううんと唸るが、うまく言葉を出せない。
付和雷同で優柔不断のネロが聖女とは、イメージが上手く繋がらない。
それに、先ほどの燃えながらも獲物を狙い襲い掛かるネロは、聖女というよりも幽鬼である。一体、ハッケイは何を思ってそのようなことを言っているのか。
「かっかっか! 理解できないのは、主が未熟だからだ、我が娘。いや、主が完全な武人になりつつあるからか……」
ハッケイが唸るも、それを無視してシズヤがリースの腕を掴む。
「それよりも、意外な結果だよね、一回戦。てっきりイツキちゃんが勝つと思ったのに」
リースは顔を赤くしながら返事をする。
「いやまあ、ネロもしっかり訓練したからな。それに、イツキの降参は戦いとは別のところにある様子だった」
あれはイツキがビビッて降参と言ったまで、殺しあいならばよくて相打ち、恐らくはイツキの勝利だっただろう。
「ふぅん、確かにね。でさ、Bブロックはリースの優勝だとして、Aブロックは誰が勝つと思う?」
十六人のブロックが一回戦が終わり現在八人、次にネロとエレノンが戦う他、六人が戦う。
普段から面倒くさそうながら戦いを眺めているリースだが、今回はコメントを控えた。
「ネロとエレノンが目立つが、他の者も遥かに実力をつけてきた者がいる。本当に、誰が勝つかは分からんな。だが」
リースはシズヤの瞳を見つめていった。
「主に辿り着くのは、私だ」
優勝宣言に、シズヤは微笑をもって答えた。




