買い物にて
「本当にいいの?後悔しない?」
「別に大丈夫だよ。ここ最近はキョーコちゃんも泊まってるくらいだから」
「本当に?本当にいいの?」
「大丈夫だって」
興奮気味の未來ちゃんを押さえながら倒れて動かない藤崎さんを引きずりながら私とキョーコちゃんと商店街で藤崎さんを待っていた未來ちゃんを連れて私の家に向かっている。未來ちゃんも今日の分の食料が家にないことくらい分かっていたらしくどうしていいか考えてみたいだけど中学生にできることなんて正直ないからどうしようと未來ちゃんを悩んでいたみたいだ。
「藤崎大丈夫なの?」
「燃料切れで動かないだけよ」
「まぁ、良いけど」
何か心配そうなまなざしを藤崎さんに送るのを私は見た。何度も私の家に行っていいのかと確認を取って来たのもなんか不自然だった。そのことを藤崎さんに相談したいような感じもしているけど肝心の藤崎さんが空腹で倒れてしまって動かない。
「まず、家に行ったら藤崎さんの蘇生から始めようね」
「は、はい」
「でも、どうやって?さっきは声を掛けただけで起きたけど今はこれだけ長距離引きずってもピクリとも動かないじゃない。もしかして死んでるんじゃないの?」
「それはないです」
なぜか未來ちゃんが即答する。まっすぐとした目で。それに少しひるんだキョーコちゃんは間をおいて提案する。
「な、なら最近復活したハバネロスナックを大量の口の中に流し込むのはどうかな?」
「いいですね!」
「ついでにからしチューブとかわさびチューブとかも口の中に捻じ込むのはどうよ?」
「流し込むのにタバスコを使うのがいいかもしれないね」
「ふたりともなかなかいいアイデアです。陽子さんの家に全部ありますか?」
「あるけど、やっぱりたくさんあった方が楽しいよね」
「そうと決まればさっそく買い物よ」
「お前ら俺を殺す気か!」
「あ。起きた」
引きずられていた藤崎さんがようやく目を覚まして立ち上がる。
「大丈夫。藤崎は死なないから」
「そうなんですか!」
「なら、いっしょに唐辛子とかも詰め込んで大丈夫ね」
「待て!俺はもう起きてるよ!起こす必要ないよ!見て!お願い見て!」
そんな騒ぐ藤崎さんを無視して最寄りのスーパーに入り買い物かごを押す。どちらにしても私に未來ちゃんにキョーコちゃんに藤崎さんの4人分の食料があるはずもないので買い物に行くのは仕方ないことなのである。
「未來ちゃんは普段料理どうしてるの?」
「わたしですか?そうですね。藤崎がいるときは藤崎がやって私がいるときは私がやるみたいな結構きまぐれですけど料理自体はやる方です」
藤崎さんも料理するんだ。全然想像できないな。
「何作ります?」
「人数的にもカレーかな?」
とりあえず、ニンジンとジャガイモを籠の中に放り込む。
藤崎さんとキョーコちゃんの姿が見当たらないと思ったら、調味料のコーナーでタバスコやらハバネロソースやらを抱えているキョーコちゃんを必死に止めようと奮闘している藤崎さんの姿があった。なんか楽しそうなのでそっとして置こう。
「お願いだから助けて!」
無視無視。
次にお肉を選ぶ。普段から買い物に来ているのか未來ちゃんもどれにしようと悩んでいた。
「いつも藤崎さんと来るの?」
何気なく訊いてみる。
「この時間帯は基本ふたりで」
この時間帯はというのがどうも引っかかる。
見た感じだと未來ちゃんはしっかりしてるし、気も強い。まだ、4月で日もそれなり長い時期にもかかわらず夕方になれば藤崎さんと共に行動してそれをしないと昨日のように激怒する藤崎さん。何か隠しているような気がする。
すると未來ちゃんが安くてそれなりの量のある鶏肉を見つけてくれてかごに入れてくれた。なんだかうれしそうな顔をしていた。買い物を純粋に楽しんでいるようだ。
考えすぎかな?
「未來?」
藤崎さんが戻って来た。
「もう、キョーコちゃんはいいんですか?」
「相手をするだけのパワーは残ってない」
ああ、朝から何も食べてないんだった。
「未來、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。心配しなくてもいいから」
このちょっとしたやり取りに違和感を感じた。
「未來ちゃんどこか悪いところでもあるの?」
「い、いや!特にどこも」
目をそらす。
「あの気になることがあるんですけど、聞いていいですか?」
「何を?」
とぼけるように藤崎さんが反応する。
「何か隠してません?」
単純にストレートに聞いてみた。なんかもやもやとしたものがこのふたりの関係の前に立ちふさがって先が見えない感じで知っているようでこのふたりのことを何も知れない。その先に昨日未來ちゃんが言った後悔があるのだろうか?
でも、私の質問に藤崎さんはこう答えた。
「別に何も?俺たちに隠し事をするようなことは何もないよ」
きっぱりと言われてしまってそれ以上は何も言えなかった。
「あれ?籠の中に緑黄色野菜の姿がある・・・・・だと」
ああ、ニンジンとかのこと?
「そうか、ついに野菜を克服したか」
「別に。今でもにんじんは嫌いのままだけど」
「じゃあ、普段一緒に買い物すると俺の入れた野菜をことごとく元の場所に戻そうとするじゃないか。今日は例外だというのか?」
「なんだかかわいいね」
「か、からかわないでください」
頬を赤く染めてぷいっと目線を外される。機嫌を損なって無視されたんだけどすごくかわいい。抱きしめたい。もこもこの人形みたいに。
「そ、それに藤崎に好き嫌いであーだこーだ言われる筋合いはない!」
「は!嫌いな食べ物が買われそうになるだけで拒否するようなお子様の言葉など今の俺に訊く耳は持たない!」
なんか勝ち誇った顔でドヤ顔。普段どれだけ未來ちゃんとのケンカで負け続けてきたのかがすぐに分かってしまうような態度だ。藤崎さんも苦労しているんだな。
「好き嫌いに関してあんたも同じでしょ!この間お隣のおばあちゃんからもらった砂肝食べないで捨てたでしょ!」
「な!なんでそれを!」
「今週のゴミ当番はわたしです~。あんな目立つように生ごみ入れに砂肝が捨てるとかバカじゃないの?小学生でも嫌いな食べ物を捨てるときはばれないように工夫するものよ。少しゴミ箱の奥に入れるとか上に何か別のゴミをかぶせると。そんな悪知恵も働かないの?小学生からやり直せば?」
「言いたい放題に言いやがって小娘が」
怒りをがんばって押さえてる。こんなところで大の大人が中学生に対して本気で怒っているようなところを見られたみっともないよね。しかもその内容が口げんかで中学生に圧倒されているとなればもう恥だよね。
「ふん。好き嫌いについてとやかく言うようではまだまだガキだな」
「そうやって逃げるんだ。弱虫!逃げ腰!雑魚!無職の底辺野郎!」
「テメー何様じゃ!」
あ、怒った。
「誰のおかげで今まで飯が食えたと思ってやがる!ひとり泣きわめいてたお前を温かい家に招き入れたのはどこのどいつだ!」
「別に頼んだわけじゃないし!あんたが勝手にそう言って連れてきたんじゃない!いつまでいてもいいよって言ったら今でもこうしていっしょに暮してるんじゃない!別に私からすがった覚えはないし!」
ああ、なんかこんなところで言っちゃまずいような内容まで出てきたよ。
「それに今日はその藤崎がご飯食べさせてくれなくなっちゃったじゃん。無職のせいでお金が無くなったのは誰のせいよ!」
痛いところを何度も突かれている藤崎さんは心が折れそうになって目じりに涙がたまっている気がするけど、負けじと言い返す。
「そもそも、こんな食糧難になったのはお前らが焼肉でバカ食いしたせいだろ!」
・・・・・・あれ?それって私も入ってない?
「バカ食いしてたのはあんたもいっしょでしょ!しかも、頼むのはわたしたちのより相当高い特上カルビとかばっかりじゃない!」
「そうですよ!」
一応言い返してみるけど、藤崎さんは今未來ちゃんとケンカしているようで私のことは目にもくれない。でも、よくよく考えてみると一番食べたの私だよね・・・・・・。
「あんたら仲いいわね」
相手にされなくなって不機嫌になったキョーコちゃんが胸にわさびとタバスコと生姜とハバネロソースと一味と唐辛子を手に抱えてやって来た。
「本物の家族みたい」
キョーコちゃんが珍しく小声でらしくないことを言った。恥ずかしくなったのかそのまま持ってきたものを籠の中に放り込んで走ってどこかに行ってしまった。
「ちょっと待て。これどう考えても必要ないものばっかりだよな?」
藤崎さん復活計画は未だに進行中のようだ。
「・・・・・・ハバネロが足りないわ」
「必要ない!」
そう怒鳴るとキョーコちゃんがもってきたものを一式抱える。
「どいつもこいつも世話の焼ける」
「どこに行くんですか?」
「買わない物は元の場所に戻す」
なんか無職で胡散臭くて感じがするけど根本はまじめみたいだ。
「なんか変でしたね?」
「何が?」
「・・・・・・キョーコさん」
「ああ」
まぁ、未來ちゃんと藤崎さんの関係をよくないって一番思ってるのはキョーコちゃんなのだ。
「キョーコちゃんね、お父さんとお母さんが別居中なんだって」
「え!」
話していいのかなと言い出してから思った。でも、キョーコちゃんなら今更知られたところでどうなろうと知ったことじゃないって言いそう。それに自分の現状を特に知られたくないとかひた隠しにするようなタイプじゃないのを私は知っている。そんなことよりも彼氏がいる友達がいる。それだけであの子は楽しいそうなのだ。
「お母さんと二人で暮らしててたまに知らない男の人が家に上がってくるんだって。一度、襲われて犯されそうになったこともあるって言ってた」
それを聞くと未來ちゃんが青ざめる。中学生には刺激が強いかな?
「でね、家に帰るの結構嫌なんだって。だから、無職でちゃらんぽらんな藤崎さんとふたりで暮らしてる未來ちゃんのことを結構心配してるんだよ。私も心配だけどあの子は私の何倍も未來ちゃんのことを気にかけてる」
「・・・・・・一見怖そうな人なんだけど」
「すごく優しい子だよ」
そう、その優しいところを出すのが下手なところも私は知っている。そういうのを含めてキョーコちゃんのことは好きだ。もちろん友達としてだよ。
「だから、さっき家族みたいだって」
「うらやましいじゃないかな?」
しばらくキョーコちゃんの走り去っていった方角をボーっと見つめている。すると何かを決心したかのようにコクリと頷く。
「後で番号を交換しよう・・・・・かな?」
緊張した面持ちでガラケーを取り出す。友達の少ないらしい未來ちゃんにとっては連続で電話帳に友達の名前が登録されることが慣れないことなんだろう。でも、その必死に頑張る未來ちゃんの姿も私は好きなのだ。
大好きな物に囲まれる幸せをかみしめつつ私たちは買い物を進める。
どこにでもある日常。




