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大会編3・それぞれの休日

「一体、何してるんでしょうね、シズヤさんとリースさん」

 リースの家にシズヤが泊まっているこの時間、ネロは、イツキに誘われて居酒屋に来ている。なお、エレノンはその誘いを断ったのでネロとイツキのコンビだ。

 ちなみにこの大陸では十五歳になれば飲酒が許可されている。その代わりと言うわけでもないが、煙草は三十歳になってからしか許可されない。

「別にあの二人が何してようと気にしないけど、シズヤって最近リース好き好きオーラ出してるから心配なのよね。そもそも泊まるって話も、言い出したのはシズヤが最初なのに、言い出せなくてやっと言えたって言うんだから」

 カウンター席でグラスを揺らし、イツキは大人びた雰囲気で酒の匂いを楽しんでいる。

 イツキから見てシズヤという人間は、億手に見えてかなり我侭(わがまま)で自分勝手、思い通りに行かないとイライラする人間なのだ。

 だけどことリースに関しては、普通に億手で、自分を抑えて、最近ではボーっと熱っぽい瞳でリースを見つめていたりする。

「えええっ!? シズヤさんってリースさんのことが好きなんですか!? ぜ、全然気付かなかったです……」

 ネロは思わずオレンジジュースを零さんばかりの勢いで言う。

 が、イツキは大人の対応で軽くカクテルをあおりながら言葉を返す。

「あんなの、誰だって気付くわよ。たぶんエレノンも知ってる。ネロとリースくらいじゃない? 気付いてなかったの」

 思わず、ネロは両手でコップを握り、オレンジの水面を見つめる。

「そ、そんな、ちょっとショックです。先を越されるかも、なんて……」

「ネロは早くエレノに告白したら? あの子、結構人気あるよ?」

 イツキが流し目でネロの顔を確認すると、案の定真っ赤になっていた。

「べっべべっべべべ別に! エレノンのことがすす好きとかそそ、そんなわけないじゃないですか!!」

 思い切り置いたコップからオレンジジュースが跳ね返り、ネロの顔を濡らす。

 呆れた風に、イツキもグラスを置いた。

「あのね、あんたここで何十分エレノの話した? バレバレなの。なんなら二人は付き合っているって思っている人までいるんだから」

「そーっ、そーっ、そんなのそんな風に見る人が悪いんですよーっ!!」

 アルコールを一切摂取していないはずのネロの方が顔を赤くしている。本当にバレていないと思っているからこそネロはいまだ隠そうとする。

 イツキは近くからその様子を見続けてきたから、いい加減二人をくっつけたいのだが、出会い方が出会い方故になかなか距離が縮まらないのだろう。

 エレノンからの告白はありえないだろうし、と心の中で付け足しておく。

「ま、まだ会って半年くらいだしね。でも二年になるまでには想い、伝えといた方が良いと思うよ? エレノは結構リースにも惹かれてるしね」

「う」

 ネロは本当に困ったような顔をした。どうやら思うところがあるらしい。

「エレノンはリースさんには本当に懐いています。今まで自分から人に話しかけたことなんてなかったのに、リースさんには積極的に話しかけています」

「そうね、エレノも何を考えているか本当に分からないわ。でもま、リースは確かに良い子よね」

「それは、間違いないです。私もあの真っ直ぐさには惚れ惚れします」

 そして、互いに飲み物を煽る。

「はぁ、ともかく今日は飲みましょう! 飲んで飲んで、飲みまくるわよ!!」

「いや、それは勘弁して欲しいです。イツキさんは飲めば飲むほど危険なので」

 酔うとキス魔、それがイツキが変態と呼ばれた所以である。それを知っているからこそ、その被害に会ったからこそネロは居酒屋に来る事に難色を示し、エレノンは断った。この女は誰彼構わず、口もほっぺも構わず唇をぶつけてくるのである。

「いいじゃない、別に最悪口にチューされたって減るもんじゃなし」

「減りますよ! 乙女のゲージ急下降です!!」

「何でもいいけど、イツキちゃん、前みたいにこの店を鳥もちだらけにするのだけは勘弁な!」

 居酒屋の店主なのにバーテンダーの格好をした女性が注意する。

 エレノンにキスするために鳥もちで拘束したことは、この店が学校に通報したほどの大事件である。この店はイツキに救われたこともあるので、出禁にはならなかったが。

 こうして二人の夜は更けていく。結局ネロは二度と行かない、などと言うことになったが、また誘われたら行くことになるのだ。



 一方、エレノンは寮の部屋で篭りきりになっていた。

 その間、様々なことを考える。イツキからの誘いを断ってよかったのか、ネロはきっと行くんだろう、そしてイツキはどうせ野獣と化すのだろう、リースとシズヤはどうだろうか、最近私も強くなってきたな、ネロも逞しくなったな、リースはもっとすごいな、などなどなど。

 ベッドでごろごろ転がりながら、孤独の中、一人暗澹(あんたん)たる精神で周りの人達のことを考えていた。

 昔は一人過ごすことなど平気だったのに、何故か最近はどうにも一人でいると落ち着かない。いつもネロやリースのことを考えてしまう。

「……これが、恋」

 なーんちゃって、なーんちゃって、と思いながらエレノンはベッドの上をごろごろ転がる。

 そしてはたと天井を見る。落ち着いて澄んだ気持ちになると、思い出すのはやはり友達のことだった。

「……はぁ」

 私も焼が回ったもんだ、などとエレノンは一人戯れているうちに、意識をまどろみに落とした。



「おはよう、シズヤ」

 シズヤがふと気がつくと、傍にはリースが座っていた。

 時間は既に遅いらしく、窓の外から見える空は、日が落ちている。

「今回は私の勝ちなようだな」

 ハッと見れば、シズヤの体からはツタがするすると落ちて下着のみになっている。それでようやくシズヤはどういう状況かを知った。

「そうか、私まで眠っちゃったのか……、リースの方が早起きだった、てこと?」

「いや、違うな。私は眠らなかった」

 自信満々にいうリースが嘘を吐くとは思えないが、それでも追及しないと気が済まない。

「本当に? 結構ガス出るようにしたつもりだけど」

 リースはその言葉を待っていたかのように、嬉しそうに解説を始める。

「私も最強になるべく自身の力を強めるため、銀について詳しくなったのだ。シズヤ、銀とは殺菌効果や魔を討つ効果があるのだろう?」

「まあ、聞いた事くらいはあるけど」

「銀装・総は、体の体表面から内臓の内表面までを銀で覆う! 銀の殺菌でガスも毒も効かん! 私は銀装・総で無敵になったのだ!! これぞ毒に対する銀装・爽快っ!!」

 むふんっ! と強い鼻息、シズヤは脅威を感じるよりも笑ってしまった。

「それは、すごいね! 私も次からは本気を出さないと……」

「そうだな。私はもっと強くなれる。シズヤよ、手抜きを続けてはいつか私に追いつかれるぞ?」

 リースの言葉で初めてシズヤの笑顔が一瞬消えた。それは間違いなくリースの実力を認め、油断ならないと感じたからこそ。

 だが再びシズヤの顔には笑みが戻った。それは新たなライバルに対する期待と、学年最強の名に相応しい実力に裏打ちされた自信からだ。

「私、リースのこと大好きだけど、どうしてかな、いつか殺してしまいそう……」

 翳が差す表情でシズヤは呟いたが、聞かれていることを思い出すと慌てた。

「ちっ、違うの! 今のはなんていうか、武人の気に当てられたというか、なんていうか……」

「構わんさ。私はシズヤがどれだけ強かろうと殺されない。約束しよう」

 リースは全く怯えも怯みもせず、変わらぬ調子で言った。

 それがシズヤを安心させるのだ。

「……そう、だね。私、嬉しいなぁ。リースは可愛くて、格好良くて、面白くて……、うん、失礼だけど欲しいなぁ」

「それはもうやめろ。それにしても、これからどうする? 新たな闘いでも……」

「い、いや、それはもういいよ! ……でも、リースが勝った時のことを考えてなかったね。ああ、お風呂……」

 敗北、加えて賭けにも負けて一緒のお風呂ができない、とシズヤはがっくりと肩を落とす。

「そうだな、風呂にでも入るか。行くぞ、シズヤ」

 リースが当然のように言うのでシズヤの顔がパッと上がる。事実上の告白か、とシズヤは勘繰るも、リースは賭けのことなど忘れていたので自然と言ってしまっただけである。

 この日、シズヤは至福の時間を満喫することになる。

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