課題
「お茶です。どうぞ」
「ありがとうごさいます」
俺は冷蔵庫にあった2リットルペットボトルの麦茶をコップに注いで机に出した。
ワンルームの部屋の真ん中に丸机があり、壁側にはベットがある。
一人暮らしでは何不自由なく過ごせるが、いざ人を入れると少し狭く感じる。
客人にお茶をだす。こんな時に出すのは、温かい緑茶のイメージがあったけど、一人暮らし大学生の部屋に生憎そんな用意はない。
「というか、お茶とかって飲めます?天使……なんですよね」
「あっ大丈夫ですよ!人間の生活環境に適応するので。嫌いなものもありません」
「そ……そうなんですね。それは良かったです」
人間の生活環境に適応なんて言われても正直次元が違いすぎて分からないが、飲めるなら良かった。
「では、改めて今回のことについて説明しますね」
アリスは出された麦茶を一気に飲み干し、勢いよく立ち上がる!
その拍子に大きな翼も動き、抜け羽?(抜け毛ではないだろう)が落ちる。
「いや、座ってください。あと、できれば翼とかって仕舞えたりします?」
掃除はめんどくさいので急いで座らせる。
翼も天使なら仕舞えるだろう。ここまででも結構ファンタジーめいた現象を見せてくれているし。
「そうですね。私としたことがすみません!少し興奮しちゃって。姿も人間の姿に変身しますね」
そう言うとアリスの体は謎の光に包まれ、眩しすぎて見えなくなる。
……その光があれば地球のエネルギーの代わりになりそう。少なくとも俺の部屋の電気代くらいは余裕で賄えそう、なんていう戯言は置いておこう。
眩しい光が徐々に薄れ、彼女の姿が見えてくる。
「すみません。服装はそこのポスターを参考にしました」
アリスは白いワンピースに紺色の羽織りというコーディネートになっていた。
参考にしたのは俺の部屋に唯一飾られた女優のポスター。2年生だったか3年生だったか、サークルのプレゼント交換会で友達から貰ったポスターだった。特にその女優を推していた訳ではなかったが、貼ったことで少しだけ部屋が明るくなったとは思う。
翼も無くなった彼女は一回り小さくなったように見えた。
「では、改めて説明しますね」
「よろしくお願いします」
彼女は見習い天使で、今は一人前の天使になるための卒業試験中。
1ヶ月の期間中で、下界の人間10人の幸福度を上げることが課題らしく、残り1人でクリアらしい。期間は残り1週間。
「でも、なぜ俺なんですか?」
俺は正直気になっていた疑問をぶつける。色を変えるという目的は聞いていたが、そもそも色というのが何か分からない。
それに俺は不幸な人間ではないだろう。大学に通えて、一人暮らしもできて。十分幸せの部類だ。
……今はそんな幸せの時間も虚しい時間として浪費しているが。
「天使には3つの能力があるんです。1つ目は天使の目。これで人間の幸福度を見ることができるんです。人間にはオーラのようなものが身体中を纏っていて、色によって幸福度が分かるんです。幸福なら赤。不幸なら青です」
「へぇ。それで俺は青だったと?」
「いや、それが違うんです!ヒロトさんは白色だったんです。全く他の色が混じっていない真っ白!他の人はそんな色をしていないので、それで気になって。最後の1人はヒロトさん決めて、1週間で赤色にしようと決めたんです!」
「それは……ありがとうございます。でもどうやって?」
「よくぞ聞いてくれました!それが天使の能力2つ目。天使の羽です。この羽で起こす風は小さな奇跡を起こすんです。青信号をいつもより長く表示させたり、落とし物を持ち主の近くまで届けたり、いろいろ。そして、3つ目の能力ですが……今は説明いらないでしょう」
「なるほど、じゃあ天使の羽で俺の幸福度を赤くすると」
「実はそうしたいのですが、それがなかなか難しくて。普通ならその不幸の状況が見えてますからね。何をすればいいのかわかるのですが、ヒロトさんは生憎、白。何をどうして奇跡を起こせば良いのか分からなくて」
「何かやって欲しいことはありますか?」
「そうですね。何かして欲しいことですか……」
「そうです!なんでもいいですよ」
何かして欲しいこと。
そう言われるとなかなか思いつかない。……やって欲しいこと。……やって欲しいこと。
どうせ俺、暇だしな。
……あっ!
「一緒に出かけることとかって、できますか?」
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