第25話:あたたかいクリスマスと年明けの約束(2)
一方、その頃。
クリスマスの夜を、健人は自分の部屋で過ごしていた。
相手は可愛い女の子……ではなく、なぜか林田だ。
テーブルの上にはスーパーで買ってきたオードブルが広がり、缶チューハイと缶ビールが適当に並んでいる。賑やかといえば賑やかだが、華やかさのベクトルが根本から違っていた。
健人は缶を開けながら、深い、深い溜息をついた。
「……クリスマスくらい、女の子と過ごしたかったわ」
「たまにはこんなクリスマスもいいじゃん」
向かいで唐揚げをつまんでいた林田が、けろっとした顔で返す。
「どこがだよ。男二人でオードブル囲んで缶酒って、だいぶ寂しいだろ」
「そう? 俺は結構好きだけど。気ィ遣わなくていいし、好きなタイミングで食えるし」
その言葉に、健人は少しだけ肩の力を抜いた。
「……まあ、お前なら気ィ遣わないで済むから、そこだけはマシだけど」
「お、今ちょっと嬉しいこと言った?」
「言ってない」
「言ったって。“お前ならいいか”って。俺のビジュが良すぎて、そんなことどうでもよくなってきた?」
「なるわけないだろ。お前、本当にその根拠のない自信だけは一貫してるな」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
そんな軽口を叩き合いながら、二人でだらだらと飲み続けた。
健人がマッチングアプリの愚痴をこぼし、林田がライブの失敗談を話し、途中からは芸人シェアハウスの変な住人の話で笑い転げる。
外は冷え込んでいるはずなのに、部屋の中は暖房とアルコール、そしてとりとめのない会話の熱気で妙にあたたかかった。
「……眠い……」
林田がソファに身体を沈めながら、呂律の怪しい声で言う。
「寝るなよ」
健人が注意した時には、もう半分くらい目が閉じていた。
「大丈夫……まだ、起きてる……」
「それ、一番信用できないやつだから」
健人もグラスを持ったままソファに深くもたれた。次第にテレビの音も遠のき、意識は微睡みの中へと溶けていった。
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翌朝。
最初に感じたのは、肩のあたりに伝わる妙な重みだった。
健人はうっすらと目を開け、次の瞬間、一気に意識を覚醒させた。
「うわっ!」
反射的に身体を起こす。というか、ほとんど突き飛ばすような勢いで飛び起きた。
横を見ると、林田が寝ぼけた顔でぐらりと揺れている。いつの間にか、ソファの上で健人の肩にもたれかかるようにして眠っていたらしい。
「は……? 何でこうなってんだよ」
「……おはよ……」
「おはようじゃねぇよ。何で人の肩を枕にして寝てんだ」
「え、なに……落ちた?」
林田は自分が押しのけられた理由も分からないまま、ぽけっとしている。
「落ちてない」
「じゃあ何」
「知らねぇよこっちが聞きたいわ」
健人は乱れた髪をかき上げながら、大きく息を吐いた。
(こいつ、最近妙に距離が近い気がする……)
前から遠慮のない奴だったが、寝落ちして肩にもたれてくる距離感は、さすがに無防備すぎないだろうか。
林田はまだ眠そうなまま、ソファの背にもたれかかった。
「健人んちのソファ、意外と寝やすいんだな」
「感想はいらない。……というか、さっさと起きろ」
その時、テーブルの上で放置されていた健人のスマホが震えた。
画面には、妹・結衣の名前。
「結衣……? こんな朝から珍しいな」
メッセージを開いた瞬間、健人の瞳が輝いた。
『年明けの初詣、ちょっと有名な神社に杏里と行く約束してるんだけど、せっかくだからみんなで行かない?』
「行くに決まってるだろ!」
勢いよく立ち上がり、その場で即レスする。思わずガッツポーズまでしていた。
後ろで林田が目を細めて状況を伺っている。
「え、なになに?」
「初詣。杏里ちゃんと行く約束してるらしい」
「へえ、お前も行くの?」
「行くに決まってるだろ! 絶好のチャンスだ」
間髪入れずに返しながら、健人はもう頭の中で年明けの勝負服を選び始めていた。
その時、追撃の通知が入る。
『ただし、余計なことはしないでね。お兄ちゃんは財布要員だからね』
「財布要員ってなんだよ!」
思わず叫んだ健人の横で、林田が吹き出した。
「ははっ! 結衣ちゃん辛辣すぎ。お前、妹にそこまで言われてんの?」
「兄に対する敬意がなさすぎるだろ……」
「でも、行くんでしょ?」
「行くよ! 杏里ちゃんと会えるなら、財布にだって何にだってなってやるよ!」
「財布要員でも?」
「うるさい!」
林田はソファに座ったまま、楽しそうに健人を見上げている。
「お前、本当分かりやすいよな。じゃあ、俺も行こうかな」
「お前は何要員だよ」
「え? 俺は……『普通に楽しそう要員』」
「いや適当すぎるだろ」
言い合いながらも、健人は気分が上向くのを感じていた。
クリスマスは男二人で終わってしまったが、年明けにはまた杏里と会える。それだけで、この気まずい朝も許せるような気がした。
結衣の警告は守らなければならない。だが、杏里と会うためなら「財布要員」の屈辱くらい、どうということはなかった。
そう決意する自分に少しだけ呆れながらも、健人は次に来る新しい季節を心待ちにするのだった。




