第24話:カフェと作戦と空振り(1)
あの飲み会以来、健人と林田は妙に気が合っていた。
最初はたまたま帰り道が同じになっただけだった。それが次は林田から「今日ちょっとだけ飲まない?」と連絡が来、その次も、そのまた次も林田からの誘いだった。
健人としては、最初こそ「なんで俺がこいつと」と辟易していたのだが、いざサシで飲んでみると、林田は思った以上に話が早く、変に気を遣わなくて済む相手だった。
うるさい。けれど、ただうるさいだけではないのだ。
空気の読み方が独特で、他人の懐に潜り込むのが妙にうまい。それはたぶん、芸人として磨かれた生存本能のようなものだろう。気づけば健人も、何度目かの誘いには迷わず乗るようになっていた。
その日も、二人は駅近くの居酒屋でグラスを傾けていた。
「いやー、お前ほんと、最初よりだいぶ俺に慣れたよな」
林田が枝豆を放り込みながら笑う。
「お前が勝手に距離を詰めてくるんだよ。慣れる前に入り込んできやがって」
「褒め言葉として受け取っとくわ」
「褒めてない」
健人は呆れたように返しながらも、酒を煽る。林田はそんな素っ気ない態度を全く気にしない。
「で?」
林田がニヤリと口角を上げた。
「今日は何だよ。なんか頼み事がある時の顔してるけど」
健人は少しだけ沈黙した。
「……分かりやすいか?」
「分かりやすいね。そういう時、お前ちょっと真面目な顔になるし」
そこまで見透かされているなら、隠すのも手間でしかない。健人は小さく息を吐いて、グラスを置いた。
「ゆみりんってさ」
「お、急にそっち来たな」
「カフェ巡りが好きなんだろ。……いい店を知ってるからって口実で、ちょっと会わせてくれないか?」
林田は一瞬だけ黙り、それから露骨に嫌そうな顔をした。
「うわあ……」
「何だよ、その顔」
「いや、お前マジでやるんだなと思って。杏里ちゃんルートを攻めるだけじゃなくて、外堀から埋めるわけ? 器用だねえ、策士健人くんは」
「違う。俺が気になってるのはあくまで杏里ちゃんの方だ」
健人は眉を寄せたが、林田は逃がさない。
「じゃあ何でゆみりんちゃんに会う必要があるんだよ」
そこを聞かれて、健人は少しだけ声を潜めた。
「……利害が一致しそうだからだ」
林田の目が、一瞬で鋭くなった。ふざけた態度の裏で、頭が高速回転を始めたのがわかる。
「なるほどね……だいぶえげつないこと考えてんな?」
「えげつないとは心外だな。向こうだって、鍋島のことは気になってるだろ。だったら情報交換くらいできると思っただけだ」
「情報交換、ねえ」
林田はグラスを持ち上げた。
「まあ、会わせるだけならいいけど。ただし、俺も同席するぞ」
「なんでだよ」
「面白そうだから。あと、お前が変な方向に暴走したら止める係だ」
数日後。三人は駅から少し離れた、静かなカフェで顔を合わせることになった。
白壁に木のテーブル。焼き菓子の甘い匂いが漂う、落ち着いた店だ。健人が以前、仕事の関係者に教えてもらった「とっておき」の場所だった。
健人と林田が待っていると、店のドアが開いた。
「すみません、お待たせしました……!」
私服のゆみりんは、ステージの時のような華やかさはないものの、それでもパッと目を引くオーラがあった。淡い色のニットにロングスカート。自然体なのに、細部まで手入れが行き届いている。
そして店に入った瞬間、彼女の瞳がキラキラと輝いた。
「わあ……すごい、可愛いお店……!」
その素直な反応に、健人は内心でガッツポーズをした。
(――これはいける。)
少なくとも、店選びという第一関門は完全に突破した。




