第26話:うるさい初詣(1)
年が明けて最初の休日。杏里は朝からハンドルを握っていた。
助手席には親友の結衣。そして後部座席には、左から鍋島、健人、林田が並んでいる。
大人五人、ぎりぎり。乗れなくはないが、快適さとは程遠い。
「ちょっと待って、なんでこんなに狭いの」
早速、右端の林田が文句を垂れた。
「自分で『来る』って言ったんでしょ」
杏里は前を向いたまま冷静に返す。
「いや、言ったけどさ! 男三人横並びの圧迫感、想像以上だって」
「……俺も、それには同意するわ」
真ん中に挟まれた健人が、心底窮屈そうにぼそっと呟く。
「俺は別に。快適ですよ」
左端の鍋島だけが、窓の外を眺めながら妙に落ち着いていた。
「なべさん、それ余裕ある人の発言だよ。……杏里、やっぱり私ら二人で来ればよかったかなって、今一瞬思った」
「一瞬じゃないでしょ」
杏里がハンドルを切る。
「たぶん、出発して十分後くらいから思ってる」
「バレた?」
車内は出発早々、すでに相当な騒がしさだった。
結衣と林田がどうでもいいことで言い合いを始め、健人がそこにちょっかいを出し、鍋島が時折ボソッと的確なツッコミを入れる。
杏里は運転に集中しながらも、どっと疲れる予感にこっそり溜息をついた。
道中、トイレ休憩を兼ねてコンビニに寄ることになった。
五人でぞろぞろと店内に入り、杏里は温かいお茶を、結衣はカフェラテを手に取る。ふと見ると、男三人はなぜかおにぎり売り場の前で固まっていた。
「杏里ちゃんってさ、ツナマヨより鮭派だろ?」
健人が、棚をじっと見つめたまま言う。
「いや、明太子か昆布じゃない?」
林田が面白がるように横から口を挟む。
「……杏里さん、梅はそこまで選ばないですよ。買うなら、昆布一択です」
鍋島がごく自然に、けれど確信を持って言った。
少し離れた場所でその会話を耳にした杏里は、眉をひそめて結衣を振り返る。
「……何してるんですか、あの人たち」
「知らない。でも、嫌な予感しかしないね」
予感は的中した。
店を出たあと、後部座席で三人がそれぞれ「これだろ」という顔でおにぎりを掲げ始めたのだ。
「で、どれ? 杏里ちゃん、これだろ?」
健人が鮭を差し出し、身を乗り出す。
「いえ、こっちを選ぶはずです」
鍋島が静かに昆布を見せる。
「なんなの、その張り合い」
結衣が即座に呆れ顔になる。
「お兄ちゃんもなべさんも、地味に競うの本当にやめて。恥ずかしいから」
「いや、純粋に気になって」
「俺もです」
鍋島まで健人のペースに乗せられているのが、杏里としては少し意外だった。ミラー越しに視線を送ると、ツナマヨを掲げた林田がヘラヘラと笑っている。
「林田さんまで、なんで混ざってるんですか」
「だって面白いじゃん」
杏里は深く、今日何度目か分からない溜息をついた。
「……昆布です」
一瞬、車内が静まり返る。
「ほら」
鍋島が、小さく、けれど誇らしげに呟いた。
「え、でも鮭も好きだよな?」
「好きですけど、今選ぶなら昆布です。あと、運転中に私の好みで勝負しないでください。危ないから」
林田が堪えきれずに吹き出す。
「『勝負』って言われたぞ、お前ら」
「勝負でしょ、どう見ても」
結衣が窓の外を見やり、力なく呟いた。
「杏里、本当にごめん。私、今かなり本気で後悔してる……」
神社に着く頃、杏里の疲労感はすでにピークに達しようとしていた。




