生き倒れの
「そんなことがあったんだよ」
「いつも思うけど、なんでこういつも帰り道で思い出すわけ?休み時間とかに言えばいいじゃない」
「だって、忘れちゃんだもん」
学校帰りの放課後。今日もキョーコちゃんと共に帰宅している途中だ。少し雲行きが怪しくて雨が降りそうな天気だ。天気予報も夜から雷が鳴って激しく雨が降るかもしれないから帰宅は早めにということらしいので今日は適当に夜ご飯でも買って帰ろうと思っていた。
「それにしても気になるわね」
「何が?」
「その未來ちゃんが言っていた後悔するよっていう奴よ」
確かに気にはなるけど、別にいいじゃん。お友達同士ならどんなことでも受け入れられる自信はあるよ。今でもこうして彼氏のいる羨ましいキョーコちゃんと何も感じずに歩いてるし。
「ダイジョーウブ」
「陽子。目が怖い」
おかしいな。彼氏のいるキョーコちゃんに解く羨ましいなんて思っていないはずなのに、今一瞬だけ考えただけでキョーコちゃんなんか蒸発すればいいのにと思っちゃった。なんでだろ?
「話を戻すわよ」
「え?揖斐村殺人事件のこと?」
「戻りすぎ!何日前の話よ!」
ちなみに揖斐村はこの長垣市から電車で30分したところにある揖斐町の中にある村らしい。
「あたしが話してるのは揖斐村殺人事件のことじゃなくて未來ちゃんのこと。友達作ると後悔するっておかしくない?見た感じ普通の子じゃない」
「見た目は普通じゃない!見た目は猫だよ!」
「そんなのはどうでもいいから聞いて」
仕方ないから頷く。
「あたしの推測から未來ちゃんと藤崎さんは家に何か人に見られていけないとても大切なものがあるのよ。例えば、人から盗んだものとか、日本で飼っていけない危険な生き物とか。泥棒行為なら猫に悪人の気配を察知されてもおかしくない。危険な生き物だったらその生き物の気配が引っ付いていて猫が逃げたとか考えられるわ。もしかして、大強盗の一味だったりしないかな。高価な美術品を盗んでいたりとかして」
「キョーコちゃん」
「・・・・・何よ?そんな真っ黒な目で?」
「痛々しい」
「う、うるさいわね!」
「そもそも、そんな妄想癖があってよく彼氏がいるよね」
「だから、あんなゴミみたいな彼氏そこらへんにいくらでも落ちてるわよ!」
落ちているもんなのかね~。とたまたま商店街にあったゴミ捨て場の近くに見たことあるものを見つけて足を止める。
「ねぇ、キョーコちゃん」
「何よ?」
「未來ちゃんが家に招待したくないのは大強盗なんかじゃないよ」
「なんで?」
「だって、藤崎さん無職だし、未來ちゃんも古本屋で本も買えないお金がないんだよ。強盗だったらお金くらい持ってるはずだよ」
「確かに」
「それにね」
私が指を指した方をキョーコちゃんも目線を送るとそれを見て頭を抱える。
「陽子にしてはまともなこと言うじゃない」
まともなの?
「確かに強盗ならわざわざパチンコなんかでお金を稼いだりないものね。そうよね?藤崎さん」
ゴミ捨て場の近くにうつぐせに藤崎さんが落ちていた。その姿は痛々しい。
「その声は・・・・・誰だっけ?」
プチリと言う音がキョーコちゃんの方から聞こえた。
「藤崎さん。私です。子安陽子です」
「ああ、子安さん」
ムクリと首だけをこちらに向けて充血した目をしっかり見開いてこちらを凝視してくる。
「陽子、気を付けてこいつ足見てる」
でも、隠しようないよね?だって、スカートでもズボンでも藤崎さんの変態度は下げられないし。
「藤崎さんこんなところで何しているんですか?」
「聞かないでくれ」
そういって再び地面に向かって顔を戻す。
「大体察しはつくわね」
「ここで初めてキョーコちゃんの無駄な推理力が役に立つのか」
「無駄は余分よ」
だって、無駄じゃん。その女の子らしくない思考とか。
「それにこれは推理に入らないわ」
「なんで?」
「目の前にパチンコ屋があるわよ」
「ああ、なるほど」
あまりにも生活が苦しくなってまたパチンコでお金を稼ごうとして見事に撃沈してここで野垂れ死んでいるということなのか。そうなると初めてここで藤崎さんを見かけた時と全く状況が同じなんだ。
「あんたね、いい加減にパチンコで生活しようなんて考えるのはやめなさいよ」
「だって、今日の占い1位だって朝のテレビで」
「陽子。今すぐ未來ちゃんをこいつから引きはがしましょう」
そうしたいけど今まで失敗してるよね。
「というかあんた真っ当に働こうとか考えないわけ?陽子経由で聞いた未來ちゃんの話によるとあんた日雇いの仕事をたまにしかやらないらしいじゃない。まだ、中学生の女の子に生活の心配させるのは大人じゃないわよ」
「そんなこと分かってるよ」
ようやく、立ち上がった藤崎さんは額に着いた砂を払いながら言う。
「俺に真っ当仕事なんかできないんだよ」
「・・・・・・は?何言ってるの?」
「まぁ、人には言えない事情なんだがあまり夜遅くなるとまずいんだよ」
その瞬間的に昨日の何気ないことを思い出す。古本屋にいた時のこと、帰りが遅い未來ちゃんを電話越しからでも分かるくらい怒っていた藤崎さんは普通にも見えたけど何か違う。人には言えない事情で遅くまで残れない理由。
「それって未來ちゃんと何か関係ありますか!」
思わず私が割って入る。
「・・・・・とくには」
「急にどうしたの?」
「・・・・・・いや、何でもないよ」
たぶん私の考えすぎなんだと思う。
「あー、あのさ」
「ん?何ですか?」
目線を落として言いにくそうに口を開く。
「実はもう俺の家には全く食料がないんだよ」
「え?」
「未來は中学に通ってるから昼飯は給食として出るんだが、俺は昼飯を食べる金がなくて何も食べてない。その俺の残った昼飯代を何とか増やすと試みたんだが無駄だった見事に失敗したんだ」
「あんたさっき倒れたのマジで野垂れ死んでただけってわけ?」
「朝から何も食べてない」
それで動けなくなって倒れてたんだ。
「昨日、子安さんと未來は友達になったんだってな」
「はい。携帯番号も交換しました」
これで藤崎さんに襲われた時も家を出ることになっても大丈夫だよね。
「その未來の友達としてお願いがあるんだけど」
「何ですか?」
「その・・・・・すごく言いにくいんだけど、今日晩御飯をおごってくれないかな~なんてね」
「あんたって社会人って言うプライドないわけ?」
「うるさいな!このまま未來の晩飯が俺になりかねない!」
未來ちゃんは日ごろから藤崎さんにどんなことをしているんだろう?
「私は別にいいですよ。しばらく、家に私しかいないし何人来ても構わないですよ」
「ダメよ。陽子」
「なんで?」
「こういう奴はね一度侵入を許すとそれをいいことに何度でもあんたの家にご飯をたかりに来るようになるわよ」
そういうものなの?
「それに関して大丈夫だ」
自信満々に告げる。
「その根拠はどこにあるの?そもそも、仕事はちゃんと探してるの?」
「さ、探してる」
言葉が一瞬だけ詰まる。
「探してるならこんな時間になんでパチンコやってるの?」
「それは」
「楽にお金を稼ごうなんて考えてるでしょ。その考えが甘いのよ。ひとりの子供を成人にまで育てる覚悟があるのならば楽をするという考えを捨てなさい。中学生に生活の心配させるとか大人として失格よ。それに加えて食費の助けにその未來ちゃんの友達の陽子に頼るとかもう最低よ。あんたみたいなクズはさっさと消えればいいのよ」
「ちょっとキョーコちゃん落ち着いて」
怖いおばちゃんみたいになってるよ。
「陽子も陽子よ!こんな奴の相手をする必要すらないのよ!未來ちゃんはいいけど、こいつはダメよ!何もかもが胡散臭い。どうして未來ちゃんといるのか、なんで仕事をしないのか、それにあたしが一番気に食わないのは仕事を真剣に探そうとしていないへらへらしているところよ!」
よくそんなに藤崎さんの心をピンポイントで突き刺すようなことをボンボン言えるよね。
「何も知らないくせに」
「何か言った?」
「いや、すべてあんたの言うとおりだ。俺は確かに仕事を探そうとしていない。未來の保護者として失格だよ。否定はしない」
「なら、未來ちゃんを」
手放せとキョーコちゃんは言うとしたのは分かった。何度もこんな低変な藤崎さんといっしょにいると将来的によろしくないっていつもキョーコちゃんとふたりで話している内容だから。私自身は藤崎さんが無職で働こうとしないダメ人だけど誰よりも未來ちゃんのことを思ってる。昨日の電話がそれを象徴してる。
それでもキョーコちゃんは藤崎さんから未來ちゃんを離そうとしている。それはキョーコちゃん自身の経験からきている。
「未來を手放せと?」
キョーコちゃんが言い切る前に藤崎さんが口をはさむ。
「別に未來と俺を離してもかまわないぞ」
「・・・・・・はぁ?」
え?どうして急に吹っ切れたの?
「だが、未來自身がそれを拒むだろうな」
「どうしてよ?」
「それは未來自身に聞け。今日もこの商店街のどこかで猫と戯れてるだろう」
そう言い残してその場を立ち去ろうとする。で、数メートル歩いたところで倒れて動かなくなる。
「キョーコちゃん。私未來ちゃんよりもあの藤崎さんをどうにかしないといけない気がする」
「あんな痛々しい奴とこれ以上関わるのに頭が痛くなるわ」




