表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三日月ロケット、居候中  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/63

第26話:うるさい初詣(1)

 年が明けて最初の休日。杏里は朝からハンドルを握っていた。


 助手席には親友の結衣。そして後部座席には、左から鍋島、健人、林田が並んでいる。


 大人五人、ぎりぎり。乗れなくはないが、快適さとは程遠い。


「ちょっと待って、なんでこんなに狭いの」


 早速、右端の林田が文句を垂れた。


「自分で『来る』って言ったんでしょ」


 杏里は前を向いたまま冷静に返す。


「いや、言ったけどさ! 男三人横並びの圧迫感、想像以上だって」


「……俺も、それには同意するわ」


 真ん中に挟まれた健人が、心底窮屈そうにぼそっと呟く。


「俺は別に。快適ですよ」


 左端の鍋島だけが、窓の外を眺めながら妙に落ち着いていた。


「なべさん、それ余裕ある人の発言だよ。……杏里、やっぱり私ら二人で来ればよかったかなって、今一瞬思った」


「一瞬じゃないでしょ」


 杏里がハンドルを切る。


「たぶん、出発して十分後くらいから思ってる」


「バレた?」


 車内は出発早々、すでに相当な騒がしさだった。


 結衣と林田がどうでもいいことで言い合いを始め、健人がそこにちょっかいを出し、鍋島が時折ボソッと的確なツッコミを入れる。


 杏里は運転に集中しながらも、どっと疲れる予感にこっそり溜息をついた。


 道中、トイレ休憩を兼ねてコンビニに寄ることになった。


 五人でぞろぞろと店内に入り、杏里は温かいお茶を、結衣はカフェラテを手に取る。ふと見ると、男三人はなぜかおにぎり売り場の前で固まっていた。


「杏里ちゃんってさ、ツナマヨより鮭派だろ?」


 健人が、棚をじっと見つめたまま言う。


「いや、明太子か昆布じゃない?」


 林田が面白がるように横から口を挟む。


「……杏里さん、梅はそこまで選ばないですよ。買うなら、昆布一択です」


 鍋島がごく自然に、けれど確信を持って言った。


 少し離れた場所でその会話を耳にした杏里は、眉をひそめて結衣を振り返る。


「……何してるんですか、あの人たち」


「知らない。でも、嫌な予感しかしないね」


 予感は的中した。


 店を出たあと、後部座席で三人がそれぞれ「これだろ」という顔でおにぎりを掲げ始めたのだ。


「で、どれ? 杏里ちゃん、これだろ?」


 健人が鮭を差し出し、身を乗り出す。


「いえ、こっちを選ぶはずです」


 鍋島が静かに昆布を見せる。


「なんなの、その張り合い」


 結衣が即座に呆れ顔になる。


「お兄ちゃんもなべさんも、地味に競うの本当にやめて。恥ずかしいから」


「いや、純粋に気になって」


「俺もです」


 鍋島まで健人のペースに乗せられているのが、杏里としては少し意外だった。ミラー越しに視線を送ると、ツナマヨを掲げた林田がヘラヘラと笑っている。


「林田さんまで、なんで混ざってるんですか」


「だって面白いじゃん」


 杏里は深く、今日何度目か分からない溜息をついた。


「……昆布です」


 一瞬、車内が静まり返る。


「ほら」


 鍋島が、小さく、けれど誇らしげに呟いた。


「え、でも鮭も好きだよな?」


「好きですけど、今選ぶなら昆布です。あと、運転中に私の好みで勝負しないでください。危ないから」


 林田が堪えきれずに吹き出す。


「『勝負』って言われたぞ、お前ら」


「勝負でしょ、どう見ても」


 結衣が窓の外を見やり、力なく呟いた。


「杏里、本当にごめん。私、今かなり本気で後悔してる……」


 神社に着く頃、杏里の疲労感はすでにピークに達しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ