表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/148

大会編12・エレノンVSカナタ

 クラス別最強決定戦。

 一学年毎のクラス数は二か三ずつ、三の場合では体育館に一クラス、グラウンドに二クラスの戦いがあり、初日は一年生のみの戦いとなる。

 この日、上級生には帰る人もいるが、これは許されている。尤も、見学の方が遥かに多いが。

 天才児シズヤ・クロスフィールドや、エキシビジョンでかつて最強だったというシズヤの姉を捨て身で倒したリース・ジョン、実力を伸ばしたエレノン・バルタルタなどが注目の的であるが、他にも色々な候補がある。

 ゴリアックとの壮絶な追いかけっこを果たしたサドシマ・イツキも名前だけなら大したものである。

 ボウガン部の期待の新人であり長い休養期間から復活したカナタ・シューラ、別クラスで最強であったシキ・クラシマとピカリ・レビテント、新たな技術を手に入れた大盾部のホープ、キャノ・ガーバンクルなどが話題の中心になっている。

 シキとピカリ以外はリース達と同じクラスなので、ますます一組だけは注目を集めてしまうが、選手にとっては良い効果をもたらす。

 特にリースは目立てば燃える性格。

「父上、我が雄姿を見てください。必ずや勝利を持ち帰ってみせます」

「うむ、期待している」

 ナンパした挙句、ぼっこぼこどころか生死の境を彷徨ったハッケイは、まるでそれを気にすることなくリースに偉そうに振舞う。この胡散臭い爺、という風にイツキやシズヤはハッケイを睨む。

「シズヤ、イツキ、私はどこで待っていればいい?」

「体育館の観客席。さっきみたいなのでいいんだよ?」

 シズヤが言うと、その隣のハッケイが目を見開いてシズヤの胸を見つめる。

「ほほう……この娘がリースのお友達か? 失敬、お名前は? 出身は? 強い?」

 エキシビジョンで出ていたのに、この爺はいけしゃあしゃあと。シズヤとイツキはゴミを見るような目でハッケイを見る。

 が、ハッケイはその視線に戸惑いながら。

「そ、そのような目を……まあ悪くない」

 という。

 ハッケイの言葉にシズヤとイツキはうげっと顔を反らしたりするが、リースは全く気にしない。

「では、父上も近くで待っていてください。私がどれだけ上達したかを見せて、シズヤに勝つ姿を見せましょうぞ!!」

 リースは固く拳を握り決意を示すが、ハッケイはあまり気にしていない様子である。

「シズヤ、それがこの娘か? ほうほうシズヤか、いい名前だ。それに強いとも見える。どうかリースの母になってはくれないか? この子は昔から男手一つで育てられ、母の愛を受けられずに……」

 必死のハッケイに敵意を向けた目で、シズヤはリースを抱き抱える。

「愛は私だけが与えます、あなたは要りません」

 真正面からの言葉にハッケイは言葉を失くす。隣のイツキも。

「シズヤ、そんな恥ずかしいことを言うな。それと、そんなにくっつかれると……胸が高鳴る」

 頬を染めて恥ずかしそうに言うリースに、ハッケイもイツキも言葉をなくしたまま目が開く。

 最後にシズヤがリースの頬に口付けをして、二人は目を剥かんばかりに見開いた。

「おい、そんなこと……」

「えへへ、別にいいでしょ?」

 仲良さそうに隣同士座るシズヤとリースを見て、最後にハッケイは呟いた。

「……眼鏡のお嬢さん、あれは一体……どういうことだ?」

 格闘の大陸にそういう文化はない。良妻賢母よりも恐妻(きょうさい)強母(きょうぼ)が好まれている。そんな言葉は存在しないが、そういう次元の話。

「……私もあれほど二人が進展しているとは、思わなかったんです」

 ハッケイは驚き、イツキもは驚きとほんの少しの悲しみの中、結局二人には何もいえなかった。



 体育館の裏側でネロがエレノンを呼び出していた。

「よく来たですね!」

 ぷんすか怒っている様子のネロに対し、エレノンの瞳はますます冷たさを帯びていて、対照的な絵になっている。

「……私も、話があった」

 それを聞いてネロの怒りは頂点を迎えたらしく、がなり立てる。

「だーまらっしゃいです!! エレノンは強くなるとか守るとか言ってずっと最近いなかったですけど、そんなの迷惑です!! エレノンは命を守る前に私の生活を守ってください! 例え生きてたって、私は、私は、エレノンがいない時点で、その……」

 最初は続いた言葉もだんだん緩慢になっていき、声も小さくなっていき、最後は独り言のようになってしまった。

「エレノンがいないと、駄目なんですよ……」

 そのエレノンはネロの顔から目をそらすように、下を向いて言った。

「……それでも、私は、みんなを守るためには、こうする」

「笑顔を! 私の笑顔を返してくださいよ!!」

 エレノンは答えず、後ろを向いて歩く。

「エレノン! エレノン!!」

 ネロの叫びに返事はなかった。

 泣きそうになるのをこらえて、逃げ出しそうになるのをこらえて、エレノンは震える拳をぎゅっと握った。

「エレノンのバーカバーカ!! 私がエレノンを倒して、私が正しいって証明してやりますからねっ!!」

 最後にうぎゃあああああ、と狂乱したように叫び、ネロは自分の跳ねたようなふわふわの金毛を掻き毟って、どこともなく走り出した。




 体育館では生徒達が戦い始めるが、リースの後ろについたハッケイが呟く。

「……下らんな。茶番と言っても良い、先ほどの戦いとの落差が大きすぎる」

 周りからのじっとりした視線を全く気にしない様子でハッケイが言うと、シズヤに肩を抱かれたリースが言う。

「彼女達は、戦士である前に若き乙女なのです。残念ながら、錬度を求めるのが間違いかと」

「ふむ、それならばゴリアック殿やシズヤ殿はいかにしてそれほど強く?」

「それは、ゴリアック殿らは真の武人であるから、と言えるでしょう」

 珍しいリースの敬語を聞きながら、シズヤはのんびりと試合を見ている。

 自分なら二人とも殺すのに一秒とかからない、などと考えながらであるが、リースと二人、隣同士ということに至福を感じている。

 シズヤの出番は夕方までない。最強でシード権のある彼女はリースやイツキの戦いを見て、どれくらい強くなったかを確認するくらいしかすることがないのだ。



 他愛もない会話と人の出入りがあったが、試合はつつがなく進行していく。

 けれどカナタ・シューラは試合に出るか否かを悩んでいる。

 なにせ、一回戦から相手はエレノンその人。

 エレノンを愛しお守りする会、通称『エレノン会』を立ち上げたメンバーの一人である自分がエレノンと戦うなど……。

 そもそもアリスにかどわかされてエレノンに攻撃したことすらまだ罪悪感が強く残っているというのに、まともに戦えるのだろうか!

 迷うカナタの背中を押したのはエレノンであった。

「……カナタ、へっぽこが調子に乗らないで」

「エ、エレノン?」

 へっぽこ、とは自分のこと? と目を丸くするカナタをエレノンは睨む。

「私より弱い人が、私を守るなんて、お笑い種」

 それだけ言うと、返事を待たずにエレノンは武道場へ赴く。

 その勇ましき姿を見て、カナタは舌を出した。

 エレノンを愛しお守りする会会員ナンバー三、カナタ・シューラは今決意した。

 場所はマットが敷き詰められた体育館の武道場。

 カナタとエレノンが今向かい合い、試合開始の激がなった。

「いっくよ、エレノン!」

 カナタの両腕にそれぞれクロスボウガンが出現した。

 自動装填、自動照準、自動発射、全てを自動――自分の意思どおり自由自在に動かすことができるボウガンである。

 ただそれだけでは普通のボウガンを上手に使えるというレベル、最近ではそれに様々な付加を加えることもできる。

 共に秘術を出したが、仕掛けたのはカナタ、両腕のボウガンの弦がしなる。

 ボウガンから矢がエレノンに向かって無数に飛ぶが、それは球の一つが盾となり弾いた。

「……ただの矢なんて、効かない」

 他の浮いた球が槍へと形を変え、カナタに向かって飛ぶ。

 撃ち落そうとカナタは何発か矢を撃つが無意味、結局カナタはそれを横に避けた。

(強いけど、真っ直ぐしか飛ばない、ちょろい!)

 カナタは走りエレノンとの距離を詰める。

 秘術ではエレノンの方が優れているが、身体能力は圧倒的にカナタの方が優れている。問題はそれで力の差が出るかどうか。

 カナタが発射した矢は全てエレノンの球の盾で防がれるが、盾が防げる量にも限界がある。エレノンの能力をもってしては、精々があと十発。両手から間断なく発射される矢のことを考えれば、あまり頼れない。

 カナタの矢に際限はないのだ、不利なのはエレノンに間違いない。

 だが、仕掛けたのはカナタ、矢ではむしろ不利なほどに距離を詰めた。

 エレノンは最後の球をロッドにして待ち構える、カナタは両手を前に向けて矢を射出する姿勢になる。

 浮遊する盾と叩くロッドならば倒せる、対するカナタはそう思い矢をしゃにむに撃ち続ける。

 カナタの考えでは、盾を突撃と同時に矢で打ち壊しす。

 そうすれば、エレノンはロッドでは大したことはできないだろうから、そのまま押し倒してボウガンを頭にくっつけ、降参を請う、というもの。無論、片腕は後ろに向け先ほどの槍にも対策をしておく。

 カナタの予想外は、盾が壊れる前にエレノンがロッドを振りかぶったことだ。

 エレノンの前には矢を受け弱った盾しかない、何をするのか、自然とカナタは両手を頭の前でクロスさせ防御姿勢をとった。

 剣道の面のように、思い切り振り下ろされたロッド、自分の盾を壊すような一撃は、しかし前の盾を壊さず、むしろそれと合体した。

 振り下ろされたロッドと壊れかけの盾は交わり、巨大なロッドとなったのだ!

 ……。

 しばらくカナタは防御姿勢でエレノンを見守ったが、エレノンがそれを重そうにふらつきつつ構えなおしたのを見て、笑った。

「エ~レ~ノ~ン~、何をするかと思ったら、武器を強化して意味ある? うふっ、それじゃ私を倒せないんじゃないの?」

 煽る! 愛しい相手であり罪悪感もあるが、カナタにとってエレノンはとても可愛い女の子でもあるのだ!

 言いながらカナタは後ろに迫っていた槍を数発の矢で撃ち落した。エレノンの舌打ちが聞こえる。

「さ、て、と。これで私は遠くからエレノンを狙い撃ちにすればいいわ、け、だけど! それじゃエレノン、降参はしなさそうだよねー!」

 エレノンは表情を変えず、強化ロッドを構えるのみ。

 カナタの言う通り、カナタが距離をとりながら矢を打ち続ければ、いずれは強化ロッドも破壊され、エレノンは何もできずに負けてしまう。

 それに気付いたのか、エレノンも生唾を飲んだが、一つアイデアが浮かんだ。

 エレノンの秘術は動き、形を変える三つの球、浮遊も自由である。

 球を合体して強化することは考えていたが、それを動かす方法は考えていなかった。

 だが、合体させても自由に動かすことができるのではないだろうか。

 ヤバイなー、ますますトレーニングとかしなくなるなー、などと心の中で戯れて、エレノンはカナタを見据え、試した。

 エレノンはロッドに跨るように足に挟み、姿勢を低くする。

 その前にはロッドの装甲を一部剥がし、盾のように自分の前に出す。

 カナタは笑う。

「あっはっは! 魔女の真似事?」

 笑うも、エレノンの目を、その真剣な眼差しを見て表情を消した。

「させない!」

 カナタのボウガンが乱射されると同時に、エレノンのロッドが飛んだ。

 回転しながら飛ぶ、エレノンはロッドに必死に捕まり、前も何も見られないがとにかく突進した。

 びしびしと矢が当たる音を耳にしつつエレノンは薄く目を開く。カナタとの距離がどんどん縮む。

 カナタが横に避けたのを確認すると、エレノンは意志でUターンしてカナタをまた視野に捉えた。

 このまま堂々巡りでは、結局カナタの矢がエレノンを捉えるのも時間の問題である。回転による吐き気をこらえつつ、エレノンはこの強化ロッド本来の使い方を試みた。

 二人の距離が近づいた瞬間、ロッドの先端、装飾のような球体がロッドの倍ほどの速さ射出されたようにはじけ飛んだ。

 元が二つの球で出来たロッド、ならば分離も可能!

 回転している球体はカナタに直撃し、脇腹に抉りこんだ。

 踏ん張る足が徐々に伸び、少しだけカナタの体が浮いた。

 それほどの衝撃、カナタは悲鳴こそ出さなかったものの、苦痛に歪んだ表情は敗北の色を示していた。

 どさっとマットの上に倒れ、カナタは呟く。

「……んぎ、ギブ」

 エレノンは一回戦に勝利を刻む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ