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大会編9・大会前日

 塔の魔女ノーベルが本日も会議を開く。

「会話練習中の魔女が一人!」

「お、お」

「会話ができない魔女が二人!」

 前回はトウルの大塔だったが、今回は通信機越しの会議だ。

ノーベルの通信機には、ジーとキルからの音声が来ないようにしている。一応聞きはしているらしいからこちらからの音声は送っているが、ノーベルにとって二人の奇声は本当にウザイだけである。

 スノウの音声を切っていないのは、スノウが会話練習中であり、間抜けだが以外と真面目で可愛らしいからである。魔女として一番年が近い先輩でもあるし。

「最後に会話の意味がない魔女が一人!」

「最後に、って付くと燃えるぜっ!」

 バニラは音声はあるが映像がない。正直いちいち親指を立てたり歯を見せて笑う姿を見ると苛立ちが抑えられないからだ。しかし無視をするのも都合が悪いため、このようにしている。

「というわけで、一応は五人の会議を始めます」

 ノーベルが言うと、早速場を仕切る『大塔の魔女』トウルが発言する。

「以前、街に侵攻するという話があったが、それはどうなった?」

 それにはスノウが声ともつかない声で答える。

「わた、私、私」

「この通り、スノウが会話を学んで斥候してから、という計画です」

「でもぉ、それって意味あるのぉ? どうせなら、私達全員でぼっこぼこにしちゃえばいいんじゃなぁい?」

 ヴィーが自分のネイルに集中しながらであるが、的確な意見を出す。

 確かに敵は多くの力をつけているが、魔女が七人揃えば怖いものはない。地区一つずつ襲えば負けることはないだろう。

 だが、とノーベルは逆接の接続詞を繋げた。

「敵がどのように能力を得たのか、どのような力があるのかを確認したい。滅ぼすのはその後です」

「そんなのぉ、知る必要あるぅ? もう力なんて充分じゃなーい」

 ヴィーはカメラではなく、地面に置いた鏡でも見ているのだろう。だが意見はちゃんとしている。ノーベルはそのことに少し嬉しくなりながら言う。

「いえ、誰が我々と敵対しているかを知る必要があります。人間なら皆殺せばよいのですが、もし魔族から力を得ているなら、それらも倒した方がよろしいかと」

 これにはトウルも意見を出した。

「確かに。我々は人間は殺すが魔族と争う必要まではない。かといって味方でもない。敵対するものはきっちり倒し、敵対しないものとの区別が必要になる」

「そう、だからこその調査です。それを面が割れていないだろうスノウにしてもらいます」

「は、い」

 スノウが返事をして、ノーベルは頬を緩ませる。

「この戦争目前って感じ……燃えるぜっ! あと、舌っ足らずなスノウは激萌え」

「それは、私も思います。真面目なスノウを見ていると心が癒されるというか……」

 滅多にないごく普通の会話にノーベルの頬は緩むが、すぐに恐れに変わる。

「映像見てないのにシンパシーを得るっ! このシンパシーは燃える!!」

 一瞬、ノーベルの心臓が締まる。高位の魔女に対し失礼なことをしているのが、あっさりバレていたのだ。

「戸惑っているのか? おお、ノーベルも意外に萌えるじゃないか……」

 今、バニラはどのような表情をしているのだろうか、どうやって知ったのだろうか、最下位のノーベルには何も分からない。

「それはっ! そのっ!!」

「ああ、良い良い、私はいんだよ、私は。ただなぁ、キルとジーの面倒は見切れないぞ?」

 音量が出ないキルとジー、映像からは完全に目を離していた。

 見れば、双子の赤のキルはじっとこちらを睨み黙っているが、ジーはこちらを見て狂乱の騒ぎ。

 急ぎ音量を点けてみると、ジーの叫び声が響いた。

「狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え狂え……」

「うわああああああああああああああっ!!」

「ちょっとぉ、うるさいんだけどぉ?」

 ジーの狂声にノーベルの叫び声、そしてヴィーの間延びした声が広がった。

「ノーベル、君が音声や映像をどうしようと、実際に何かしようという者はいない。好感度は下がるがね。冷静に会議を続けるために、音声や映像を切るのは君の自由だ」

 恐怖からか、指示されたからか、ノーベルは言われた通り、双子の音声を再び止めようとした。

 最後の瞬間。

「……殺す」

 というキルの声に、ノーベルはまた叫び声を上げるハメになった。

「うるさいって言ってるでしょぉ!? もう、ビビリねぇ」

「あっはっは! 萌えるじゃないか、真面目で賢いけどちょっと間抜けな後輩って、やば萌え」

 恐る恐る、知的好奇心からノーベルはバニラの映像も点けてみた。

 映像に映ったバニラは、何故か野球のユニフォームを着てバットを振り回していた。

「お、見たな!? 恥ずかしくて顔が燃えそうだ! つってな、これ最近ハマってるんだ。でも魔女ってここには七人しかいないからチーム組めないし、そもそも相手がいないんだよな、全く困ったもんだ。でも七人で戦うって展開もかなり燃える……」

 ノーベルはバニラの映像を安心して切って、改めて他三人の魔女に対面する。

「では他に意見はありませんか!?」

「意見も何も、まあ君が大きな問題を作っていたわけだが」

 トウルの言葉がぐさっと刺さる。

「あ、一ついいかしらぁん? ベルちゃん」

「ベルちゃん!?」

 素っ頓狂な声を上げるノーベルに、ヴィーは改めて言う。

「ノーベルだからベルちゃんでいいでしょぉ? 私のが高位なんだしぃ。それよりぃ、森に入るやつって、二人一組なのよん。だからぁ、スノウと一緒に、あなたもついていってあげてぇん?」

「な、なんで私が?」

 ノーベルが問うと、ヴィーは笑いながら言う。

「あんたらが最下位だからに決まってんじゃん! じゃ、頼んだわよー」

「そんな無茶苦茶な……」

 ノーベルが茫然と言うも、尊敬すべきトウル先輩はその意見に賛同した。

「私もノーベルが適任だと思う。既にスノウ以外は全員奴らに姿を確認されている。その中でも真面目に任務をこなせるのは恐らく君だけだ。何より、私はこの塔を離れるわけにはいかないしね」

 言われてその通りだとは思う。だがノーベルの戦闘能力では一人で行くのはかなり危険。

「あ、そうだ! ヴィーさんの魔法なら、姿かたちなんて……」

 ノーベルがひらめくも、それにはヴィーが強く反駁した。

「嫌よ! 醜い姿になれなんて真っ平ごめんだわ! そんなことならアンタを今から殺しに行っても……」

「ヴィー、誰もそんなことは言っていない。落ち着け、君はそこでじっとしていればいいんだ」

 なんとかヴィーを諌めると、映像のトウルは一心にカメラを見つめているらしい。

 それが自分に期待の眼差しをしていることくらいノーベルには理解できた。

「分かりました分かりましたよ! それじゃ、スノウ。いつでもこの塔に来てください」

「お、う」

 かはーっ、萌える、というバニラの声を聞かずして、ノーベルはその会議を終えた。



 リース達は、皆が各々疲れている中、それでも五人で食事を取る。

 中でも特徴的なのは、普段話題を用意するイツキが黙ったままであるうえ、食事も進んでいないことである。

「だ、だいじょぶですか?」

 リースはいつも通り食事を終えて腕を組んで待つ。

 だがエレノンは淡々と無表情で食事を進め、シズヤも若干悲しげな表情で食事を進めるのみ。普段通りなのはリースとネロのみ、特に会話できるのはネロのみであった。

「ごめん、大丈夫じゃないわ……」

 ふーっ、と疲れた風にイツキは息を吐く。その後も自分のお弁当を見つめていた。

「り、リースさんもイツキさんを励まして下さいよ」

 こしょこしょと耳元でネロが言うと、ふんふんとリースが頷き、言った。

「イツキ、よくわからんが元気出せ!」

「あんたって本当に、馬鹿よねぇ……」

 そしてイツキは、また溜息を吐いた。

 エレノンが食事を終えると、弁当箱をしまった。

「……私は、皆より強くなる」

 それだけ呟くと、荷物を持って教室から出て行こうとした。

「ちょ、エレノン! どこに行くですか!?」

「……修行」

 ネロも思わず立ち上がり止める。

「駄目ですよ、ちゃんと午後の授業も受けないと!」

 だがエレノンはすぐに振り返ると、精一杯背伸びして精一杯腕を伸ばして、ネロの頬を掴む。

「……私は、ネロも守れるようになる」

「え、エレノン……」

 ぷるぷる足から震えているエレノンはちょっと滑稽だが、ネロはぽうっとしている。

 そのままネロを置いていくと、エレノンは学校から去ってしまった。

「……あーっ! 良いわねぇ、エレノンとネロはアツアツで!」

 疲れていた様子のイツキがやけになったように大きな声を出す。

「べっべつに、アツアツとかそんなんじゃないですけど!?」

 ネロは顔を真っ赤にしながら席に着く。

 何かを観察していたようにリースはふむふむ言うと、珍しく自分から声を出した。

「なにやら、皆悩みがあるようだな。どれ、イツキからまず言ってみろ」

 げっそりした目でリースを見た後、イツキは言ってみる。

「見たでしょ、昨日のゴリアックのあれ。もう一生分……っていうか、何度も死んだから。思い出すだけで、うぷっ、吐きそうで、食事はちょっと、無理」

「昨日から何も食べてないのか?」

「昨日は食欲すら湧かなかったわ。今はお腹減ってる感じだけど、無理ね」

 リースはしばらく考える。シズヤは何か悩んでいるらしく箸も止まっている。

「飲み物ならどうだ? それすら飲めないか?」

 言われてイツキは考える。

「それなら大丈夫だと思う。っていうか実際飲んだし」

「だったら、食べ物をよくかんで液体にすればよい」

「おおっ、さすがリースさん!」

 とリースが満足に鼻を鳴らし、ネロがそれを讃えるが、イツキがジトッと睨む。

「それができたら苦労しないでしょうが。できないから吐くの。馬鹿、馬鹿リース馬鹿馬鹿」

「なんだと!?」

 リースが思わず立ちあがろうというほど怒ったが、今のイツキはかのゴリアックのしごきで疲れている、それを察して大人の対応をしてあげることにした。

「そうだな……ではイツキの弁当を液体にしてやればよい。そういう秘術はないのか?」

「フードプロフェッサーなんて誰が用意するのよ! はぁ、もういいわ」

 とイツキが弁当をしまおうとするのを、リースが止めた。

「任せろ、私の拳ですりつぶす以外の合理的な方法を発見した」

「さっすがリースさん! どんなですか!?」

 少しでも盛り上げようとするネロの努力は本当に涙ぐましい。

「まず私がイツキの弁当を口に入れて噛む。それをイツキに食べさせよう」

「うわぁ、リースさんって一周回って天才ですよ!!」

 涙ぐましいネロの言葉をもってしても、シズヤとイツキは動揺した。

「どっ、どこが天才なの!? そ、そんなの食べられるわけないじゃない!?」

「り、リース、私、私そんなの駄目だと思う!!」

 二人からの猛反論に、リースは素直にしょぼくれた。

「そうか? ……良い考えだと思ったのだが」

「そうですよね、口移しくらい当然ですよ、ふふ、ふふふ……」

 常軌を逸した雰囲気のネロに、イツキが気をかける。

「ちょ、ちょっとネロ、大丈夫? 一体どうしたの?」

 シズヤもネロを見る目が変わる、けれどネロは決して何も変わっていない。

「皆さんが大丈夫か心配ですよ。エレノンも部屋でも無愛想ですし、イツキさんは静かだし、シズヤさんは笑ってないですし……なんだか怖いです」

 言われた二人は顔を暗く俯かせる。だがイツキは明るい表情を努めて言った。

「まあ、昨日のことさえ忘れられれば大丈夫だから! ただ、それまで待って……」

 本当に辛かったのだろう、ネロは悲しげな表情で頷いた。

 一方、なにやら茫然としているシズヤが自分の悩みを話し始める。

「実はね、リース、聞いてほしいことがあるの」

 シズヤが物憂げな表情でリースを見つめる。

 リースは胸の鼓動が早くなることに気付かず、いつものように聞き返す。

「なんだ?」

「実はね、昨日、ブシンっていう三年生と、卒業生だったお姉ちゃんと戦ったの。それで、攻撃を受けるわ、お姉ちゃんには負けるわ、もう散々。特に、お姉ちゃんは元々私より、その、はっきり言うとね? ……格下だと思ってたの、なのに、負けちゃって……」

 涙目で鼻をすする姿はまさしく乙女だが、言っている内容が内容なのでイツキは呆れている。

 だがリースが驚くのは、シズヤすら倒すというその二人である。

「シズヤの姉上はそれほど強いのか!? シズヤを倒すなど……」

「ああ、いやいや、本気の殺し合いだったら絶対負けないよ? でも、条件とかハンデとかつけてたら……」

「それはそのせいではないのか? 自分の方が強いのならば、それでよいではないか」

 リースが諭すも、シズヤはわがままを言うように叫ぶ。

「やだーっ! お姉ちゃんに劣等感を与えておくのが気持ちよかったのに……」

「シズヤって、本当に良い性格してるわ……」

「私、怖いです……」

 二人は完全に呆れて言葉もなくしたが、リースだけは真剣に考える。

「なら、別の手段でもう一度屈服させればよい。シズヤの武力をもってすれば、それくらい簡単だろう」

 シズヤ、天啓得たり。

「そうだね! ありがとう、リースっ!」

 ぱぁっと輝くような、いつものシズヤの笑顔。

 リースは胸がきゅうっと締まる感覚を得た。



「先生、今日はどうしたんですか?」

 職員室でレンがナミエに訊ねる。というのも、ナミエが胸に薔薇の花を挿しているのだ。

「まあこんなもの必要ないと思うが、客が来るというので念のためな」

 目印のためであるが、あまりに似つかわしくない。

 そんなたわいのない話をしながら来賓室に向かうと、もうその客は来ているようだった。

「レン、君は待っていてくれてもいいんだが」

「お、先生いんのかー、早くしてくれー」

 と、すっかり聞きなれた犬の魔族の声がした。

 アリス、コントン、ギラ、ジョーカーの四人がそれぞれ来賓室で思い思いにくつろいでいる。

 アリスは黒革のソファを一人で占有し、その向かい側の黒革のソファをコントンが占有、アリスの後ろにギラが、その隣にジョーカーが蠢いている。

 ナミエが四人を睨むと、アリスがその目に口で応える。

「へえへえ、俺はちゃんと下座に座っているぜ? 馬鹿なのは向かいのムシだぜ、センセ?」

「誰が馬鹿ですか? 客が座るのは当然のことでしょう?」

 慎みなど当然ない、コントンの言葉はそのように聞こえる。

「申し訳ございません、コントン坊ちゃまは長旅でお疲れですので……」

 ギラは幅を取って座るアリスを疎ましげに見つつ、ナミエに頭を下げる。

「すまない、先生。しかしアリス殿は足が折れたと言っており……」

「いえ、頭をお挙げ下さい。別に長話をするつもりではないですし……今の内に休んでもらえるなら、それで構いません」

 ニヤリ、とナミエは柄にもなく意地悪く笑った。

 話を進めようとしたところで、ナミエの元に最後の客が現れた。

「おお、来て下さいましたか! わざわざ遠い所に、ようこそ来てくださいました」

 現れたのは、柔道着を着た小柄な男だ。

 頭には木のように天へ伸びるちょんまげだけで髪の毛が他になく既に灰色、顔にも皺が入っているが強気な瞳はどこかの誰かを思わせる。

「堅苦しい話はなしにしてくれ、先生、私も長旅で疲れた」

 ぐふぅ、と息を漏らしつつ、男はアリスの横に堂々と座った。

 アリスは疎ましげに見て、口の中からコインを一つ吐いた。

 左手でそれを持つと、即座にナイフにして男に向ける。

「おいアリ……」

 ギラの言葉は途中にして、男はそれを見てか見ずにか、アリスの左腕を掴み捻りあげる。

 その見事な所作は、真後ろにいたギラが何もできなかったほどである。

「いてっ、いててててっ! テメェ爺、何しやがるっ!!」

「何かしたのは主であろう? その鋭い逸物、私に押し当ててなにする気だ?」

 残った右手であごひげをなぞりつつ、男は笑う。

「にしても先生、大陸には奇怪な人間が多いものだ。毛を剃らんと人間はこうにまでなるものか……」

「ハッケイ殿、この者はアリスといいまして、人間ではございません」

 ナミエが呆れた風に言うと、ハッケイは驚いた顔をする。

「ほほう! となると、この黒甲冑も黒揺らめきも人間ではないと言うか!?」

「……ハッケイ殿、人間はあなたの大陸のものと全く同じですよ」

「だから、敬語は必要ないと言っているだろうに」

 その間、ずっと捻りあげられた左腕、アリスは叫び声と共に密かにコインをもう一つ口から出し、自由な右手で拾う。

 ギラはこのハッケイという男の実力を見るべく黙り、ナミエもそれに習う。

「あっ、おじいさん!」

 とレンだけが言うが、ハッケイは見向きもしない。

「ふふ、若いのは血気盛んで羨ましい」

 アリスの右手のナイフがハッケイの首筋に当てられると同時に、アリスの左腕が思い切りギラ側に引っ張られ姿勢を崩す。

 右手のナイフをどうにか当てようとアリスはソファの後ろに倒れる途中にそれを振り回すが、虚空とソファを切り裂くのみ。

 仰向けに倒れたアリスの顔面をハッケイはゆっくり踏んで、そのままにした。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 まるで魔獣の断末魔のように、アリスの咆哮が響く。

「はは、船の旅が思いの他長くてな。風呂に入れなんだ。靴なんて洒落たものも履いたために、蒸れに蒸れてな」

 ハッケイが足を放すと、アリスは滂沱の涙を流しながら鼻を抑えた。

「……見事、ハッケイ殿といいましたね、一体どうしてここへ?」

 ギラが訊ねるとハッケイはナミエを見る。説明してもいいのか、と目で訊ねたが、その役をナミエがおおせつかった。

「この人はハッケイ・ジョンズ。格闘の大陸で師範をしている格闘のプロだ。ここにいる理由は、皆と同じように、次の大会のエキシビジョンマッチをしてもらおうと思ってな」

「エキシビジョン?」

 レンが聴くと、ナミエが一から説明を始める。

「せっかく際物が揃ったわけだ、ここで生徒の役に立ってもらいたい」

 ナミエの言葉に、コントンが反論する。

「すいません、私はそのようなつもりはないので、断らせていただきたい」

 だが、ナミエはコントンのことも織り込み済みらしく、とっておきの言葉をぶつける。

「ゴリアックに、復讐したくはないか?」

 コントンの鎧のような顔に表情はない、だが反論がないことにナミエは気をよくした。

「すみません、私も生憎ですが、戦闘はあまり……」

 とジョーカーの言葉を聞き、ナミエは素直に頷く。

「構いません。あなたがここに来たこと自体が想定外ですので、是非見学だけでもして行ってください」

 ナミエもジョーカーの並々ならぬ存在感を感じてはいるものの、ここで無理に戦わせるのは、むしろ生徒を傷つけかねない。

 と、ここでレンが大きな声を出した。

「まさか先生、私もですか!?」

 ナミエは当然のように頷く。

「既にエントリーしているよ? それにシズヤもブシンも君との戦いを望んでいるらしい」

 レンは姉より怖い妹を思い出し苦い顔をしたが、断ることはなかった。

 そこで倒れていたアリスが立ち上がる。

「ちょーっとまっち! ハッケイ・ジョンズ、ジョンズって言うと! その話し方! そして戦いのセンス! まさか、まさか、まさか先生そういうことなのか!?」

 まだ右手で鼻を抑えているものの、アリスの目に涙はなく、驚きの色のみ。

「アリス殿は、会社にジョンズとつけたほどだからな」

 そう言われハッケイがアリスを目ざとく見ると、アリスは目を輝かせて名刺を渡す。

「私、アリス・スクラム・リーンエッジと申します。ジョンズ貿易株式会社代表取締役をしていて、まあ卑屈な商人のようなものですよ。はは、ところで、お孫さんは?」

 急な手の平返しに驚きつつも、ハッケイは握手と笑顔をアリスに返した。

「リースは私の娘だ。何があったかは知らんが、卑屈な商人は言い過ぎだろう」

 手を放し、ハッケイは穏やかな笑みをたたえて言う。

「私が手を捻りあげても、君は一切武器を落とさなかった。性格に難ありだが、武人として最低限の心得はあるようだ。私は君を尊敬するよ、アリス」

「へえへえ、しかし格闘家にしてはなかなかの魔力……、魔術師もできるのでは?」

「一意専心、才能とは無闇に伸ばそうとするものではないさ」

 感激、といった様子のアリスを差し置いて、ナミエが手を叩いた。

「では、エキシビジョンの段取りを説明させていただく」


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